松重豊 初の著書を出版「自分の根幹が揺らぐような世の中になり、改めて仕事の立脚点を振り返ってみようと」
10月24日 発売「空洞のなかみ」(毎日新聞出版)
188cmの長身と眼光鋭い刑事役で、“コワモテ俳優”のイメージが強かった10年前から一転、寡黙で食好きなビジネスマンを演じた主演ドラマ『孤独のグルメ』(2012年~)が人気を博し、昨年は「ヒキタさん!ご懐妊ですよ」で映画初主演を飾るなど、話題に事欠かない松重豊。そんな彼が、10月24日に初の著書「空洞のなかみ」(毎日新聞出版)を出版する。
グレイヘアで穏やかにほほ笑む松重に、12編の短編連作小説と25編のエッセイからなる新刊の“なかみ”と意外なプライベートについて聞いた。
<松重豊 インタビュー>
――初小説&エッセイ集「空洞のなかみ」をまもなく上梓される今のお気持ちは?
コロナで世の中が180度変わり、多くの人が仕事を奪われましたが、僕も4月のステイホーム期間中はやることがなく、「本でも書くか」と思い立ってしまって。きっとみんなも暇だろうから、「俺も書いた」「私も」…と、コロナ似非文学者みたいな人が雨後の筍のように出てくるだろうなと思ったので、なるべく早く出してもらおう!ということで、10月24日の刊行に至りました。
今のところ、コロナ時期に暇すぎて本を書いたという人が、ネットニュースを見ても出てこないので、雨後の筍の後者にならなくて済んだかな、と思うぐらいです。
――小説の主人公は、廃業を考えている40代半ばの役者。“死体役はセリフがないぶん気が楽だけれど、呼吸ができないので、長いシーンだと気を失いそうになる”など、経験豊かな役者さんならではの裏事情が赤裸々に明かされていますね。
完全にフィクションに逃げることもできたんですけど、やはりどうしても俳優という職業が頭の片隅にあって。自分の経験則からしか物語を紡ぐことができなかったし、役者がどういうメンタルでどんな日々を過ごしながら、俳優という職業にしがみついているかってことも、意外と知られてないことなんだな、と思ったので。
世間一般のイメージのように、役者は華やかな世界で素敵な服を着て、付き人がなんでもやってくれて…と思ったら大間違いで、ホントに地味な作業の積み重ねで成り立っています。客観的に見ても、役者というのはつくづくバカな、変わった生き物だなと感じます。
究極の役者のあり方は、“自分の役が何かわからずにカメラの前に座ってる状態”
――結果的に、ご自身の体験がかなり反映されていると。
ステイホーム中、みんなやたらと「どうぶつの森」というゲームにはまってたじゃないですか。うちの娘はCMの制作現場で働いてるんですけど、娘のスマホ画面を見せてもらったら、「どうぶつの森」の中にバーチャルでCMの撮影現場を再現してたんです。
思わず「バカじゃないの!? なんでこんなところにまで撮影現場を作るんだよ」と言ったんですけど、そういう親父も同じようなことをしてたわけで(笑)。みんなそうだったと思うんですけど、その職を奪われてしまったがゆえに、そこに対する愛情も憎しみも怒りも、その場所を通してぶつけるしかないという。その思いがこういう小説になったんだと思います。
自分の根幹が揺らぐような時代と世の中になった今、改めて自分の仕事の立脚点みたいなものを、もう一度振り返ってみたというところはあるんですよね。
――一編一編は短いのに濃密で、謎解きのようにスリリング。「次に主人公が演じるのはどんな役!?」と興味をそそられ、どんどん続きが読みたくなります。
僕は究極の役者のあり方は、“自分の役が何かわからずにカメラの前に座ってる状態”だと思うんです。その境地で、覚えているセリフがホントにその場のリアクションとして出るのが居方としては素晴らしい。それがドキュメンタリーのように行われるのが、一番究極のドラマだと思います。
小説の主人公も、最初は自分がガチガチに固めた世界をカメラの前で演じることがすべてだと思っていたのに、「そうじゃない。空っぽになってカメラの前にいればいいじゃないか」と思って、空っぽの器になってみたんだけども、「ああ、この役か」と我に返った瞬間に「全然違う役だった」となったりするという。そこまで揺さぶっても、役者というのは答えがわからないものなんです。
――「空っぽの器」というのは、御本のタイトルにもつながるキーワードですね。
自分は空っぽの器だ、という感覚は、役者のひとつの生き方としてあったんですけども、役者に限らずどんな人も、会社では部長の役で、家に帰ると父親の役だったりするわけで。
もっといえば、家では威厳ある父親役だと思っていたけど、家族は誰もそうは思ってなかった(笑)、という現実だってありますよね。自分の器に入れた役に依存しすぎると、周りが見えなくなっちゃう。
空っぽの状態でそこにいたり、誰かとコミュニケーションすることは、相手を理解したり、周囲の景色を感じたりする上でも非常に大事なんじゃないかと思うんです。
だから、この本を読んで「役者ってバカだなー」と思いながら、「あれ?もしかして俺も自分でそう思ってるだけなのか?」とか、「こういうことって自分にもあてはまるな」と思っていただけたりすると、より楽しめるかなと思います。
自粛中は、プリンとガトーショコラとチーズケーキをローテーションで作って食べ続けた
――この12編を一気に書きあげたというのは、ものすごい集中力ですね。
最近は酒も飲んでないので、甘いものがないと、ホントにどうにかなりそうで。4月はケーキ屋さんにも行けない状況だったので、プリンとガトーショコラとチーズケーキをローテーションで作って食べ続けていました。
一日のうち、本を書く時間が3、4時間だとすると、甘いものを作る時間が1、2時間は常にあって。特にプリンに関しては、もうホントに極めましたね(笑)。小説は1日1本ペースで書き進め、まだいくらでも書ける勢いでしたが、ここでいったん本に収めましょうということになりました。
――「サンデー毎日」の連載を収録した後半のエッセイは、前半の小説の種明かしのようにもなっています。石工見習い時代に松重さんが作った設備が、今も人々に使われているなど、驚きのエピソードがふんだんです。
センター北駅の男子トイレの設備なので女性は入れませんが、面台(めんだい)といわれる荷物置きの部分を自分が据えました。目地もキレイに入れたので、ひび、割れがないかというのは、今も時々確認しにいくようにしています。
職人たちが働く現場には、組織に属していない男のヒロイズムみたいなものが転がっていますからね。親方の生きざまや職人の背中を見ながら、そんな素敵なオジサンたちと過ごした日々は、僕にとって宝物のような時間でしたし、今の仕事をする上でも大きな財産になっています。
出版を機にYouTubeとTwitter、Instagramも開設
――小説同様エッセイも、簡潔ながら味わい深く、するっと読めるのにとても満足感があります。
テレビドラマのセリフでは、役の気持ちを視聴者の方にわかりやすく説明していかなきゃいけないという責任があります。でも一方で自分の中では、説明過多にならずに、文脈の中での共感から何を受け取るかが一番贅沢な楽しみ方だという思いがずーっとあって。
それで、自分が書くものに関しては、最低限の言葉で何かを伝えるってことを特に意識して書いたんだと思います。
――長年4行詩を書かれているブログに加え、今回の出版を機にYouTubeとTwitter、Instagramも開設されました。
初めて著作権というものを自分が持って、この本をどう料理してもいいということなので、とりあえず手っ取り早くできるYouTube上で自分で朗読しようと。せっかくだから、今まで僕のラジオ番組にゲストで来てくれたミュージシャンの方々もお誘いして、「やるやる!」と言ってくれた方と朗読セッションをして、1週間に1本ずつ配信しています。
<松重豊 公式YouTubeより>
夢想したものに現実を乗っけたり、面白いと思ったことにはとりあえず手を染めてみる、というのは、一人っ子育ち特有の僕の行動原則のひとつですが、僕みたいな職業でも、ステイホーム期間を経て面白いことを自分で見つけて実現できたことは、ひとつの発見でしたね。
「これしかない」っていう生き方も素敵ですけども、自分を追い詰めないで
――新しいことに次々チャレンジされている松重さんが今、「空洞のなかみ」に詰めたいモノ・コトは?
僕の空洞は、エサもつけずに蛸壺(たこつぼ)のように海に沈めてあるだけなので。そこに入るのがタコなのかイカなのかエビなのかわからない。それを待っている楽しみがあるっていうだけですかね。
――2021年へ向けての目論見などはありますか?
僕らの仕事は、人のなり、ふり、生き方、言動みたいなものを、見て聞いて、「こんな人がいたよ」っていうのを伝えることで。今のところは、演じることと、書いてアウトプットすることが自分の中でリンクしているので、それをできれば劇場で朗読することもやっていきたいですね。
今までホントに、カメラの前や劇場の舞台にいることしか考えてなかったんですけど、そうじゃないこともあるかなっていうことに、60を前にして気づかされた感じです。
――最後に、当サイトの読者に向け、松重さん流生きるヒントをひとつ伝授いただけますか?
いろんな逃げ道を見つけることじゃないですか。僕も「俳優しかできないんだぞ」と思ったら、俳優ができなくなったときに非常にやばいことになるから、実際こうして逃げ道を見つけて生きてるわけで。それは生きてくうえで、けっこう大事なこと。
サラリーマンの方も、今労働してお金をいただいてることとは別の何かを始めてみたら、いつかそれが身を立ててくれるかもしれないし。そういうものが何かあれば、苦しまないですむのかなって思うんですよね。
「これしかない」っていう生き方も素敵だなと思うんですけども、そこまで自分を追い詰めないで。30代、40代の方には特に、「早く自分の逃げ道を見つけたほうがいいですよ」って言いたいですね。「いやいや、ほかの楽しいこと絶対あるから!」って、僕は今、心の底から思います。
詳細情報は、松重豊公式サイトまで。
取材・文:浜野雪江
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