1月29日(金)より公開中の映画「おもいで写眞」。
たった一人の家族だった祖母が亡くなり、メイクアップアーティストになる夢にも破れ、東京から富山へと帰ってきた主人公の音更結子(深川麻衣)が、お年寄りたちの“おもいで写真”を撮る中で、さまざまな人たちの感情と向き合いながら成長していく姿を描く物語。
フジテレビュー!!では、本作で、町役場で働く結子の幼なじみの星野一郎を演じた高良健吾にインタビュー。
一郎は祖母の遺影がピンボケだったことに悔しい思いをした結子に、お年寄りの遺影写真を撮る仕事を依頼し、結子をあらゆる場面で見守り、支えるという役どころ。
高良自身も好きだという一郎のキャラクターについてや、所属事務所の後輩でもある深川との共演で感じたことなどを話してもらった。また2021年を「楽しみしかない」と言う高良が、今、感じていることも明かしてくれた。
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誰にでもあり得ることをきっかけに始まる作品にやりがいを感じた
――本作の第一印象を教えてください。
遺影の写真がピンボケというエピソードは、確かに自分自身も思った問題で。誰にでもあり得ることをきっかけに始まる作品なので、まずそこにやりがいを感じました。
あとは自分がいる事務所の25周年を記念した特別な作品でもあるので、そこへの思い入れもありました。ほぼ同じ事務所のメンバーで作っているので、自分も頑張りたい、という気持ちでした。
――演じた星野一郎という役柄にはどんな印象を持ちましたか?
物語の最初、結子は自分らしさも、誰かの“その人らしさ”も全然大切にできなくて。自分の価値観や常識にはまらなければ、「わからない」と言って相手をはねのけてしまうけど、それに対して一郎は、その人らしさを大切にできる人です。
結子に対して、自分の思いを一回だけ言うのですが、それももうここでしかない、というポイントでしか言わない。いつも結子らしさを大切にしてあげていて、そういう優しさがある人だな、と感じていました。
――一郎は周囲のことを気づかいながらも、自分自身も東京へ出て、自分の力を試してみたい、という思いも抱えています。その辺りの気持ちはどのように理解していましたか?
自分も地方出身者なので、その気持ちはわかるなと思いました。地方に住んでいたら、その大小はあるにせよ、誰しもがわかる感覚で、ある意味でまっとうな悩みだと思います。なので、特別な感情という風には、自分は捉えてはいなかったです。
――熊澤尚人監督の演出はどうでしたか?
熊澤さんと最初に会ったのは、自分が上京したばかりの17、18歳ぐらいのときで。事務所の社長の紹介で挨拶をさせてもらったんですが、作品でご一緒するのは今回が初でした。
厳しいな、という印象です。それは自分に対して、というよりは深川さんに対してだったんですけど。自分に対しては、どちらかと言えば、好きにしてください、という感じでした。でも、好きにしてください、というのも、厳しいと言えば、厳しいんですよね。
深川さんはわかりやすくしごかれていたんですけど、それによって日々変わっていく姿を近くで見ることができたので、自分にとってはラッキーでした。なかなかそういう機会はないですから。
自分も20代の前半から中盤にかけて、そういう経験をしましたけど、振り返れば幸せな時間だったとも思うので。それを客観的な立場で見ていられたのは、いい経験になりました。
――でも逆に、好きにしてください、というのも、厳しいものなのですね。
最近思うのですが、モノのように扱われた方が、いいんじゃないか、って(笑)。もちろん自分ならどうしたい、というのはあるし、聞かれたら言いますけど、それを全否定されてもいい、というか。
むしろ、「お前ダメだな、俺が全部(芝居を)つけてやるよ」と言われても、そこに新しい自分が絶対に見つかると思うから。
海外の監督で、俳優のことを“モデル”と言う人がいるんですけど、そういう感覚で演出をされても楽しいだろうな、と思います。作品の中の素材の一つとして扱われる感じ。
自分がやりたいようにやっているときは、よくない可能性もあるので。自分の意見を言えることが、必ずしもいい仕事につながるとは、思わなくなりました。
――監督から厳しい指導を受けていたという深川さんに、高良さんから何か声をかけることはありましたか?
アドバイスはしないです。例えば、10のことを10アドバイスするのは、ちょっと失礼だとも思うし。1、2くらいならいいかも知れないけど、僕に言われなくても、深川さんは自分で気付けるから。自分で気付ける過程があるのに、僕が先に言うのはちょっと違うな、と思います。
――高良さんにとっては事務所の先輩に当たる、ホームヘルパーの樫井美咲役を演じた香里奈さんの印象は?
姉御(笑)。完全に姉御って感じです。めちゃくちゃかっこいいですよ。尊敬している先輩です。面倒見もいいし、それでいて厳しい面も持っていて、不器用なところもあるけど、すごく優しいので、スタッフに対しての気配りも素晴らしいし。昔からかっこいいな、と思っていました。会うと未だにテンションが上がりますね。
今回、同じ事務所の人が多くて、みんな同じホテルに泊まっていたのでよく一緒にご飯を食べに行っていたのですが、香里奈さんから誘われたときは、絶対に断らないようにしようって(笑)。そのくらい一緒にいると楽しいし、元気がでる方です。
常識や価値観よりも、その人らしさって大事
――高良さんが好きなシーンを教えてください。
最初の結子を乗せた電車が富山の海岸沿いを走っているところ。他にもたくさんあるんですけど、映画の一発目でこれから富山に行くぞ、富山で生きていくぞ、という意志が見えるのが好きですね。
――富山の景色で言えば、結子と一郎が街を見下ろせる丘で会話するシーンも印象的でした。
あの場所もいいですよね。言ってしまえばどこにでもあるような場所なんですけど、彼らにとっては特別で。この映画の中にはそういう他人にはなんてことなくても、その人にとっての大切な場所というのがあって、それが本当に何気ない場所で撮られているのがいいな、と思いました。
――ご当地感の押しつけがなくて、それだけに日常の延長戦上にある場所なんだ、というのが感じられました。
自分もそう思いました。あの丘も最初に行ったときは、どこにでもあるな、それこそ(高良の地元の)熊本でも探せばあるな、と思ったんですけど。そう思いながら何日か富山で過ごしていたら、その人にとって大切な場所であればいいんだ、という思いが沸いてきました。何気ない場所がクライマックスや、キーとなるところで使われているのが、この映画のいいところなんですよね。
――今回、撮影は富山でのオールロケで行われたそうですが、場所から影響を受けたことはありますか?
地方ロケだと自宅に帰らずにずっとその土地で過ごせるので、自分の場合はそれがプラスに働くと思います。自分は過ごしたことはないけど、役はそこで過ごしていたわけだし。それに東京での私生活がないから、役に集中できる、というのもあります。
――富山弁での演技はどうでしたか?
僕は関西弁以外の方言の役が来ると、ラッキーだなと思います。関西弁はみんなが聞き慣れているのもあって、ちょっと苦手意識もあるんですけど、それ以外であれば、方言をしゃべるだけでそのキャラクターが色づくから。一郎にしても、あの柔らかい雰囲気は、富山弁をしゃべることで出せるものでもあるし。
自分が役を演じるうえで超えなくてはいけないハードルがいくつかあるんですけど、方言があると、それを2、3個飛ばせるような感覚もあるので、自分は方言が好きです。
――高良さんが演じていてグッと来た場面はありましたか?
結子がその人にとって大切な場所を認められるようになったところ。靴屋さんでも、団子屋さんでも、それが嘘だったらダメ、みたいな、自分の考えの押しつけがましさが強かったけれど、段々とそれを受け入れられるようになっていって。あのシーンの積み重ね方はグッと来ました。
――改めて作り手側として、この映画を通して、どんなことが見る人に伝わったらいいな、と思っていますか?
やっぱりその人らしさを大切にできること、かな。僕が一郎を好きなのもそこだったので。結子がどれだけ間違いそうになっても、それが結子らしさでもあり、見守って、大切にしているところ。僕はそこがこの映画の一番の魅力だと思っています。
自分の常識や価値観から外れるものを、自分とは違うな、と感じることは普通だと思うんです。でもそれ以上に批判をしたり、叩いたりすることが、今は多いですよね。僕自身はそんなに自分の常識や価値観に自信がないから、そういうことはできないけど。
常識や価値観よりも、その人らしさって大事だと思うんです。今の時代、それが難しくて、逆に意識しないとできないことになってしまっているかもしれないけど。この映画では結子を通して、それを形にしていくところが描かれているので、そこが伝わったらいいな、と思いますね。
2021年は楽しみしかない。今はそれしかない
――高良さんが、今、“おもいで写真”を撮るとしたら、どこで撮りますか?
それこそ他の人とっては何でもない、熊本の河川敷とか。学生のころ、よく友達と集まって過ごしていた場所なので、その場所に行くと懐かしいし、嬉しい気持ちになりますね。
――逆につらかった思い出の場所を撮って、それを励みにする、というのもあるのかな、と。
確かにそっちもありますね。つらかったり、嫌だったりした場所で撮るのもありですね。例えば、映画「M」(2007年)でめちゃめちゃ怒られた場所とか。今となってはいい思い出だし、自分のパワーにもなるから、選ぶ可能性はありますね。
――本作は所属事務所の25周年記念の作品でしたが、高良さんは“周年”というものは意識しますか?
10周年のときは思うところはあったし、この先迎える20周年も考えると思います。一年で考えても、1月1日が一番好きな日で。なんかすべてをリセットしてもいいような気がするんです。むしろ自分の誕生日より、1月1日が好きかも(笑)。だから節目はわりと気にしますね。
――その周年の作品ということで、そこでの自分の役割について考えることはありましたか?
深川さんが主演ということで、確かに後輩ではあるんですけど、先輩面するつもりはなかったし、それよりも一郎として、この映画の中でどのような役割を果たすべきか、ということを考えていたと思います。
――ただ本作でもそうでしたが、年下の人たちを見守るような立場での作品も増えていますよね。
それは自然の流れだと思っています。20代のころは早く30代になりたい、と思っていて、実際になってからもう3年も経っているし。自分が年を重ねているぶん後輩が増えていくのは当たり前ですよね。
ただそれに対して気負うことはないし、何かを教えてあげなくちゃ、という気持ちもない。何なら(後輩から)教えてもらう気持ちです(笑)。一緒にしていて刺激を受けるし、勝ち負けの土俵に立っているつもりはないかな。
――先日、板垣瑞生さんが、憧れの存在として高良さんの名前を挙げていました。自分がそういう立場になることについては、どう感じますか?
瑞生は(ドラマ『精霊の守り人』(NHK)で共演して)よく知っているというのもあるけれど、それはありがたいと思うし、嬉しいですね。自分から何かアドバイスをすることはしないけど、聞かれたら思うことは言ってあげたいかな。
――2020年は、誰もが今まで通りには過ごせなくなった一年だったと思いますが、高良さんにとってはどんな年でしたか?また2021年に対する思いも教えてください。
コロナがあって、改めて考えるということはあったのですが、僕らの仕事はやりたくても2ヵ月とか仕事がないということは普段からありますし、そういう期間を自分で作ることもある。意識が変わる瞬間はあったんだろうけれど、それは毎年あることでもあるので。
2020年は自分の価値観の中で、好きと思うものに出会えた日が多かったと思います。自分に対しても、外に対しても、責めるということが少なかった。だからいい年だったんじゃないかな、と思います。
2021年は公開を控えてる映画もあるし、今はドラマを撮っていますが、その間にまた違う作品もあるし、楽しみしかない。今はそれしかないですね(笑)。
撮影:山口真由子 スタイリスト:渡辺慎也(Koa Hole) ヘアメイク:高桑里圭
<おもいで写眞>
たった一人の家族だった祖母が亡くなり、メイクアップアーティストになる夢にも破れ、東京から富山へと帰ってきた音更結子(深川麻衣)。祖母の遺影がピンボケだったことに悔しい思いをした結子は、町役場で働く幼なじみの星野一郎(高良健吾)から頼まれた、お年寄りの遺影写真を撮る仕事を引き受ける。
初めは皆「縁起でもない」と嫌がったが、思い出の場所で写真を撮るという企画に変えると、たちまち人気を呼ぶ。ところが、ある人の思い出が嘘だったとわかり、その後も謎に包まれた夫婦や、過去の秘密を抱えた男性からの依頼が舞い込む。
©「おもいで写眞」製作委員会
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