大貫勇輔が「フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~」でミュージカル初主演。その挑戦の裏にあった不安と「集大成」だという本作にかける思いを明かした。

「フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~」は、全世界累計発行部数1億部超えの伝説的コミック「北斗の拳」を原作とするミュージカル作品。ケンシロウを大貫が演じ、ユリアを平原綾香とMay’n(Wキャスト)、ラオウを福井晶一と宮尾俊太郎(Wキャスト)が演じている。

17歳よりプロダンサーとして数々の作品に出演し、その類まれな身体能力でミュージカル界に衝撃を与えた実力の持ち主でもある大貫。ケンシロウ役へどんなアプローチをしているのか。オファーを受けての心境、役作りや演出について、また海外公演への思いなどを聞いた。

<大貫勇輔 ダンサー、俳優として飛躍の今、さらなる願いは「歌だけで人を魅了したり、感動させられるようになりたい」>

※取材は10月初旬に行われたものです

<大貫勇輔 インタビュー>

オファーを受けるも不安が…「え、北斗の拳をミュージカル化!?」「僕がケンシロウ!?」

──本作がミュージカル初主演ですが、最初にケンシロウ役のオファーを受けたときの心境は?

最初は「え、ミュージカル化!?」「僕がケンシロウ!?」みたいな、本当に驚きの連続でした。実感もないまま「もちろんやらせてください。頑張ります」とお返事したんですけど、いざ時間が経ってみるとどんどん心配になってきて。

やっぱり多くの人から愛されている名作だし、アニメのイメージも強いし、「おまえはもう死んでいる」とか「アタタタタタタタ」みたいな有名なセリフがあって、僕も「北斗の拳」と聞けば“ムキムキの男たち”みたいなイメージが強くあったので、それを僕がやるのか…と。「できるのかな?」という不安がものすごく大きくて、「そもそもあの物語をどうやってミュージカル化するの?」という不安もありました。

──その不安な気持ちに、変化はありましたか?

その後、ビジュアルの撮影があったのですが、ヘアメイク、スタイリストをはじめ、いろいろな方の力を借りて出来上がった写真を見たとき、素直に「ケンシロウじゃん!」と思えたんです。

どこか、“自分なんだけど自分じゃない”みたいな感覚があって、「たくさんの人の力を借りれば、ケンシロウになれるかもしれない」とそのとき思えて。そこから光が見えてきた感じですね。そのあと台本、楽曲が出来上がってきてどんどん安心していったというか。

歌詞によっては原作にはないセリフ回しが入っているものもありますが、でも「ああ、確かにこのシーンだったらこう思っていたかもしれないな」とか「この人の中ではこういう音楽が流れていたかもしれない」と思えるくらい、役に対してものすごい説得力というか立体感が出て、感情移入がしやすくなりました。

だから「ミュージカルにして大正解だ!」とまで思えるようになって、すごく感動しましたし、安心もしました。原作はもちろん素晴らしいし、楽曲もいい、脚本もいい。あとはもう僕ら演者が全力で頑張るだけです!

言葉にならないケンシロウの思いを踊りで表現できたら

──撮影されたビジュアルまさにケンシロウですが、どんな体づくりをされているのでしょうか?

最初は自重トレーニングをやっていたのですが、今年の2月から週2回、パーソナルトレーニングをしています。僕は胸や肩の筋肉がつきづらいので、そこを重点的にやっていますね。もちろん、原作漫画に描かれているような体そのものになるのは無理ですが、なるべく近づけたいなと思って。

今は、去年の同時期に比べるとMaxで体重を12kg増やして、増量期には増量しながら筋肉をつけて、減量期で体を締める、ということを繰り返しています。

──ミュージカルの根幹ともいえる音楽についてはいかがですか?

(本作の作曲を担当するフランク・)ワイルドホーンさんの作ってくださった曲は、本当に素晴らしい楽曲ばかりなんですよ。なんて言うのかな、楽しいときは楽しい、悲しいときは悲しい、怒りのときは怒り!みたいな、まっすぐで深いダイナミックな楽曲ばかりで。演者としては背中を押されるというか、その音楽にしっかりと入り込めば自然と川の流れのように連れていってくれるというか、ものすごくパワーを感じるんです。

その音楽に純粋に乗れば楽しい気持ちにもなり、悲しい気持ちにもなるので、あとはもうその中でどれだけセリフという歌詞を語るように粒立てていくか、ということだけです。すごく演者を助けてくれる楽曲だなと思います。音楽のジャンルも、ロックからバラードから、訥々(とつとつ)と語るように歌うものまで、いろいろな振り幅があって、さすがはワイルドホーンさん!名曲だらけという感じです。

──ミュージカルのもう一つの要となるダンスについてはいかがですか

僕が唯一弟子入りしたことのある師匠の辻本知彦さんに直々にお願いして今回参加していただけることになりました。辻本さんはコンテンポラリーやジャズ、バレエ、ストリートダンスなどすべてのダンスに精通されている方なので、おそらくいろいろな要素の入ったダンスでケンシロウを表現していくことになると思います。

僕はダンスというものを“言葉ではない何かを伝えるときのもう一つの手段”だと思っているので、寡黙なキャラクターであるケンシロウをどう表現するのかを考えたとき、そこがリンクするというか、“言葉にならない叫び”のような踊りをすることで、ケンシロウの思いを表現できればと思っています。

もちろん“あの”擬音も登場?「本読みでは大爆笑でした(笑)」

──ケンシロウを演じる上で、いちばん大事にしたいと思っていることは?

この作品は、2.5次元の舞台であり、2.5次元の舞台じゃないと思ってるんです。もちろん、原作に対するリスペクトはあるんですけど、僕ら役者の仕事は、どれだけリアリティを持って、生身の人間として、ケンシロウを“本当に存在するかもしれない”とお客さんに感じさせるかだと思っていて。だから、アニメや漫画の中のケンシロウでありながら、今、大貫勇輔が演じる“生きたケンシロウ”を稽古の中で作り上げていきたいなと思ってます。

──漫画には、「ひでぶっ!!」や「あべし!!」などの印象的な擬音が登場しますが、これらの擬音は本作でも活かされるのでしょうか?

ドシドシと活かされると思います(笑)。だから、お客さんがどういう反応をするか、楽しみで仕方ないです。お客さんもきっと、観ていて「来るぞ、来るぞ、来るぞ…!」って思うでしょうし、「言ったー!」ってなりますよ(笑)。

この間、通しで本読みをしたときも大爆笑でしたからね。真剣なシーンなのに、なんか笑っちゃうみたいな。でも僕、それが理想ですね。なんかちょっと笑っちゃうっていうのが。狙った笑いよりも“起きてしまった笑い”みたいな。だから、実際にはどんな反応があるのか、今から楽しみです。

19歳での決意から14年…海外公演への思い

──来年には中国での公演も予定されていますが、海外公演への意気込みをお聞かせください。

僕は19歳のときに、海外のカンパニーに入って海外で活動するダンサーになるか、国内でダンサーを続けるかすごく悩んだ時期ありました。でも、僕の先輩には、海外で活躍したあと日本に凱旋帰国されて活動する方が大勢いらっしゃって…それもあって、「僕は国内で頑張って、有名になって、海外に出られるようなダンサーを目指そう」と決めたんです。それで、日本に留まってずっと活動してきました。

デビューしてから15年ほど経ちますが、少しずつ海外に出るような作品に関わらせてもらえるようになってきています。一つひとつ夢が叶ってきているので、それはすごくうれしいことだなと思います。

中国公演ということで言えば、僕は11年前の上海万博(上海国際博覧会)に関わらせてもらったことがあって、それ以来久しぶりの中国になるので、それも楽しみですね。

──今後は海外進出も視野に入れているそうですが、チャレンジしたいジャンルや作品、または一緒に仕事をしたいと思う人はいますか?

本作は、今までやってきたことの集大成といえる舞台。僕にとって歌、踊り、芝居、アクションのすべてが同じくらい重要なんですね。そういった作品に出会えたこともありがたいんですけど、先日、ダンスを完全封印した「王家の紋章」というミュージカルに出演したときに、「ああ、歌がうまくなりたい!」って心から思ったんです。だからもっとそういうものにも挑戦したいなと思いました。

歌だけとか、お芝居だけで人を感動させる、そういう限定された表現のチャレンジをして、芸をもっと掘り下げていきたいです。

ダンスを使っちゃうと…大変なことですけど、僕にとっては同時に楽なことでもあるというか。「歌だけ」とか、「芝居だけ」のほうが自分の特長を活かせないからより苦しいんですけど、それが自分を強くしてくれるなとすごく感じるので、そういうものにどんどんチャレンジしていきたい気持ちがありますね。

──ダンサーとしてダンスを極めつつ、いろいろなことを極めていきたい?

そうですね。それが今の僕には必要だなと思っています。だから僕、森山未來さんと共演したいんです。彼は踊れるのに俳優メインでずっとやっていて、でも文化庁の文化交流使としてイスラエルのダンスカンパニーで活動して、今もずっとダンスのトレーニングをされていて。

僕は逆に、ダンサーをメインにずっとやっていて、お芝居や歌はあとからスタートしたので、すごくライバル視しているというか。彼はまったくそう思ってないでしょうけど(笑)。またいつか…ミュージカル「100万回生きたねこ」(2013年)で、僕はダンサーサイドから彼のことを見ていたけど、今度は肩を並べられるような形で共演ができたら最高にうれしいな、と勝手に思っています。

──最後に、本作への意気込みをお願いします。

本作は、今、この時代に本当にやる意味のある作品だと思っています。作中に、種もみを奪われそうになった人が「これはまた来年実るために植えるものだから、今食べちゃダメなんだ。今日より明日のために今を生きるんだ」というセリフがあるんですけど、その“今日より明日のために生きる”って、今まさにこの時代も同じじゃないですか。

みんながマスクをしていて、今は好きなことが好きなようにできないけど、明日のためにみんなが最善の努力をして、また無事に明日を迎えようよ、っていう気持ちとリンクするというか。だからこそ、その言葉が胸に沁みて。そこでケンシロウは「久しぶりに人間に会った気がする」って言うんですけど、「そうだよなぁ」と思いました。

たぶん、こんな時代だからこそ沁みたんだと思うんですけど、この作品にはそういうセリフやメッセージがすごく盛り込まれています。だから、原作を知ってる人にとっても、知らない人にとっても、怖いもの見たさでミュージカルを観に来られる方にとっても、必ず予想の上をいくものになると僕は信じていますし、ワイヤーアクションなんかもあって、間違いなく楽しめるド派手なエンターテイメント作品でもあると思うので、皆さんに楽しんでもらえたらうれしいです。

撮影:今井裕治
取材・文:落合由希

<ミュージカル「フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~」公演概要>

出演:大貫勇輔、平原綾香・May’n(Wキャスト)、加藤和樹・小野田龍之介(Wキャスト)、植原卓也・上田堪大(Wキャスト)、川口竜也、白羽ゆり、松原凜子、伊礼彼方・上原理生(交互役替わり)、福井晶一・宮尾俊太郎(Wキャスト)、渡邉 蒼、山﨑玲奈・近藤 華(Wキャスト)、中山 昇、一色洋平、後藤晋彦、澄人、田極翼、百名ヒロキ、宮河愛一郎、安福 毅 ほか

東京公演:2021年12月8日(水)~29日(水)/日生劇場
大阪公演:2022年1月8日(土)~9日(日)/梅田芸術劇場メインホール
愛知公演:2022年1月15日(土)~16日(日)/愛知県芸術劇場 大ホール

協力:株式会社コアミックス
主催:ホリプロ/博報堂DYメディアパートナーズ/染空间 Ranspace/イープラス
企画制作:ホリプロ
©武論尊・原哲夫/コアミックス 1983 版権許諾証GS-111