石橋貴明が文化人、ミュージシャン、タレント、アスリートなどジャンルを問わず“話してみたい”ゲストを迎え、焚き火の前でじっくり語り合うフジテレビ『石橋、薪を焚べる』。
10月20日(火)の放送は、実業家・野尻佳孝が登場。ブライダル業界で起業した理由や、新しいホテルの在り方、これからのサービスなどについて語った。
2人は、普段から「ノジさん」「タカさん」と呼び合う仲。「まさか野尻さんと薪を焚べるだなんて!」と、対談がスタートした。
コロナ禍で結婚式延期の判断をせざるを得なかったカップルは約13万組
「ハウスウェディング」という結婚式のスタイルを確立した、株式会社テイクアンドギヴ・ニーズの代表取締役会長・野尻は、新型コロナウイルスの影響で、感染拡大が深刻化してきた3月半ばから、7月末までほぼ売り上げがなかったと振り返る。
石橋:全部、(結婚式が)キャンセルなんですか?
野尻:キャンセルというか、全員、延期されまして。日本全国の新郎新婦で、結婚式を今回のコロナで延期せざるを得なかった方々は、13万組。全員延期。その間、日本全国のホテルも結婚式場も結婚式がほぼないので、企業は売り上げがゼロですよね。例えば、テイクアウトとか、インターネットで商品を売るとか、そういうことができる会社もいっぱいあるんですけど、ブライダルって、テイクアウトウェディングって…。
石橋:それは、さすがに。
野尻:ないし。で、緊急事態宣言明けたあと、政府が世の中を動かそうとしてキャンペーンやってくれてるじゃないですか。「Go To(キャンペーン)」。「Go To」も、ウェディング業界は恩恵を受けづらいんですよ。
石橋:意味ないんですか。
野尻は「今、経営を維持できているのは銀行のおかげ」と語り「本当に厳しいというのがブライダル業界です」と現状を明かした。
そんな中、「光は見えてきているのか?」と石橋が問う。
野尻:いやもう、長いトンネル。もがいてもがいて。8月、9月に入ってから、小さな明かりが。例えば、きちんと感染予防した少人数で、円卓にも半分しか腰掛けないでとか、ウエディングもセレモニーだけ。結婚式の形は変わりましたけど、昨年対比で2割から3割、結婚式をやっていただける方々が出たんですよ。
野尻は、式を終えた新郎新婦らがSNSで「無事に挙式できました」と発信したことが、不安を抱えながら結婚式を予定している新郎新婦たちへのエールとなり「“結婚式やろう”というふうに思ってくれてる方が増えてきている」と語った。
石橋:じゃあちょっと、明かりが見えてきている?
野尻:そうです。(通常は)新郎新婦さんたちが「結婚式をやろう」と決意して進めていくんですけど、今はコロナになって、お父様、お母様から僕ら結婚式場にご連絡いただくケースが多いんですよ。「どうしても娘の門出を祝いたい」、「半年間延期することになったけど、やはり息子、娘を祝う日をきちんと開催したい」と結婚式場にご連絡いただいて。「どんな感染予防してるの?」ということとかを、お父様、お母様方と打ち合わせすることも増えてきました。
石橋:結婚式って、新郎新婦2人のものというより、育ててくれたご両親のためというところが大きいですもんね。
石橋は「お父さんが号泣しながら、『大事に大事に育てた娘なんで、何とか君、頼むよ!』って泣くシーンなんか見たらね、僕も全員娘なんで、『俺もこれやるのか。これ、きついな』って(笑)」…と、娘を持つ父親としての顔をのぞかせた。
野尻は、このコロナ禍で「敵も味方も関係ない」とブライダル業界が一つになって感染対策のガイドラインを作り、徹底遵守して取り組んでいることも明かした。
面白くなかった30年前の結婚式を二次会から変えた
そもそも、野尻はなぜ、ブライダル業界で起業したのかという話題になると「幼いころから経営者になりたいとは思っていた」と言い、大学卒業後も起業を見越して金融会社で働き、「何(の分野)で独立しようかな」と思っていたという。
野尻:小さいころからイベントを企画するのが大好きだったんですけど、ブライダルの決め手になったのは…結婚式の二次会をやたら頼まれたんですよ。で、僕の企画する二次会がわんさか当たって。
石橋:(笑)。二次会が「当たる」ってどういうこと?
野尻:その当時の披露宴が、高砂の金屏風の前に新郎新婦が座って、横に仲人さんがいらっしゃって。借りてきた猫のような…。
石橋:はいはい。
当時の結婚式は「面白くなかった」ために、野尻が企画・プロデュースした二次会は「おしゃれで楽しい」と友人たちに大好評。外国の映画のワンシーンにあるような、ガーデンセレモニーなどを日本でもやってみようと考えたという。当初は、式場を作るお金もなかったので、庭付きの一軒家レストランを借りて結婚式をプロデュース。それが大ヒットし、5年かけて日本全国約70ヵ所にハウスウェディングスタイルの結婚式場を作るまでになった。
野尻は「家族の関係性を修復できる唯一の機会が結婚式」と結婚式の魅力を語り、その「奇跡」を見られることが仕事をする上でのモチベーションになっていると語った。
多種多様な要求にしっかりと応えるためにマニュアルがない
一方、新しいスタイルを宣言するブティックホテルTRUNK(HOTEL)や、一棟貸しホテルTRUNK(HOUSE)も経営する野尻。
石橋:ノジさんが目指してる「カッコイイ」ホテルって、どういったホテルなんですか?
野尻:普通の画一的なサービスには「飽き」があるんですよ。未体験、体験したことがない、そういうものを欲している人が増えているんですよね。だけど、日本ってマニュアルマネジメントって言われていて「これを徹底してください」というのが上手にできるのが日本の強みなんですけど、マニュアルを越えたサービスというのが不得意なんですよ。かつ、旅慣れた人たちはマニュアル外を求めますんで、そういう旅慣れた人たち、もしくは多種多様なサービスを求めているヤングジェネレーションも増えているので、そういうのをしっかりともてなすことができるホテルを作っていきたい。それで、うちの会社、ホテルにはマニュアルがないんです。
石橋:接客マニュアルみたいなものが?
野尻:ないんです。これはホテル業界では稀。その代わり「NO」も言っていいよ、と。ダメなものはダメと伝えていいよと。
海外からの宿泊客の急なリクエストに応え、市場や、相撲の稽古見学をセッティングしたり、宿泊客とサーフィンの話題で盛り上がった従業員が、翌日、休みを別の従業員に変わってもらい一緒に海へ行く…など、マニュアルがない会社で、それぞれが何をしたいのか、「WANT」が何なのかを大切にしてきたと野尻は語り、その取り組みを「面白い」と応援してくれるお客さんがいると明かした。
「年を重ねて、じいちゃんになっても仕掛け人でいたい」
高校卒業後にホテルに就職していた石橋は「お客様に『ありがとう、美味しかったよ』と言われると、すごくグッとくるんですよね」と回顧。
石橋:だけど、本当に、ホテルの仕事ってハードですよね。
野尻:「ドM」じゃないとできないと思います。
石橋:24時間、365日、一度も止まらないわけじゃないですか。でもそのヘビーな仕事の代わりに、感動もあるんですよね。
「だからやめられない」とうなずいた野尻は「世の中の人がワクワクするような場やスタイルを、歳を重ねて、じいちゃんになっても提供する側の仕掛人でいたい」と語った。