一生懸命がんばっているのに、どうも生産性が上がらない――。

そんな風に悩んだことはないでしょうか?

そもそも「生産性」とは何なのか、チーム全体の生産性を上げるにはどうすればいいのか、そんな疑問に答えるオンラインのトークイベントが開催されました。

そもそも生産性とは?「簡単な計算式」で導き出すヒント

早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄さんとフジテレビの清水俊宏の2人がモデレーターとしてスタートした「シゴトイノベーション」のセッション。

入山章栄(中央)と清水俊宏(右)。左はアシスタントの田ケ原恵美

ゲストに、パーソルプロセス&テクノロジーの小野陽一さん、政府のDX白書有識者委員を務める沢渡あまねさんが登場し、「なぜあなたのチームは生産性が上がらないのか?」というテーマで議論が展開されました。

パーソルプロセス&テクノロジー株式会社執行役員ビジネスエンジニアリング事業部事業部長の小野陽一氏(左)と政府のDX白書有識者委員を務める沢渡あまね氏

まず、「生産性」の定義から。小野さんは、「生産性」の一般的な考え方を説明しました。その計算式がこちら。

(生産性)=(付加価値)÷(資源)

「付加価値」とは、生産過程で新たに付け加えられた価値のこと。一方、「資源」とは、生産するのに使う「ヒト」「モノ」「カネ」などのことです。

つまり、「生産性を高める」ためには、「付加価値を大きく」するか、「資源を小さく」することが必要になります。

例えば、これまで10人でやっていた作業を8人でできるようになれば、使った「資源」は小さくなります。それで同じ「付加価値」が出せるのであれば、「生産性」は上がったことになります。

1(生産性)=10(付加価値)÷10(資源)

1.25(生産性)=10(付加価値)÷8(資源)

そうした「資源の効率化」は各業界で進められていますが、資源をゼロにすることはできないため限界があります。しかも、ヒトなどの資源を減らしすぎれば、先細りする未来が見えています。

「効率化の“悪い方の権化”だと思うんですけど、どんどんコミュニケーションを簡略化して、チーム内のコミュニケーション不足で物事がうまくいかなくなるんです」(小野さん)

コミュニケーション不足に…(IMAGE)

そこで、「生産性の本命」とされるのが、「付加価値をどうやって大きくしていくか」です。

人数が増えただけでは、付加価値は上がらない

しかし、“能力のある人間”をたくさん集めて、それぞれが一生懸命長時間働けば付加価値が生み出されるというものではありません。

というのも、「チーム」として動けていないため、無駄な作業をしてしまったり、やる気が起きなかったりといった悪影響が様々な企業で生じています。

NG:(生産性)=(能力)×(人数)×(時間)

「大事なのは、認識合わせです。認識合わせは、仕事をしているとすっぽ抜けていくことが多い。自分のチームの周りにいるステークホルダーとの認識もそうですし、チームの認識合わせもしていくと、色々な気づきや発想など、新しい付加価値が生まれます」(小野さん)

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例えば、バックオフィスの管理業務の人は、社内から「パソコンを1週間後に納品できるようにして」と言われても、「1週間後に納品したら何の影響があるんですか」と反発しがち。この時、認識合わせができていて「1週間後に納品することで営業部門の仕事の能率が、これぐらいが上がるんだ」などと意図がわかれば、仕事の進め方が変わってきます。

嫌な長時間会議も、報告のルールなどを事前に決めて認識を合わせておく。そうすれば、会議そのものの時間が半分以下に短縮されたたとしても、フラットな対話が促進され、新しいアイデアが生まれやすくなります。

小野さんが所属するパーソルプロセス&テクノロジーでは、そうした仕事が進めやすい仕組み作りのノウハウをまとめ上げ、「COROPS(コロプス)」というチーム強化メソッドの冊子やWebを提供しています。

多様性の課題は「会議がもめること」

沢渡さんも「認識合わせが重要」との考えには強く同調しました。

「私は『認識合わせ』を『景色合わせ』という言い方をしています。『お客様の景色』と『サービスを提供する会社の景色』。『課長の景色』と『部長の景色』と『担当者の景色』。それは違って当然なんです。景色の違いをまずは理解し合う。マーケティング能力やデザイン思考も、他者の景色をいかに見るか、理解するかだと思います」(沢渡さん)

他者の景色を見るだけでなく、それを体験する「越境」も重要だと言います。

「例えば、いつもと仕事をするペアを変えてみるとか、仕事内容をちょっと違うことをやってみるとか、ずっとオフィスや自宅にこもっていないでどこか別の場所に行ってみるとか。ちょっとしたところから景色を変えてみる。『越境』×『共創』が、これから組織がイノベーション体質になっていくためにものすごく大事です」(沢渡さん)

「生産性」という言葉を聞くと、数値目標をどう達成するかに意識が向きがち。ですが、イノベーションを起こすことで「付加価値」を高くして「生産性」を上げるというアプローチもあるようです。

(生産性)=(越境)×(共創)

「越境し続けて、チームでフラットにディスカッションをしながらやり方を変えて、成長していく。チーム組織によって高い価値を出して、本来価値をアップデートし続ける。いかなる職種も、越境し続けて景色を変え続けるって大事なのかなと思いました」(入山さん)

越境することで「多様な視点」を得て、「フラットなコミュニケーション」をすることで共創する。もちろん、簡単ではありません。

「多様性がある組織って何が課題かと言うと、会議がもめるんです。でも、もめることに価値がある。僕はよくビジョンの腹落ちと言うんですけど、『このもめている会議って何のためにやるんだ』という方向感の腹落ちが重要なのと、色んな人がいてもめるからこそプロセスの透明性が重要です」(入山さん)

入山さんにしてみれば、プロセスの透明性が低くて見通しが悪い状態は「真っ暗闇をGPSなしで経験と根性で運転しているようなもの」とのこと。

コロプスにはそういったプロセスの可視化のメソッドも詰まっているということで、小野さんはこう強調しました。

「仕事の進め方を良くするのは特別な技術ではないんです。コロプスに書いてあることも誰でもできることなので、ちょっとチームの雰囲気がいまいちだなという時には、見方を変えて、仕事のプロセスを整えてみていただけたらすごく嬉しいです」

その他、イベントでは、積水化学工業株式会社新事業開発部イノベーション推進グループ長のイノベーション鈴木氏も登壇し、「イノベーションを呼び込むチーム強化術」が紹介されました。

イベントの詳しい模様は文化放送『浜カフェ』(7月31日と8月7日に放送予定)と、YouTubeチャンネル『#シゴトズキ』で確認することができます。