(後編)医療的ケア児や障がいのある子どもたちの〝お出かけ〟が当たり前になる社会へ向けて【AYA×ソイナース代表対談】
医療的ケア児、障がいのあるお子さんがいるご家庭にとっては「家族でお出かけがしたい」という気持ちがあっても、さまざまなハードルがあるのが実情です。
そうした課題の解決に向けて事業を行っている特定非営利活動法人AYAの代表理事 中川悠樹さんと、ソイナース代表の横山佳野の対談後編では、社会全体で変化が求められることと、今後の展望についてお話ししていただきました。
*前編
社会全体で変わっていくために必要な「相互作用」
ーー過去には、車椅子を利用されている方と映画館との間でトラブルが起こり、ニュースになりました。お二人は、利用者と事業者が手を取り合えるようにするには、どのようなアクションが必要だとお考えですか?
中川さん:その方のお気持ちは、とてもよくわかります。障がいのある方に限らず、人間は誰しも「もっとこうしてほしい!もっとこうなりたい!」という気持ちはあるものです。
今年の4月から「障害者差別解消法」が改正され「合理的配慮の提供」が義務化(※)されましたよね。個人的にこの改正に対して思ったことは、「障がい者」と「事業主」の2者間だけで話をまとめるのは、困難ではないかということです。障がい者の想いももちろん大事ですし、事業主が実践できることにも限界がある。この2者が、双方腹を割って話し合えれば良いのですが、現実的にはかなり厳しいと思います。イベントなどを開催すること自体は、比較的容易に実施できます。しかし、障がい者と事業主の双方が納得し、落とし所を見つけていかないと、良いイベントも継続していきません。
そういう視点から、AYAは両者の「架け橋」となる第三者的立場を担い、両者が気持ちよくイベントを継続できる設計をしています。そうしていかないと、日本全国の対象の子どもたちや家族の社会的プレゼンスは上がっていかないと思うんですよね。日本社会全体の対象者への見方を変えていきたいんです。日本人はみんな、ベースでは優しいので、AYAが考えている想いも、日本では実現できると思ってます。
※令和6年4月1日から「合理的配慮の提供が義務化」内閣府公式サイト(https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/pdf/gouriteki_hairyo2/print.pdf)
横山さん:とても納得します。ソイナースでも利用者とそのご家族、看護師さんの「三方良し」で、みんなが良い状態にならないといけないと考えています。もちろん、きちんとみなさんの声には耳を傾けますが、みんなが寄り添い合える関係性が必要です。感情的にならず建設的に、相互作用を考えて意見を言ってもらえたら、お互いに気持ち良いですよね。
お出かけにしても、やはり協力者の存在は必要ですし、人を巻き込めば巻き込むほど周りも自分も幸せになると思うんです。何か困っていることがあれば、感情的にならずに教えていただければ、「私たちはこういうことがお手伝いできます」と良い関係性が築けると信じています。
中川さん:良い関係性を築くことは、本当に大事ですよね。今のお話を聞いて、AYAは「場」を提供している団体だなと、改めて感じました。たとえば、我々が実施した「AYAインクルーシブ映画上映会2024春」のアンケート集計では、約70%ほどが「初めて家族で映画館で映画した」と回答しています。そこには、「子どもが病気や障がいを患って以降、家族で映画館に行くことは1度も考えていなかった」という背景があります。こういったご家族はそもそも、その「場」に行く選択を取って良いと思えておらず、「こんなことしたいけど無理だしな」と声をあげることすらできないんですよね。
やりたいことを声に出せたら、それを叶えてくれる人がいるかもしれませんが、やりたいことを声に出せない人、諦めてしまっている人に対し、AYAは安心して参加できる「場」を提供しているんだと思います。
ちなみに、アンケートからは「子どものことを考えると、健常者とのインクルーシブなイベントを正直望んでいない」というような声もあったのは印象的でした。我々のイベント、「インクルーシブ」って言いまくってますが(笑)。
横山さん:たしかに、インクルーシブが必ずしも良いわけではないですよね。無理にその場所に連れて行くよりも、その子に合った場所にいる方が望ましいし、その場所で大人がどう関わっていくかと考える方が、全体で良くなっていけるような気がします。
見出し:「障がい」は一括りにはできない。だからこそ、まずは繋がることが大切
ーー本当の意味でのインクルーシブを実現するためには、どのようなことが必要でしょうか?
中川さん:「障がい者」と言っても、肢体不自由な方や寝たきりの方など、いろいろな方がいますよね。イベントを開催してきて印象的だったのは、医療的ケア児を持つお母さんと発達障がいのお子さんのお母さんが繋がることができたと聞いたことです。個人的な意見ですが、まずはいろいろな病気や障がいのある方たち同士が繋がり手を取り合うことから始める、この方たちがまずインクルーシブな環境を手を取り合って作っていき、そこに健常の方が入っていく流れが自然ではないかと考えています。
横山さん:たしかに、中川さんの言う通りですね。ソイナースは医療的ケア児や重心の子を対象としていますが、知的障がいの子だとまた分野が異なるため、身体系の疾患を中心にやってきた看護師さんは、知的・精神の子との接し方を学ぶ必要があります。
医療的ケア児は、訪問看護や在宅レスパイトのサービスを受けられますが、知的障がいだけの子は何もサービスがないのが実情です。生命的な危機はないけど、癇癪を起こすなど、精神的に大変な部分があると思いますし、そういったサポート体制も必要だと思います。「障がい」を単純に比較をするのはとても難しいことですよね。
中川さん:はい、現状はそれぞれに悩みがあり、それぞれの顔を合わせての交流がない状態なのかなと思います。まずはそこがもっと手を取り合っていかないと、一般の方からすると他人事になってしまいますよね。
話は変わりますが、先日インタビューを受けた際「AYAは家族が映画館に行く夢を叶えていますね」と言われたことがあったんです。その方は決して悪くないんですが、私の中でしばらく違和感がありました。結論として「映画館に行く」を夢と言わせてる社会は良くないなと思っていることに気付いたんです。たとえば、参加した子どもたちが「映画監督になりたい」「映画館で働きたい」というのは夢だけれども、映画館に行くこと自体が夢であってはいけないなと。
横山さん:おっしゃるとおりですね。私は親御さんが「働くこと」もそうだと思うんです。「障がいを持ってるお子さんがいる親御さんは働いてはいけない」というような感じがあって、働きたいと思っているお母さんが働くことを我慢しなくてはいけないのは悲しいですし、そこに私は違和感を覚えます。ソイナースのサービスを通じて、そういった課題も解決していきたいです。
AYAとソイナースがお出かけイベントの開催で目指す未来
└2024年9月に実施した看護師帯同のお出かけ企画の様子
――お二人が今後取り組んでいきたいこと、事業を通じて実現したい未来について教えてください。
横山さん:2023年12月には、ホテルに宿泊するイベントを開催し、2024年9月に、テーマパークとバーベキューの企画も実施しました。今後も、きょうだい児も含め家族全員が楽しめるような場所を作っていきたいです。私は、ソイナースのサービスを通して健やかになれる人たちがもっと増えてほしいと考えています。今は看護サービスが中心ですが、それに付随したサービスも今後考えていきたいですね。
中川さん:われわれが目指す最終目標は「公教育外の体験格差の解消」です。日本全国の子どもたちや家族が、もっと社会にで行きやすい場を提供し、すべての子どもたちに様々な体験の場を届けていきたいと思ってます。そして、今の事業の原体験であるあやちゃんのお母さんのような方をゼロにしたいです。
――最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
中川さん:8月から、映画イベントを全国10ヶ所の劇場で開催予定です。その地域にいる方は、ぜひお越しください。実は、鹿児島での開催は現地の方からの声で実現したんです。近くに開催地がない場合は連絡をしてくれたら検討しますので、気軽に声をかけてください。
横山さん:私たちも「うちの地域にもソイナースのサービスを」という声をお待ちしています。地域に医療的ケア児が増えてきて、どうしていいかわからない方はぜひ相談してください。まずはソイナースのサービスで生活基盤を整えた上で、「安心できる看護師さんたちがいるから、どこかに行こうか!」とお出かけの機会も提供していきたいですね。
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