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伝統を未来へつなぎ、伝統で日本とフランスをつなぐ、ツバキ書房の『和をつなぐ女たち』。残すべき伝統、それは「日本人のメンタリティー」

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ツバキ書房は、伝統工芸など「和」にたずさわる女性作家を取材し、リトルプレス『和をつなぐ女たち』を制作しています。インタビューではメンタリティーにフォーカスを当て、作品の裏にある作家の物語をご紹介しています。記事はフランス語でも掲載し、日仏交流のひとつを作っています。


これまで3冊のリトルプレスを制作してきました。インタビュー中には、作家さんや職人さんから、リトルプレス制作にいたる背景についてご質問いただいたことがありましたが、時間の都合上お答えできないこともありました。そのため本ストーリーでは、リトルプレスの制作、出版にいたる経緯や背景についてお話しします。これまでのことをお話しすることで、和をつなぐ女性たちのことを、一人でも多くの方に知っていただけたらうれしいです。

パリで思い知らされた「日本人」であるということ

海外で生活したことのある方のなかには、同じような経験をしている方もいらっしゃるのではないでしょうか? 自身が「日本人」であることを思い知らされたこと、日本の歴史や文化について曖昧な説明しかできなかった自分に恥じたこと。


リトルプレスを作るきっかけの一つは、パリにいた頃出会ったスペイン人の女の子でした。自分の国のことを笑顔で楽しそうに話す姿……それは私にとって、ある種のカルチャーショックでした。私も日本のことを楽しく説明できる人間になりたいと、そしてそれは世界で背筋を伸ばして生きていくための、一つのパーツになるような気がしたのをぼんやり覚えています。日本人としてしっかり堂々と生きていこうと誓った瞬間でもありました。


海外で生活すると、自分は「日本」という国に守られていると感じることがあります。パスポートにある一文に感動したことも。日本人として日本のお役に立つことができたらという思いが、少なからずあったからかもしれません。

パリが好きだからこそ選んだ「日本」

フランスには日本の文化を受け入れる土壌があると感じていたため、帰国後は、フランス人にとって「日本らしいもの」、その中で私が心躍るものはなにかを探し続けました。私にとって「パリ」は、自分の価値観に合うものが数多くある街で、一生関わっていきたいと思っていました。一方、悔しい思いをした幾多の経験から、フランス人とは常に対等でいたいと考えていました。


海外には日本好きな方がたくさんいらっしゃいますが、日本で生まれ育ったからこそ培われる「日本人らしさ」を、当たり前のものとして捉え、理解し、それを持っている方は多くありません。「日本に興味があるフランス人にとって、私自身が日本人であることはメリットなのかも。『日本』をツールにしたらいいのでは」と当時の私は考えました。

時代を超えてリヨンに恩返しをした、西陣織の名工・山口安次郎氏

そんななか出会ったのが、西陣織の名工・山口安次郎氏の記事です。生涯を西陣織に捧げ、105歳で最期をむかえるまで現役の職人でいらっしゃいました。山口氏はフランス大使館からパリのルーブル美術館での展覧会を依頼されましたが、それを辞退し、1999年リヨンでのジャパンウィークにあわせて展覧会を開催しています。


明治初期(1868~1872年)の京都・西陣は、幕末維新後の動乱や東京遷都により大部分の顧客を失い、存亡の危機にみまわれていました。そこで京都府は、西陣機業の復興策として機織法の改善に着目し、留学生の派遣による先進国の洋式織機と新技術の導入を計画。1872年、絹織物の盛んなリヨンに3人の職人を派遣し、ジャカード機を取り入れることにしました。彼らの成果により大幅な省力化が実現でき、生産性が飛躍的に向上。西陣機業は再復興できたのです。

山口氏がリヨンで展覧会を開いたのは「リヨンに恩返しがしたい」という思いからでした。「西陣機業が再復興できたのはリヨンのおかげ。そのお礼がしたい」「孫の成長を見てください」とそんな心情だったそうです。国境を超えて、時代を超えてお礼をする。心温まる山口氏のメンタリティーが印象的でした。


(山口安次郎氏のご息女からいただいた山口氏の作品)

心を温める「日本人のメンタリティー」、それこそが「伝統」

私にとって山口氏のメンタリティーこそが「日本らしいもの」であり、心躍るものでした。日本人のメンタリティーはフランス人の好奇心をもかき立てるはずだと、なにか確信めいたものもありました。話をすればするほど、個々の考えに興味を持つフランス人に接してきたからです。


国籍・人種・文化・宗教・時代が違っても、人は同じことに笑い、泣き、感動するものなのではないでしょうか。世の中きれいごとばかりではないけれど、私はやっぱり心温まる瞬間に立ち会っていきたい、と胸が熱くなるのを感じました。


「伝統を後世に残す」と言いますが、残すべき伝統は、日本人の思いや考え方。日本人のメンタリティーを残し伝えることで、日本人とだけではなく、フランス人との心と心の交流も作っていきたい、日本のお役に立てるかもしれない、と山口氏の記事が私にその後の方向性を示してくれました。


それからはまず着物について調べまくり、西陣織会館では強引に(笑)資料を見せていただいたり、図書館や博物館、呉服店などをぐるぐる歩きまわりました。山口氏にお会いしたくて何度か手紙を書いたこともあります。でもご返事はなく、モヤモヤした日々が続いた中「そうだ、京都に行っちゃおう!」とお告げのようにひらめき、山口氏を訪ねたことも。ただ残念ながらその日は、山口氏が亡くなられた一週間後のことでした。

リヨンで再認識した「形として残すこと」と「伝えること」の意義

1872年と1999年をつなぐ記事を書きたくて、リヨンへ渡ったことがあります。1872年にリヨンへ渡った西陣織職人とフランス人との逸話、そして1999年ジャパンウィークでの山口氏とフランス人のエピソード。当時の人と人との心の交流を知りたかった。


山口氏のご息女が見せてくださった資料を手がかりに、まず1999年のジャパンウィーク関係者や関連機関にメールを送りまくりました。○○に聞いてみたら?という返信や、元リヨン市副市長のお二人や元在リヨン日本国名誉領事からもご返事をいただきましたが、覚えていないということを遠回しに伝える返事ばかりでした。彼らにとっては頻繁に行われるイベントの一つに過ぎなかったのかもしれません。どんなことを思い考えたのか、その時にしか思いつかない貴重な声を、できるだけ同時期に記録しなければならない。記憶ははかなく、思いは薄れてしまうものだと痛感したできごとでした。


リヨンでも街中を探しまくりました。結果、手にした資料は1999年の新聞記事2点のみ。1872年の文献は全く残っていませんでした。1872年の留学は、日本の西陣機業にとっては欠くことのできない歴史。でもリヨンの人たちにとって留学生の3人は、世界からやってくる外国人のうちの3人で、ありふれたこと。山口氏のリヨンへのお礼は、フランス人にとっては実感が伴わない、一方的な感謝の思いだったのかもしれません。


日本でも1872年当時の資料はほとんど残っていませんでした。識字率の問題や、記録を残していた職人が船の沈没により帰国できなかったことも要因のようです。


リヨンでの滞在は、「形として残すこと」に意味があること、そしてたとえ一方的な思いだったとしても、思いを「伝えること」は価値のあることだと再認識させられた機会でした。1999年に両国をつなぐきっかけとなったのだから。



(La Maison des Canuts https://maisondescanuts.fr


(Lyonにて)

人の心を動かす「人柄」、インタビュー記事に込めた思い

着物などの伝統工芸について調べながら、インタビュー活動を始めました。伝統工芸ではリトルプレスの第一号で取材した作家さん、そのほか截金ガラスや友禅染の作家さんを取材し、まずブログに記事を掲載しました。インタビューでは、人柄が伝わるような内容も意識しています。その人らしい話し方をそのまま記事にしているのもそのためです。話し方は人柄を伝える手段の一つだから。


着物の染色技法である「友禅染」。成人式で女性も男性も、一度は目にしているのではないでしょうか? 友禅染は、江戸時代、京都の扇絵師として人気を博していた宮崎友禅斎(みやざきゆうぜんさい)の名前から付けられました。彼はある呉服屋からの依頼により着物の意匠の元になる雛形を手がけるようになり、その絵柄はちまたで大評判になったのです。


歴史書を読みながら「友禅斎が呉服屋から依頼されたとき、どんな状況で、どんなふうに思ったんだろう」と、歴史の裏側にあるエピソードが気になりました。大きな史実なのに臨場感を感じられず、単なる説明文でしかない一文に物足りなく感じたからです。後世に日本人のメンタリティーを残したいなら、人の思いや考え方はもちろん、それを話し方そのままで記事にした方がいい。人物像や逸話が印象に残るから、歴史に深みが出るはずだと感じました。


また人柄を伝えることで、その人の思いや考えが伝わりやすくなると考えています。あなたにも、このような経験はありませんか? ある人にたいして、あまりいい印象は持っていなかったけれど、見たことのない一面を見たり、その人のなにげない一言を聞いた途端好感を持てるようになったこと。人柄を知ることは、親しみを覚えるきっかけになる。和をつなぐ女性たちの人柄を知ってもらえたら、彼女たちの言葉は多くの人の心に記憶されるにちがいないと私は信じています。


職人さんから、自身の記事を見て「関西弁丸出しですけど、いいんでしょうか?」と言われたことがあります。「〇〇さんの言葉をひとりでも多くの方に届けたいので」とお願いして、話し方そのままで掲載させていただいています。

人の魅力は「心」、心を映す「言葉」が誰かを支えるきっかけに

思い返すといろいろやってきましたが、当時の私はまさに暗黒時代の真っ只中でした。どっちを向いても真っ暗で息苦しく、考えても考えても抜け出せない毎日。真っ黒な瓶に閉じ込められているようでした。そんな中、私に光を灯してくれたのは、身近な人がなにげなく言った一言。私にとっては大きな励みだったし、ありがたくて、なによりうれしかった。「言葉」が人を救うんだと、しみじみ感じた機会でした。


言葉や姿、生き方は、人の「心」(メンタリティー)の現れ。当たり前だけど人の魅力はその人の心であり、人の心を打つのは、やっぱり人の心だと私は思います。


和をつなぐ女性たちの「言葉」を残すこと、さらに「生き方」について伝えることは、「伝統を残す」だけではなく、私が言葉に励まされたように、誰かの一助になるかもしれません。なにかが起こったとき、捉え方で人生が大きく変わる。新しい価値観や多くの選択肢を知ることができたら、それは前へ進む力になる。時が経ってもその言葉は、誰かを支え続けるかもしれないのです。

「伝統」を後世に伝えるために

後世に伝統を伝えるため「本」という形のあるものにこだわり、『和をつなぐ女たち』を国立国会図書館に納本、日仏会館図書室に寄贈しています。このリトルプレスが市場から無くなっても、私がこの世からいなくなっても、作家や職人のメンタリティーが後世に届く。同様に、リトルプレスを見てくださった方の心に届けば、きっと未来の誰かに伝わる。現在だけでなく未来においても「和」の心をきっかけに笑顔が巡ることを願い、リトルプレスを制作しています。




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『和をつなぐ女たち KASHI !』No.3

(kashiya 藤田怜美)


(菓子屋のな 名主川千恵)


[インタビュー]

kashiya(京都) 藤田怜美

和菓子まめいち(仙台) 幾世橋陽子

若狭屋久茂(京都) 金澤倫子

菓子屋のな(京都) 名主川千恵

すはま屋(京都) 芳野綾子


[サイズ]A5版

[価格]定価 ¥2,200(税込)

[販売店]ジュンク堂池袋本店、奈良蔦屋書店、和菓子まめいち、若狭屋久茂

『和をつなぐ女たち BLEU !』No.2

(冨川秋子)


(染付 小形こず恵)


[インタビュー]

冨川秋子

南絢子

染付 小形こず恵

青白磁 笠井咲江

染付 本多亜弥


[サイズ]A5版

[価格]定価 ¥1,650(税込)

[販売店]ジュンク堂池袋本店、奈良蔦屋書店、和菓子まめいち、若狭屋久茂、代官山蔦屋書店、広島蔦屋書店

『和をつなぐ女たち Les cinq artistes japonaises』No.1

(紅型 新垣優香)


(九谷毛筆細字 田村星都)


[インタビュー]

赤絵細描 河端理恵子

九谷毛筆細字 田村星都

切子 小川郁子

白磁 奥川真以子

紅型 新垣優香


[サイズ]A5版

[価格]定価 ¥1,650(税込)

[販売店]ジュンク堂池袋本店、奈良蔦屋書店、和菓子まめいち、若狭屋久茂、代官山蔦屋書店、広島蔦屋書店



【ツバキ書房】

https://www.instagram.com/tsubakishobo/

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