脳科学者・中野信子さんが、話題の著書について語りました。
好ましかったりそうでなかったり、ときに不可解なこともある人間の思考や行動を、脳科学の視点で鮮やかに解き明かし、数々の著作に加え、メディアでも注目をあびる脳科学者の中野信子さん。
新刊「脳の闇」(新潮社)では、ポジティブ思考の落とし穴や、行き過ぎた正義と他者へのバッシングなど、誰もが陥る可能性のある心の闇と、それがもたらす現代社会の病理をつづり、発売から3ヵ月で10万部を超えるベストセラーに。
ポジティブ思考のメリットが盛んに語られて久しい中、あえて脳の暗部に目を向け続ける中野さんに、誰の中にも存在する“脳の闇”との付き合い方について聞きました。
<中野信子 インタビュー>
――中野さんの、脳や心理学をテーマにした著作は、実に50冊以上(共著含む)。一般の人にもわかりやすい形で、脳の働きにもとづく人間の心理や言動について伝えようと思ったのはなぜですか?
もともと、アカデミズムの資産を一般に還元する仕事は誰かがやらなくてはならない、とは思っていました。ただ、その知見を一般に提供しようとするときにぶつかる壁があります。
アカデミシャンが、知的好奇心で「この現象は、面白い」と思って追っていることでも、一般の人にとっては、我々が思っているほどには面白くないということはしばしばあることです。
こうしたメディエーター的な仕事を始めた当初は、テレビマン相手の時が最も困難さを感じましたね。彼らは一般の人を楽しませようとする技術のプロです。けれども、科学番組や科学記事は、アカデミシャンからすればびっくりするほど理解されない。
大変しんどいことに、一般の人に届ける前に、制作者がそれを理解して、番組なり記事なりを形作る必要があるのですが、あまりにもこのリテラシーの壁が厚すぎて、そこで目詰まりを起こしてしまうのです。マニアックですねえ、と一刀両断されてしまうこともある。
場合によっては見向きもされない。見向きもされないということには、私が女性であることや、大学院博士課程がどういう教育課程であってPhD(博士号)の価値がどういうものかを多くの人が知らないという、高等教育への日本人の一般的な理解が意外なほど進んでいないという残念な事情など、複合的な要因があるのですが、ここはそれを語るところではないので、またどこかでお話する機会があればそこでしましょう。
とはいえこれは、広い目で見ればどの領域にもある現象ですよね。その分野の人には面白くても、大衆的な興味を惹起するには至らないというものはいくらでもある。
また一方で、多くのアカデミシャンたちは、一般の人に幅広く知見を提供することのインセンティブが大きくないため、それは自分たちの仕事の領域を超えてしまうと考えています。平たく言えば、手が回らないのです。
伝える努力ができるほどの時間と労力を持っていないアカデミシャンと、知的好奇心を失ってしまった現代社会の一般の人々との乖離(かいり)は、シンプルに悲しいことですし、危機的なことです。
25年前は、まだ日本には科学技術立国といってよいだけの、一般の人の科学への興味やそもそもの研究者の質など、資産があったといえます。けれど、今はそんな単語を口にしようものなら、実情を知っている方には鼻で笑われるのではないでしょうか。
ウソをウソと見抜ける人だけが入ることのできるのが科学の世界
――そうした中で、脳を知ることは自分を知ることだと感じて、知りたいと思う人は多いのではないでしょうか。
そうですね。また、はじめは科学への興味ではなくても、自分の脳のことを知りたい、という動機が奥深い知見を得るための足掛かりになっていくといいと思います。
ただ、脳科学にはちょっとしたトラップがあります。それは、すぐに役に立ちそうな知見がありそうな感じがする、という点なんです。
植物でいえばすぐに食べられそうな実や種、誰かに小ネタとして話せる(見せびらかすことのできる)花といった部分だけを摘んで集めたがる人は多いでしょう。これがトラップなんです。
もっと本質的な葉や、茎や、根の部分を理解しようとする人は、そのトラップに引っかからなかったごくわずかの人です。まあ、誰がどう科学を利用しようが私の知ったことではないといえばそれまでですが(笑)。
ただ、すくなくともアカデミシャンがメディアを毛嫌いするのはこういうところが原因です。
実や花の使いやすいところだけを切り取り、大量に集めたものを発信するようなサイトがあるでしょう。しかし、これはもう科学とはいえない。ライフハック(※)と銘打つならまだしもです。
(※)ライフハック…仕事や日常生活に役立つアイデアやテクニック
「論文を読みました」と言っても、科学教育をまともに受けていない人の読み方は、論文をあたかも経典のように読んでしまうことがほとんどでしょう。それはもはや宗教です。自然科学系の大学院では論文を読むにあたってそんな風には教えません。もし一言一句論文の通りでございますと読んでいる人がいたとしたらモグリですよ。
ひろゆきさんの言い方をお借りすれば、ウソをウソと見抜ける人だけが入ることのできるのが科学の世界、といってもいいかもしれません。
かつて行われた「ロボトミー」という手術について聞いたことがある人も多いと思いますけれど、これは、最も悲劇的な例の一つでしょう。
――脳科学の歴史の中で、実際に起きた出来事ですね。
ロボトミーは、脳の一部を切除することで、外科的に人格を変化させることができる技術としてもてはやされ、その「治療」を世界で初めて成功させたポルトガルの医師は、1949年にノーベル生理学・医学賞を受賞したのです。
いわば、「人格の整形」ができると捉えられたわけで、当時は大変な喝采を浴びたようです。乱暴で攻撃的すぎるために手のつけようがないだとか、エキセントリック過ぎて本人にも周囲にも損害が大きく困っているだとか、そういった方に対して適用例がありました。
しかし、のちに、不可逆的(※)に人間の人格を破壊する手術だということが知られるようになり、この手術は禁忌の術式として廃されました。
(※)不可逆的…再び元の状態に戻れないこと
科学は万能ではない。一度は素晴らしいものだと人々が信じたものであっても、それが悲劇的な結果をもたらすことがあるのです。素晴らしい社会をもたらす技術革新の根底にはもちろん科学があるのですが、それを運用するのは人間です。
専門家も当然、職業倫理として努力はするわけですけれど、情報を受け取る側も、ただ経典のように頭から信じるのではなく、よく吟味して、自分なりにリテラシーや教養を高めてほしい。
ChatGPTなどで誰でももっともらしい言説を作ることができるようになった現在ではなおさら、このことを忘れないでいてほしいんです。
――中野さんは、これまでも「不倫」や「毒親」「キレるメカニズム」など、人間の闇の部分に着目してきました。脳の暗部に目を向け続けるのは、なぜですか?
明るい面だけを書くことの危険性を感じているからです。
性善説をベースに構築された社会で、最も危険にさらされてしまうのは、悲しいことかもしれませんが、性善説にもとづいて生きている人たちです。
たとえば、どんな人からの電話であっても信用しましょう、どんな相手であっても人間なのだからまずは信頼しましょう、という世界を想像してみてください。これはもう詐欺師の天国ですよ。性善説というのは、確かに美しいのですが、善き人がその美しさの陰で犠牲になってしまう構造であることを忘れるべきではありません。
そもそも、性善説等でいうところの「善悪」も、実はその基準は極めて恣意的であり、その時の社会的背景等の状況を鋭敏に反映して、コロコロと変わってしまいやすいのです。
善というのは生得的に基準が決まっている感覚ではありません。自分たちに都合がよければ「善」、自分たちに損害があるようなら「悪」と、変更しやすいようにわざわざできているのです。
よく言えば「柔軟に変えられるように設計されている」とも言えます。所属するコミュニティによっても変わりますし、もちろん時代や国によっても違ってきます。
――そのことを大前提として物事にあたらないといけないのですね。
バルザックの『ゴリオ爺さん』という小説の中に、ラスティ二ャックという学生がでてくるのですが、いつの日か報われることを信じて、出世を目標に地道に勉学と労働に励むのか、手っ取り早く富裕層の仲間入りを果たすために非道徳的なことに手を染め、莫大な遺産を相続できる女と結婚するのか、という選択を迫られます。
どちらが善なのか、悪なのか…遠く時代を隔てて、小説として読むなら、この登場人物をやすやすと攻撃も断罪もできると思いますが、現実に自分がその立場になったら、どうでしょうか。
この二者択一は、あるベストセラーを書いた経済学者が「ラスティニャックのジレンマ」と名付けています。敢えてタイトルは出しませんが、本当によく売れた本でしたから、ちゃんと読んだ人はピンと来るはずです。
格差は広がり続ける一方である、とこの著者は主張しています。 持てる者はより多くを得、持たざる者は持っているものまで奪われる。聖書にすらそう記されています(マタイの福音書25節)。まさしくそういう世界の中に私たちは生きています。
この残酷な現実に、私たちは、果たして性善説だけで対峙していけるのでしょうか?さすがに無理があるかと思います。
もちろん、物事の理想的な在り方を信じて、それだけを見つめていたい人の気持ちを否定するつもりはなく、何事も自由です。
けれども私は、理想的な在り方だけを見て過ごすには向かないほど十分に年老いており、いかなる理論も現実より先行することはあり得ないという考え方の人間です。そして、現実は得てして理論よりも不都合であることが多いものです。
相手も自分と同じ傷つく存在であることを忘れ、エンタメとして人を攻撃
――今回の著書の中では、これまで以上に「正義中毒」への危惧が力説されています。正義におぼれて、人が人を攻撃するという現象はなぜ起きるのでしょうか?
そうでしたか?他に何冊も書いていますよ。それに比べれば力説しているとはちょっと言えないと思いますが。
「善悪」と同様、「正邪」というのもまた、その基準は極めて恣意的であり、その時の社会的背景等の状況を鋭敏に反映して、コロコロと変わってしまうものです。例えば不倫事件ひとつとっても、「30年前の正義」と、「現在の正義」とでは、ずいぶん違うものでしょう。
これは、別に刊行した書籍で詳述していますからそちらを参照してください。ネットでしか文章を読まない人は本を買って読む習慣がないので、ご存じないかもしれませんが、日本語を読む力が下がってしまう。タイトルや煽り文句で容易に誤った正義感に火が付く状態になってしまいます。相手も自分と同じように傷つく存在であるということを忘れ、想像力はどこかへ消し飛んでしまい、エンタメとして簡単に人を攻撃します。
それがいったん始まってしまうと、どんなに「あなたは誤解している、それは私の言っていることとはまったく違う」と修正しようとしても、攻撃側は自分の誤った主張に従って人を断罪する快感を味わいたい中毒状態になっているので、その炎がすぐに消えることはないのです。攻撃する当人が消してしまいたくないと強く願っているからです。
すでにこれに関する書籍は二冊以上出していますし、胸糞悪い話ですから本当はこんな話はもうこれ以上語りたくないのですが。けっこう語っているつもりなのにまったく状況が解消されないので、もっと言わなければならないのかと嘆息しています。
日本語話者なのに、文章をきちんと読めない人、本を読まない人が、自分が正義中毒であることを客観視できないまま、いつもいつも誰か一人を見つけようと目をぎらつかせていて、標的が見つかればいち早くその人を攻撃し、快感を搾り取るように攻撃し続けて、それに溺れて日々を過ごしているんだろうなあ、と思っています。
――「正義のためなら人を傷つけてもいい」という、偏った判断を防ぐにはどうすればいいのでしょうか?
もう、本を読んでください(笑)。
取材/浜野雪江
<書籍情報>
中野信子「脳の闇」(新潮社)
発売中
定価:946円(税込)
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