3月26日(金)21時より、フジテレビでは、十三代目市川團十郎白猿襲名記念ドラマ特別企画『桶狭間〜織田信長 覇王の誕生〜』が放送される。

日本史上最大の逆転劇とうたわれ、織田信長を一躍戦国時代の主役に押し上げた伝説の一戦、“桶狭間の戦い”を描いた本格時代劇だ。

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画面から広がる戦国時代の風景や、織田信長をはじめとする登場人物たちの思いが動く城内の雰囲気を生み出した、主にセットのデザインなどを手がける美術・松下ゆかりさんに『桶狭間』への思いやこだわり、制作秘話を聞いた。

江戸時代とは違う、戦国時代の“時代感”に注意した

――『桶狭間』のオファーを受けて、まず、どのようなことを感じましたか?

時代劇の話がきて最初に考えるのは描かれる時代、登場人物、演じるキャストです。演じる人がわかっていると、セットを考える時によりイメージがしやすいんです。『桶狭間』で海老蔵さんが信長を演じられると聞いて、どんな信長になるのかを想像しながら、それをどう見せたいかを考えていくのはとてもやりがいがありました。

――そこからどんな準備をしたのですか?

近年、時代劇で描かれるのは江戸時代が多いように感じています。私自身も戦国時代は初めてではありませんが、あらためて資料集めから始めました。さらに休みを利用して、熱田神宮や名古屋城、清洲城にも行ってきました。現在ある清洲城は当時のものではないので、実際に存在していた場所にも行きました。当時の様子が描かれた資料があって、それを踏まえて地形を見てみたかったんです。もちろん今は当時のものは残っていないし、周囲だって戦国時代とは全然違う。それでも遠い昔に思いをはせながら雰囲気を感じることはできました。

――戦国時代のセットの特徴となるのはどんなところでしょうか?

この時代、ほとんどが板間なんです。時代劇でよく見る、広い部屋一面に畳が敷き詰められているのは江戸時代。戦国時代、畳は寝間や座る時に下に敷く程度にしか使われていない移動式だったらしく、こういう部分で時代感が出るので注意しました。

ほかにも棚ひとつ、屏風ひとつにしても時代が出るので、装飾スタッフと時代考証しながら準備しました。今回の作品では城内シーンが多く、あまり外観は出てきませんが、お城の全体像も、一般的にイメージする天守閣がそびえている立派なものではなくて、物見やぐら程度だったのも時代を表しているひとつです。

今回は、スタジオにもともと準備されている“パーマネントセット”と言われる時代劇用の骨組みを使用して城内を制作しました。ベースがあるぶん、便利な部分はありますが、その限られたベースの中で、さまざまな工夫をしながら時代や物語なりのものを作っていくのは苦労するところではあります。

海老蔵をより格好よく、より迫力があるように見せたいという思い

――そんな中で、こだわった点、苦労した点を教えてください。

「市川海老蔵が演じる織田信長をどう見せるか」は、最も考えた部分です。より格好よく、より迫力があるように見せたいと思い、そのためにどうすればいいかを考えて、背面に大きく紋を置き、板壁は黒漆喰にして見栄えよく作ることにしたんです。それに合わせて照明さんがいい光をあててくれたことで、より海老蔵さんらしい信長に見せられたのではないかと思っています。

今回、砦が3つ出てきますが、場所の関係で2ヵ所しか作れず、それを映像的に3つに見せる工夫をしました。同じ場所でさまざまな制約がある中で、それぞれ違う表情を見せるのはかなり悩みましたが、映像技術や演出等の大きな支えもあって、それぞれ特色のあるものが出せたと思います。

――今川義元の陣営は、オープンセットで作られたものですね。こだわりを教えてください。

今川義元(三上博史)の陣城(じんしろ)は、竹で組むことにしました。移動しながら即興で作ったはずで、それほどしっかりしたものではないと予想し、近くで切ってきたであろう竹で基礎を、組み屋根はテント形式で幕を張り…と、動きから想定して作ったものです。

デザインを描いた後、室内で実際に骨組みを組んでもらったりと準備をして撮影に挑みましたが、野外での撮影は想像以上の風や雨に苦戦しました。それでもみなさんに支えてもらい無事に撮影することができてよかったです。

――改めて、『桶狭間』を振り返っての感想を聞かせてください。

今回は単発ドラマにしては多くのセットを組んだと思います。それだけ苦労はありましたが、やりがいがありました。時代ものは資料が限られてくるし、資料によっての違いもありますが、それらの中で物語や出演者を照らし合わせて、どんな感じにしたいのかを想像する楽しさがある。織田信長や今川義元がどんな風に生きてきたのか、男の戦いである合戦シーンをどう見せるかを想像しつつ、作り上げたのは楽しかったです。

<プロフィール>
松下ゆかり:東映(株)京都撮影所 美術
近年では、ドラマ『柳生一族の陰謀』、『科捜研の女』シリーズなど時代劇・現代劇問わず、主にドラマ美術を担当。