先日、アメリカテレビ界の最大の祭典「エミー賞」が発表され、特出したメイクアップの技術者に贈られる「Outstanding makeup賞」を受賞したメイクアップアーティストのMOTOKOさん。

マライア・キャリー、チャン・ツィイー、アン・ハサウェイら、多くのセレブリティのメイクを手掛けてきた彼女は、人気トークショー『The Real』でタメラ・モーリー・ハウスリーのメイクを担当し、その功績が高く評価された。

日本人で初となるビューティメイク部門での「エミー賞」受賞を果たしたMOTOKOさんは、どんな女性なのか?フジテレビュー!!では、ハリウッドで活躍する彼女にリモート取材を行った。

自分の名前を見つけて「えー!」

――「エミー賞」受賞、本当におめでとうございます!まずは今のお気持ちから聞かせてください。

「ありがとうございます」「うれしいです」「光栄です」。この気持ちに尽きますよね。昨年の「エミー賞」では『The Real』のヘアスタイリストとスタイリストは受賞したのですが、メイクはノミネートされたのに受賞できなくて、悔しいけれど仕方ないね、と話していたんです。今年も無理だろうと思っていたので、自分の名前を見つけて「えー!」って(笑)。やっと思いが叶った!という気持ちになりました。

――「エミー賞」へのノミネーションは、2015年、2016年、2020年に続き4回目です。レッドカーペットを歩く人のメイクをする側から、レッドカーペットを歩く側になった感想は?

残念ながら、昨年と今年は新型コロナウイルスの影響でレッドカーペットを歩くことはできなかったのですが、2015年に初めてノミネーションしたときは、本当に大興奮でした。ノミネートが発表されたとき、仕事の現場にいたら、みんなから急に「おめでとう!」「Congratulations!」と声をかけられたのに、何のことだかわからなくて(笑)。『The Real』がスタートしてまだ1年目だったので、まさか「エミー賞」にノミネートされるなんて、思ってもいなかったんですね。

だから授賞式でもみんなエキサイトして、レッドカーペットに受賞者のボーイフレンドや旦那さんも一緒に入って、大所帯で写真を撮ってもらって。ゴージャスなドレスを着てあの“レッドカーペット”の上を歩くなんて、女優さんのようでとてもうれしかったです。

いとこの出川哲朗も「すごい、もこちゃんおめでとう!」と祝福

――今回は、いとこの出川哲朗さんからもお祝いの言葉が届きましたか?

てっちゃん(出川)のお姉さんと私は姉妹のように仲がいいので、「エミー賞」のこともすぐに連絡したのですが、彼女がてっちゃんにも連絡してくれたそうで。てっちゃんも(バラエティ番組などの突撃取材で)「アカデミー賞」などのレッドカーペットの取材経験は豊富だから(笑)、「すごい、もこちゃんおめでとう!」と言ってくれていたと聞きました。

――「エミー賞」にノミネートされてから、仕事の面で変化はありましたか?

ノミネートされるだけでもすばらしいことですが、私はそこで満足することはできなくて、いつかは必ず受賞したいと思い続けてきたんです。そのためには、出演者に常に美しくかっこよくいてもらおうと、洋服やコンディションに合わせて毎回毎回メイクを変えて。収録のたびにアイシャドウや口紅の色を変えたり、つけまつげの形を工夫したり、ありとあらゆるトライを繰り返してきたので、多分、タメラは1回も同じメイクだったことはないんじゃないかしら?

でも、「シーズン1」の頃は苦労しました。タメラとは、番組が始まる前から長く仕事をしていたんですが、テレビのライティングの下では、それまでと同じファンデーションを使っただけだと、スッピンみたいに見えてしまったんです。

そこで、2人で相談しながらいろんなファンデーションを試して、彼女も私も納得できる肌の映り方になる組み合わせを見つけるところからスタートして。アイシャドウやチークの入れ方も、どうやったらライティングに適したものになるのか、試行錯誤を重ねたんです。そういうこともあったので、「シーズン1」でノミネーションされたときには、本当に驚きました。

――そういった積み重ねが、今回の受賞につながったのですね。

10年前の私だったら、今の仕事には対応できていなかったでしょうね。メイクアップの学校を卒業して、いろいろな経験を積んで、「私、なんて上手なメイクアップアーティストなのかしら」と思っていた時期があったのです。でも、そのころに一緒にお仕事をしたカメラマンからものすごいダメ出しをされたことがあって。それをきっかけに、ファンデーションの種類、付け方などで、どれだけ肌の色が変わるかを学びました。人種の違いはもちろん、一人ひとりの肌の質感によって、全然映り方が変わるんですよね。

それから、一つひとつの仕事は「すべて勉強」だと思って挑むようになりました。すべての経験に、無駄なんてないと肝に銘じました。

マライア・キャリーと仕事をしていたときには、「MOTOKO、ツアー中はとにかく早くやらなきゃダメなのよ」と言われました。舞台裏では、ヘアとメイクとスタイリストが同時進行で作業をしなければいけないので、スムーズに的確に作業を進めなければいけなかったんです。

当時は、仕事で失敗してクビになる夢もよく見たけれど、お陰で今は、以前だったらプレッシャーで負けてしまっていたかもしれないような大きな仕事もできるようになったし、『The Real』のような生放送の番組にも対応できるようになったのだと思っています。

苦い経験を経て、心がけるようになったのは「その人が本来持つ美しさを大切にすること」

――現場や相手によって求められるメイクは変化しますよね。そこを的確に汲み取るために、どんなことを心がけているのでしょうか?

メイクアップアーティストによっては、元の顔からガラッと変えたメイクが得意な人もいますが、私が心がけているのは、その人がもともと持っている美しさを大切にすることなのです。そのために気をつけているのは、メイクする相手の意見や希望をきちんと聞いて、TPOに合わせた仕上がりにすること。というのも、ちょっと苦い経験がありまして…。

以前、イタリアの女優さんにメイクをする機会をもらったことがありました。ちょうど7月4日、アメリカの建国記念日だったので、アメリカの国旗のブルーをイメージしたスモーキーアイズにして、口紅も淡い感じにまとめたら、「なんでこんなメイクにするんだ!」と激怒されてしまって。相手の希望に沿ったメイクができなかったことが悔しくて、私は泣いてしまいました。

だけど、一緒に仕事をしていたヘアスタイリストからは「あなたはプロとして自分のベストを尽くしたんだから、相手が気に入らなくても泣く必要はない。That’s it(これでおしまい)!」と言われたけれど、新しい人と仕事をするときには、きちんと事前に「こういう色を使ってこういうふうにしたいけれど、どう?」と聞くべきだった。その経験を経て、自分が「いい」と思ったものを押し付けるのではなく、相手の希望をきちんと聞いた上で、相手がもっと美しくかっこよくなるメイクを提案しようと思えるようになりました。

だからね、今、編集部のあなたの顔を見て「眉毛をもっとこうしたら?」とアドバイスすることはできるけれど、あなたが「それはイヤ」と思うならそれが正解だと思う。もちろん、「そのほうが小顔に見えますよ」というように、私が提案した理由はきちんと説明しますけれどね。そうやって対話しながらお互いにとって最適なメイクにたどり着くことが大切だと、今は思っています。

取材・文:須藤美紀