黒木瞳監督がメガホンをとった映画「十二単衣を着た悪魔」が、11月6日(金)より公開される。

脚本家・小説家の内館牧子氏が「源氏物語」を題材に、妥協や忖度(そんたく)を一切しない、強い女性と関わることで成長していく青年の姿を描いた長編小説「十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞」を実写化した本作。

ひょんなことから「源氏物語」の世界にトリップしたフリーター・伊藤雷(いとうらい/伊藤健太郎)が、そこで出会った弘徽殿女御(こきでんのにょうご/三吉彩花)に仕え、彼女に翻弄されながらも次第に触発され、成長していく姿が描かれる。

フジテレビュー!!は、三吉と、メガホンをとった黒木瞳監督にインタビュー。作品の魅力や撮影時のエピソードを語ってもらうと、黒木監督による“シャンパン付き特訓”もあったという、驚きのエピソードが飛び出した。

希望が持てるラストシーンのため、撮影は「二転三転…四転五転と(笑)」

──出演オファーを受けたときはどんな心境でしたか?

三吉:以前、黒木さんと同じ作品に出させていただいたので、今回は監督として、お芝居されている時とはまた違う黒木さんにお会いできるというのは、とても気持ちが高まってワクワクしていました。それに加えて、このような非日常的なエンターテインメント作品で、物語としても面白そうだなと思って、楽しみでした。

──「十二単衣を着た悪魔」という作品の魅力は、どんなところだと思いますか?

黒木:これは原作に「源氏物語異聞」という副題がついておりまして。原作者の内館さんの「こうかもしれない」という、想像なんですね。三吉ちゃんが演じた弘徽殿女御(こきでんのにょうご)が「こういう人だったかもしれない」という、ものすごく斬新で新しい解釈なんです。そして、そこに迷い込んだ、現代のちょっとダメな男の子が、彼女によって成長していくという。

やっぱり最終的に希望が持てるという、爽やかな気持ちで映画館を出られたらいいなと、そこに集約しておりまして、それが1番の魅力だと思っています。そのために、ラストシーンは「どのように終わるか」ということを悩みに悩んで、二転三転…四転五転しまして(笑)、今の形に収まったんですけれども。

私がなかなかOKを出さなかったものですので、演じる側はとても大変だったと思います。助監督が「まだですか…!?」って、ずっと私を見てきて、「いや、もっといける!もっといける!!」って(笑)。でも、結果的に健太郎くんのあの表情をいただけたときは、そこでエンディングに入る画が浮かぶほどでした。

三吉:私は、自分の演じた平安時代の世界しか知らなかったので、完成した作品を観たときに、現代の雷の生活や、雷が倫子(りんし/伊藤沙莉:「源氏物語」の世界で雷の妻となる女性)と、どう愛を育んでいくのかという部分などは、一視聴者として楽しませていただきました。それで感じたのは、雷が弘徽殿女御と出会って成長していく姿も楽しめて、倫子と出会って、じんわりあったかくなる恋愛のストーリーも楽しめる映画だということです。いろんな楽しみ方があるというところが、この作品の魅力かなと感じています。

監督との個別特訓に三吉もビビり「誰も部屋には入ってこない、逃げ場がない!」

──先ほど、ラストシーンでなかなかOKを出さず…とおっしゃっていましたが、それは、ご自身が女優でもある、というところからくる“こだわり”なのでしょうか?

黒木:なかなかOKを出さなかったのはラストシーンだけではないんですけど(笑)。「芝居で失敗させたくない」という思いは、確かに自分が女優だから、というところも、あるかもしれないですね。

──三吉さんから見た、監督としての黒木さんの印象はいかがでしたか?

三吉:みんなが納得いくテイクが撮れるまで粘ってくださる方です。クランクインする前、監督とずっとセリフの読み合わせをさせていただいていたのですが、最初はちょっとビビっていて(笑)。

もちろん別で台本読みの機会はあるんですけど。「もうちょっと低く」とか「もうちょっと真っ直ぐに、ピッて感じで」など、たくさん指導していただいて。吸収するのに時間がかかりました。しかも、マネージャーさんも誰も部屋には入ってこないので、「逃げ場がない!」って(笑)。「もう、どうしよう」って、2回目くらいまでは結構オドオドしていたのですが、こちらが食いつくと、受け入れてくださっていたので、「もう、やっちゃえ!」と思って。その特訓があったおかげで、現場でも…。

黒木:「特訓」って(笑)。お酒も飲んだじゃな~い!「シャンパン持ってきて!」とか言って。私も芝居をするとき、ちょこっと飲んだりすることもあって。“違う自分”が出てくることもあるので、用意してみたんですけど。

三吉:「三吉ちゃんも飲む?」って言われて、「え!?…さすがに大丈夫です…」みたいなことが(笑)。現場で「練習のテイクの方が良かった」と言われることはありましたが、それも全然ネガティブには聞こえないので。より良いテイクを撮るためにとてもこだわってくださっていたので、「それ!OK!」って言われたときは、毎回本当に嬉しくて。ちゃんと頑張って良かったなと思いました。

黒木:弘徽殿女御がしっかり出来ていないと、雷ちゃんが成長できないので、その分、三吉ちゃんはとても大役で、大変だったと思うんですよね。なので本当に細か~く、ワークショップみたいにやっていったんです。撮影に入った当初は、私が思い描く弘徽殿女御だったんですけど、それって結局“黒木瞳が思い描く弘徽殿女御”じゃないですか。でもあるとき、その殻を破って、“三吉彩花の弘徽殿女御”になったんですよ!それがもうすごくて!

一つ一つ、丁寧に作り上げていかなきゃいけない難しい役でしたが、素晴らしい仕上がりでした。本当に今後が楽しみな女優さんだと思います。次、共演させていただくときは、よろしくお願いいたしますね。

“目の力”を監督も絶賛「任せていれば、十分に力のあるシーンに」

──三吉さんは、20代から40代まで、26年分の弘徽殿女御を演じられましたが、1人の女性を長い年月にわたって演じるというのは、いかがでしたか?

三吉:容姿の面でも、カツラに白髪が混じってきたり、十二単衣の柄が変わっていたりなど、変化をつけていたんですけど。内面から出てくるものに関しては、監督とも相談しながら、声のトーンを少し変えていました。若いときは少し高く、歳をとっていくにつれて低く、重みと説得力と、でも優しさも混じっている、というように、声色を意識しながら演じ分けていました。

──そういう声色の使い分けというのも、監督が指導されたんですか?

黒木:“お芝居の基本”、マニュアルみたいなものがありまして。それを知っておくと、臨機応変に活用できる、というところもありますので、そういうお話はしました。でも、セリフを言うだけが役者ではないので。健太郎くんも含め、お二人は“目”がすごいんですよね。ここぞというときの“目の力”というもので芝居をなさっていたから、声の高低やセリフのスピードの問題を超えて、魂で芝居をしているなと、撮りながら感じていました。

三吉:(照れ臭そうに会釈)

──終盤では、弘徽殿女御のセリフの後に続く長いカットがとても印象的でしたが、あのシーンには何か、監督の特別な思いが込められているのでしょうか?

黒木:はい、「1番大事に撮らなきゃいけないシーン」と、台本にも書いていました。どういうシチュエーションであのセリフを言ったらお客様に思いが通じるか、ということが、長い間の宿題だったんです。ひと月くらい考えていて、でも、もうそこまで(直前まで)撮ってきていたので、きっとお二人のその感情だけで“もつ”なと思って。当日は、小手先のアレンジはせず、オーソドックスに撮りました。

その時点で二人は「源氏物語」を20年以上生きてきているので、お二人に任せていれば、十分に力のあるシーンになると思って。ですので、長めに撮らせていただいたんですが、セリフの後、「もっと長く見たい!」ってなるくらい、二人ともいい表情をするんですよ。だから、「もっと長く!もっと長く!」と言って。「ここで(効果音の)太鼓が鳴るのよー!」なんて思いながら(笑)。

──役者に任せる、というのが、黒木監督の撮り方には多いのかなと感じました。アドリブも積極的に採用されているのでしょうか?

黒木:私自身、役者のときに現場でのひらめきがあったりするので、やってみて、撮ってみて、ですね。(演者が)「したい!」とおっしゃることは、尊重するようにしています。

──笹野高史さんがスマホを舐めるシーンはアドリブだったとのことですが、それに対する伊藤さんの「やめて?」の言い方がとても面白くて。あそこまでがアドリブだったのですか?

黒木:そう、あれもアドリブなんです。いろいろな撮り方をしたんですけど、どこが1番「やめて?」が面白くなるかって、編集でもいろいろ実験するわけです。で、最終的にあの形になりました。ちょっと笑っちゃいますよね。

大役を果たした三吉、撮影を振り返り「この現場、毎日本当に頭が痛くて(笑)」

──弘徽殿女御のセリフは、印象的なものがたくさんありましたが、三吉さんが特に好きだったのは?

三吉:もちろん、最初の登場シーンもすごくインパクトがあって。現世からやってきた雷に対して「男は能力を形で示せ」っていうシーンも、とても印象に残っているんですけど。時が進むにつれて、雷と関わる中で、弘徽殿女御も変わっていく部分がすごくあると思っていて。今までは「こうしなさい、ああしなさい」「私はこう思う」って強く断言していたところを、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ/手塚真生)が泣きながら話してくるシーンでは、「つまらぬものに負けてはなりませぬぞ」って、強いけど優しい、愛情がこもった言葉をかけるんですね。あのシーンは、私自身も撮影しながら、いつもとは違う感情の入り方というか、「この気持ちが届け」と強く思っていたので、特に好きなセリフですね。

黒木:編集中、そのセリフに励まされました。「負けてはなりませぬぞ」「はい」って(笑)。それくらい力強く、説得力を持って言っていただいたので。最初の台本読みのときは、六条御息所にちょっと引きずられていたんですけど、「引きずられない芝居を。弘徽殿は弘徽殿」って、そういうお稽古もしていたので、きっとご自分でいろいろ考えられたんだと思います。

三吉:そうですね…。この現場、毎日本当に頭が痛くて(笑)。カツラも重いし、考えることがたくさんあって。私は自分の身の回りのことしか考えられないくらいで、毎日帰るとぐったりして。ですが、弘徽殿女御としていろいろと経験を重ねていくことが、自分自身の糧にもなっていったので、最初の頃の私とは、台本の解釈の仕方が変わってきて、雷にかける言葉の引き出しがすごく増えてきて。“いい頭痛”だったなと思います。

黒木:重いだろうなっていうのがわかるだけに、早く撮ってあげなきゃってことも考えていました。男性よりも、女性の方が衣装やヘアメイクが大変なので。

──弘徽殿女御が息子をとても大切に思うように、お二人にとって、同じように大切に思うものはありますか?

黒木:いっぱいあると思いますが、1番はやっぱり“家族”です。弘徽殿女御は、帝の第一妃ですから、息子を次の帝にしなければいけない重責というのもあったはずなので、私の思いとはまたちょっと違うかなとも思いますが。

──三吉さんは?

三吉:弘徽殿女御のように、自分に代えても守りたい、というのとは違いますけど、「普通でいたい」という感覚はすごく強くて。地元の友達と会ったり、一人で電車に乗ったり、バスに乗ったり…。“普通の日常を楽しむ感覚”みたいなものを、ずっと大事にしたいと思いながら生活しています。

撮影:YURIE PEPE