『イチケイのカラス』第1話完全版
入間みちお(竹野内豊)は、東京地方裁判所第3支部第1刑事部<通称:イチケイ>の刑事裁判官。ある出来事がきっかけで弁護士から刑事裁判官になった経歴を持つみちおは、ヒゲを生やし、服装はカジュアル、とぼけた発言もしばしばという、お堅い裁判官のイメージとはほど遠いゆるい空気をまとった男。
しかし、先入観に一切とらわれない自由な観察眼と、徹底的に調べ上げる探究心を持ち、弁護士団や検察官の双方から恐れられているクセ者だ。
そんなみちおを見守っているのは、イチケイの部長で、有罪率99.9%といわれる日本の刑事裁判において30件あまりの無罪判決に関わっている伝説の裁判官・駒沢義男(小日向文世)と、元傍聴マニアで、みちおのファンを公言している裁判所書記官の石倉文太(新田真剣佑)。
また、お人よしの主任書記官・川添博司(中村梅雀)、3つ子の母でもある姉御肌の裁判所書記官・浜谷澪(桜井ユキ)、物おじしない新人の裁判所事務官・一ノ瀬糸子(水谷果穂)も、しばしばみちおに振り回されつつ、イチケイを支えているメンバーだ。
そのイチケイに、若くして特例判事補になったエリート・坂間千鶴(黒木華)が赴任することになった。東大法学部出身の坂間は、冗談がまったく通じない堅物タイプで、裁判官が的確かつ速やかに事件を処理することで日本の治安が維持されている、と強烈に自負している。
坂間がイチケイに異動してきた目的は、事件の処理件数が信じられないほど少なく、会社なら倒産レベルの“赤字”状態であるイチケイを立て直すためだった。
着任早々、法廷見学に来た中学生たちの応対を頼まれた坂間は、一つ一つの質問にただただ真面目に答える。と、そこに何故かみちおの姿が。みちおのことを引率の教師だと思いこむ坂間。
判決を出すときに悩むか、と尋ねられた坂間は、検察が時間をかけて綿密な捜査を行い、99.9%の確証がなければ起訴はしないのだから悩む必要はない、と答える。するとみちおは、裁判官にとって大事なことは話を聞きまくって、悩みまくって、一番良い答えを決めることだと思うと反論。
さらに、「もし罪を犯して裁かれるとき、この裁判官どう?」と中学生たちに問いかけた。一斉に目をそらす中学生たち。みちおは、怒りに震える坂間に、「君は裁判官として優秀なんだろうね。でも、悩まないことに悩むと思うよ」と言い残して去ってしまう。
第1刑事部に戻った坂間は、中学校に抗議すると言い出す。そこで、みちおと出会った坂間は、不法侵入の現行犯だといってみちおを押さえつけた。そこで初めて、みちおが刑事裁判官であることを聞かされた坂間は、驚きを隠せず……。
駒沢は、そんな坂間にみちおと組むよう指示する。みちおを裁判長に、坂間と駒沢の3人で審議する合議制で取り組むことになった起訴案件は、大学生の長岡誠(萩原利久)が、代議士の江波和義(勝村政信)に全治1ヵ月のケガを負わせた傷害事件だった。
実は誠は、江波の秘書だった洋一郎(松澤一之)の息子。洋一郎は、2ヵ月前、不正献金疑惑で東京地検特捜部がマークし始めた矢先に、電車に飛び込んで自殺を図っていた。
検察側から、みちおのお目付け役として東京地検第3支部に異動してきた井出伊織(山崎育三郎)と、上司の主任検事・城島怜治(升毅)が出廷した第1回公判。誠は江波の方から先に殴ってきたと証言し、父は自殺ではなく事故だと主張した。
洋一郎は、自殺した日の朝、就職祝いだと言って初めて誠と飲みに行く約束をしたのだという。また、現場の踏切は、電気系統のトラブル一時的に遮断機が故障していたというのだ。
するとみちおは、傷害事件のもとになった洋一郎の死の真相を確かめる必要があるとして、捜査権を発動し現場検証を行うと言い出して坂間や井出たちをあ然とさせる。
現場検証の日、みちおは、坂間たちイチケイメンバー、検察チーム、誠の弁護士とともに洋一郎が自殺したという踏切を訪れる。そこでみちおは、折り紙で作ったような花が手向けられた場所にしゃがんでいた女の子・相馬奈々(古川凛)を見かける。奈々は、みちおたちを見かけると足早にそこから立ち去った。
みちおは、洋一郎が自殺したという夕方まで現場検証を続け、夕日で電車が見えないこと、線路と並行する道路や高速道路にトラックなどが行きかっていることを確認すると、日を改めてもう一度調べると言い出す。
その夜、坂間は大量の肉を買い求め、裁判官官舎に戻る。と、そこにみちおがやってくる。みちおも官舎に住んでいるのだという。坂間は、肉を食べてストレスによる免疫力低下を抑えようとしたものの眠りに付くことが出来ず、ふいにパソコンに向かうと、二度目の現場検証は不要であるという根拠をまとめ、みちおに渡しに行く。
それを受け取ったみちおは、いきなり「浦島太郎」の乙姫をどう裁くか、と問いかける。坂間は、地上とは時間の進み方が違う竜宮城に連れて行ったことで詐欺罪が適用され、玉手箱の煙は危険物にもかかわらす明確な使用目的を告げずに土産のように手渡したことで、浦島太郎を老化させ苦痛を与えたことや煙の量を間違えれば死んでいた可能性もあることから殺人未遂も視野に入れるべきだと答えた。
それに対してみちおは、乙姫が何故玉手箱を手渡したのかを知ってからでないと決められない、と返し……。
別の日、2回目の現場検証が行われた。だが、何故かみちおの姿はなく、苛立つ坂間たち。すると、遠くからみちおが坂間を呼ぶ声が聞こえた。だが、その声はすぐに大型トラックの騒音にかき消されてしまう。
みちおは、手に持った騒音測定器で現場の音量を測定していた。実は、みちおは、このあたりの住民が再開発工事の中止を訴えて民事裁判を起こし、裁判所の前でもビラ配りをしていたことに注目していた。
建設会社の作業記録から洋一郎が電車にひかれた時刻のトラックの通行量は、1回目の検証のときと同様だった。だが、事件が起きたのはこの日と同じ25日で、普段より交通量が増えているために、電車の音が聞こえなかったのだ。
それでも検察が自殺だと断言したのは、相馬真弓(松本若葉)という目撃者の証言があったからだと知ったみちおは、真弓と、江波議員本人の証人尋問を行うことにする。
第2回公判は、江波議員への暴行事件に、洋一郎の死が関わっている可能性があるとして、マスコミの注目を集めた。証言台に立った江波は、洋一郎から、不正献金を受け取りクラブの女性に貢いでいたことを告白され、彼は死んでお詫びをすると言って制止を振り切って電車に飛び込んだと証言する。
近くの工場で働いているという真弓も、仕事終わりに現場近くを通りかかり、江波と洋一郎が何かを話していたこと、そのうちに洋一郎が線路に向かって走り、飛び込んだことを証言する。
それらの証言を踏まえて、井出は、誠が一方的に江波に恨みを抱いたと主張した。さらに城島は、この裁判が傷害事件の審理から逸脱しているとして、異例の抗議をする事態に。
第2回公判を終えたみちおたちが第1刑事部に戻ろうとすると、そこに“女帝”と呼ばれる最高裁判所裁判官・日高亜紀(草刈民代)がやってくる。坂間にとって日高は、司法研修所の上級教官であり、同じ長崎出身でもある憧れの存在。
坂間を東京地方裁判所第3支部第1刑事部に送り込み、その立て直しを命じたのも日高だった。日高は、検察から抗議があったことに触れ、裁判長を交代するよう駒沢に要請する。しかしみちおは、拒否するという。
日高と2人だけになった駒場は、責任なら自分がとるから裁判官の交代は待ってほしいと頼む。すると「入間くんに肩入れするのは、青臭い正義感?同情?それともまさか贖罪――ではないですよね」と告げる日高。駒場は、そんな日高に、みちおのことが怖いですかと告げると、いつか彼があなたを裁くかもしれない、と続けた。
その日の夕方、みちおは、坂間と共に石倉の実家「そば処いしくら」を訪れる。そこでみちおは、弁護士仲間から譲り受け、石倉のもとに居候をお願いしている愛犬・みちこを連れ出し、問題となっている踏切まで散歩に出かける。その際、みちおは、公園の鉄棒で逆上がりの練習をしていた奈々に出会う。
一方、坂間は、真弓について調べており、2年前に離婚したが元夫からの慰謝料の支払いが滞っていること、現在は勤めていた工場を退職し、大手企業の事務員になっていることを調べ上げていた。
みちおは、坂間とともに再び奈々に会いに行き、公園で一緒に逆上がりの練習をする。そこにやってきた真弓は、奈々を連れ帰ろうとするが、奈々は動こうとしなかった。
みちおは、奈々が踏切に花を手向けていることを真弓に告げ、苦しんでいるように見える、と続けた。奈々は、真実を言えない苦しみを抱えているのではないか、と問われ、動揺する真弓。みちおたちは、もう一度、話を聞かせてほしいと真弓に頼んだ。
第3回公判で、みちおは、法壇から降り、真弓から聞いた真相を明らかにする。実は洋一郎は、電車が来ていることに気づかず、踏切で落としてしまったおもちゃを拾っていた奈々を助けようとして命を落としていたのだ。江波は、工場の取引を中止にすることもできると真弓を脅し、虚偽の証言をするよう命じていた。工場を辞めて、大手企業に転職したのも江波の指示だった。
傍聴席にいた江波は、真弓の証言はでたらめだと叫んだ。すると、そんな江波を怒鳴りつけたのは坂間だった。
みちおは、真弓が口論していた江波と洋一郎の会話も聞いていたことも明らかにした。洋一郎は、江波の不正献金を公表する、と宣言していたのだ。この証言にともない、城島と井出は、江波が、不慮の事故で亡くなった洋一郎を利用して不正献金の金の流れを偽装した可能性が高いとした。
洋一郎が女性に金を貢いでいたという記事も、江波が親しい記者に書かせたことがすでに分かっていた。
江波が法廷から逃げるように立ち去った後、みちおは、踏切近くに落ちていたという小さな箱を誠に手渡す。箱の中身は、洋一郎が誠の就職祝いのために用意していた腕時計だった。みちおから、次回判決を言い渡すがその前に話しておきたいことはあるか、と問われた誠は、自分から江波を殴ったと打ち明け、嘘をついたことを謝った。
みちおは、坂間と駒沢に、求刑通り懲役1年6月、執行猶予をつけるという判決でどうかと告げる。その席で坂間は、「浦島太郎」には後日談があると切り出す。おじいさんになった浦島太郎はなぜ玉手箱を渡されたのか理解し、本来なら死ぬはずだったが乙姫のおかげで千年の命を持つ鶴に生まれ変わり、そして亀に姿を変えた乙姫と再会を果たして永遠に結ばれた、と。
続けて坂間は、真実を知って受け止めたら、誠がこれからの人生で前を向いて生きていけるから2ヵ月前の…と言いかける。それを遮って、その後日談は本当なのか、と言い出し、甥っ子に知らせてあげないと、と言って席を立つみちお。駒沢は、今回みちおがこの案件を合議制にしたのは、伝えたいことあったからだと思う、と坂間に伝えた。
その際、駒沢は、自費出版した本を坂間に勧める。駒場が、裁判官にとっての心構えをまとめたものだという。だが、実はその本は、スマホゲームに課金するための資金をかせぐためのものらしい。それよりも坂間は、任官してからずっと刑事事件を担当している駒沢が30件もの無罪判決に関わっていることを知って驚いていた。
みちおが帰り支度をしていると、宅配便が届く。それは、ふるさと納税の返礼品だというカラスの絵画だった。みちおは、それを見た坂間に、イチケイのカラスになれ、と告げ……。