5月8日(土)の『週刊フジテレビ批評』は、「幅広テーマで多彩&充実! 春ドラマ辛口放談」の後編を放送した。

左から)渡辺和洋(フジテレビアナウンサー)、新美有加(フジテレビアナウンサー)

今クールの春ドラマは、多彩なテーマの作品が並んだ。

そんな各局ドラマを、ドラマ解説者・木村隆志氏、日刊スポーツ芸能担当記者・梅田恵子氏、ライター・吉田潮氏というドラマ通たちが、忖度ナシに斬った。

左から)吉田潮氏、梅田恵子氏、渡辺和洋(フジテレビアナウンサー)、新美有加(フジテレビアナウンサー)、木村隆志氏

意見が割れた『恋はDeepに』は、最後が楽しみ!?

まずは、前編で取り上げられなかったドラマを紹介。梅田氏が挙げたのは、石原さとみ演じる海を愛する魚オタクの海洋学者と、綾野剛演じるロンドン帰りのツンデレ御曹司の運命的な恋を描く『恋はDeepに』(日本テレビ)。

梅田:1話を見たときには「今期ワーストかな」と思ったんですけれども、2話から物語がガラッと動き出しましたね。海を守りたい海洋学者と、リゾート開発会社の御曹司の、立場違いの恋という感じなんですけれども。

石原さとみさんの正体は、わからないんですが、“海を守るために、海からきた人魚かも”という視点で見ると、それまでの不思議ちゃんみたいな発言に、大変な意味が込められていたりとか。けなげな奮闘というのが、すごく応援しがいがあって、楽しいんですよね。うまく化ければ、ラスト、せつなそうだなって。オリジナルなので先が見えない最終回まで、一本道を一緒にたどりたいなと思います。

日刊スポーツ芸能担当記者・梅田恵子氏

吉田:興味ないですね(笑)。あの、今テレビドラマ界で“有機物や無機物と喋れる女”みたいな流行りがあるんですかね。それが、どうしても受け入れられなくって。ファンタジーはいいんですけど…。まあ、最後、石原さとみは、泡になるのか、カサゴなのか、うつぼなのか、ウミガメなのかっていう…正体が楽しみかなっていう。

木村:禁断の恋と「人魚姫」風のファンタジー。その2つが、例えば「キュン」とか「バズ」みたいなものにつなげたいと思っているんでしょうけど、それがあまりうまくいってない。やっぱり、TBSの火曜ドラマと比べると、今期もラブコメに慣れてないなという感じがしますし。

ちょっと、主演の2人の年齢層も高いなというのもあります。もう少し(年齢が)下の俳優さんを使って…TBSの火曜ドラマは、それをやっている。そのあたり、ネット上の声を拾っていくと、違和感をあげる声が、目立ちますね。

渡辺アナ:その、TBSの火曜ドラマは、川口春奈さん、横浜流星さんご出演の『着飾る恋には理由があって』。

木村:久しぶりに、火曜ドラマやっちゃったな~というところですね(笑)。これまでは、どちらかというとキュン寄りの作品が多かったんですけれども、群像劇にして、シェアハウスにいろんな人が住んでいる…というところにチャレンジ。やってみたら、ターゲット層がぼやけてしまった。今まで、キュンを目当てに来ていた人も逃してしまっています。

梅田:ないでしょう、これは(笑)。SNSをバズらせる、そこに集中している作品なのかなと。だって、シェアハウス、ミニマリスト、インフルエンサー、お姫様抱っこ、壁ドン…とにかく、こういう世界観なんですよ。だから、それが狙いであるならば目標は達成しているんでしょうけれども、尊敬する制作陣だけにガッカリだったかな。

『コタローは1人暮らし』は、土曜深夜に、しっかり笑い泣きできるような状況を作ることができている

木村が挙げたのは、横山裕が連ドラ初主演を務める、アパートの住人が織りなすハートフル・コメディ『コタローは1人暮らし』(テレビ朝日)。

木村:漫画原作の実写化なんですけれど、5歳の子どもが1人暮らしをするという設定で、もうグッとくるものがある。それを見守る周囲の人たちを描くドラマなんですけれども、ほのぼのするところもあれば、胸を締めつけられるようなところもあって。土曜の深夜に、しっかり笑い泣きできるような状況を作ることができている。

強いけど、寂しいとか、子役の子(川原瑛都)がすべて醸し出してくれてるんですよ。

ドラマ解説者・木村隆志氏

梅田:コタロー(川原瑛都)くん、かわいいですよね。引っ越ししてくるときに、1人でボックスティッシュを一軒一軒配って挨拶するところとか、すごく好き。原作漫画の雰囲気を、とてもうまく映像化していて、素敵なんですね。

この5歳の男の子に、無目的で生きている主人公が、この子の面倒をどうしても見ちゃう中で、成長していくっていう。そこもしっかり描かれているので、すがすがしくて、ほのぼので、最高です。

吉田:脇がすごくいいんですよ。大家さん夫妻を、なぜかイッセー尾形が1人2役でやっているんですよね。あと、編集者が大倉孝二とか、保育園の先生が峯村リエとか、まあ、私の大好きな、お芝居をやっているちゃんとした俳優さんたちで固めているので、興味深く見ています。

『イチケイのカラス』は、法曹界でも人気のある原作をエンタメ化し奏功

そして、ここからは、これも捨てがたいというドラマを、各人がひとつずつピックアップ。

吉田が挙げたのは、竹野内豊が型破りのクセ者刑事裁判官を、黒木華が堅物のエリート裁判官を演じる『イチケイのカラス』(フジテレビ)。

吉田:私が好きなのって、だいたい視聴率低いんですけど、これは割と来てますよね。私は、“じゃない方の月9”と呼んでいるんですけど。要するに「医師じゃなくて、技師」とか「医師じゃなくて、薬剤師」とか。今回は「検事でもなく、弁護士でもなく、裁判官」。“じゃない方”シリーズが、きちんと進化しているなというのを評価したいというのがひとつ。

あと、全然イヤな感じがしないんですよね。破天荒って、鼻につくタイプのキャラクターが多かったりするんですけど、(竹野内演じる主人公が)すごくソフトで柔らかさがある。その対比として、四角四面で真面目な堅物の裁判官の黒木華。そのやりとりが、私はすごく新鮮というか、胸がすく。言葉の機関銃で断固拒否する女(黒木)の姿をちゃんと見せてくれるというのもあって。

ライター・吉田潮氏

梅田:実際、すごく面白いですよ。手堅く丁寧に作っていますし、裁判官のリーガルドラマって、それだけで新鮮ですし。表に出るイメージがない裁判官という職業ですけれども、「職権発動します」と裁判所主導の再調査で裁判官たちが現場に出ていくんですよね。そこの現場感というのもちゃんとありますし、見ごたえもカラフルで楽しいです。

木村:原作漫画は、法曹界でも人気のある、評価されているもので、非常によくできているんです。今回フジテレビは、それを思い切ってアレンジしたんですね。主人公の性別も性格もエピソードも変えて、決めセリフ作って。ものすごくエンタメ化して、それがうまくいっているんですよ。でも、だったら、オリジナルで作れるじゃないかと思ってしまうんですね。それくらい力がある方がそろっていて、もしオリジナルだったら、これが連ドラ初の裁判官ドラマとして、もっとバーンと宣伝できたんじゃないかなと思って、若干のもったいなさを感じています。

木村が挙げたのは、『最高のオバハン 中島ハルコ』(フジテレビ系)。大地真央演じる、名古屋出身の毒舌スーパーレディ・中島ハルコが、松本まりか演じる38歳の独身女子を振り回しながら、世の中の悩みをぶった斬っていく

木村:これは、あんまり語るほどのドラマじゃないんです(笑)。深夜帯に、馬鹿で下世話で、でもスカッとできる。何より、大地真央さんと松本まりかさんが1話から役をつかんでいて、その2人を見るだけで、土曜の夜をスカッと過ごせる。それだけでいいと思うんですけれども、(制作の)東海テレビに注目したいんですね。『その女、ジルバ』に続いてこれを持ってきたところが、作風の幅が広いし、思いきって挑戦しているところが伝わってきますし、「こういう風通しのいいドラマ班がいる局っていいな」と思います。

梅田:タイトル通り、最高のオバハンです(笑)。お金、お金…とか打算的にグイグイ進んでいって問題を解決するんですけれども、打算的なのに最終的にはものすごく人間味のある着地が。人間大好き!な主人公のたくましさも。だから、私もこの人に怒鳴り飛ばされて「しっかりしなきゃ」と思うような、元気になれる作品です。

吉田:大地真央さまの、大地真央さまによる、大地真央さまのためのドラマっていう…豪華で素敵ですよ。大地真央、めちゃくちゃかっこいいなと思いますけど、ちょっとそれが強すぎるかなというところ。あとは、画面がうるさい。やたら松本まりかの心の声が、ドラクエのコマンドみたいに…。

梅田:あれは、うるさいですね。言っているセリフをそのまま字幕もやるみたいな感じなので。せっかく脚本完璧なのに、余計なことすることないのにな、と思います。

日刊スポーツ芸能担当記者・梅田恵子氏

梅田が挙げたのは、『リコカツ』(TBS)。ファッション誌の編集者である北川景子と、自衛官の永山瑛太が交際0日婚。だが、価値観の違いから新婚早々、大ゲンカ。離婚を決意し…。

梅田:北川景子さんと永山瑛太さんのコメディ力さく裂ですよね。この2人、どんなにぶっ飛んだことやっても、下品にならないところがいい。プロデューサーが、この2人をキャスティングするのに、3年待った。それだけのことはあったっていう。ちゃんとした脚本の中で、2人がグイグイ進めていってくれるので、ゲラゲラ笑いながら。でも不思議なことに、最後ちゃんとキュンがあるんですよね。

吉田:『リコカツ』もね、ここに挙げたいくらい好きなんですけど、自衛官の描写が「あれでいいんかい?」っていう。あれは、やりすぎではないか。あんなお家の、あんな人って今時いますかね…。

木村:あれくらいデフォルメしてやった方が、人間ドラマの部分で映えるかもしれないし、好き嫌いが出ちゃうくらいやっている。それでも、笑ってしまう瑛太さんがすごいっていうのもありますけど。

辛口な意見も続々!「フジテレビはオリジナルをやったほうがいい」

また、いくつかのドラマには、厳しい意見も寄せられた。

鈴木亮平が、変わり者の天才漫画家を演じ、吉岡里帆演じる崖っぷちアラサー女子と王道のラブコメを繰り広げる『レンアイ漫画家』(フジテレビ)に対しては…。

梅田:これ、どうなんでしょう。私は、かなり苦手だったかなっていう。鈴木亮平さんが、引きこもり、漫画家というイメージが私にはなかった。一方で吉岡里帆さんは、いつものドジっ子キャラ。その、見慣れないものと見慣れたものの異色タッグが、ハマってないのかな。吉岡さんが、いろんなところに行って恋愛をしてくるんですけど、2人の利益のために、いい人をだますっていう、そこの後味の悪さに私はついていけなかった。

吉田:2人ともすごい実力があるんですけれども、私の頭の中の鈴木亮平と吉岡里帆は違うと言っているんです(笑)。やっぱり、鈴木亮平は、スポットライトを浴びているイメージなんですよ。陰キャじゃないなっていう。演技力とかではなくて。

梅田:嫌々(いやいや)引き取ったお兄さんの子どもがいるんですけど、そのレンくん(岩田琉聖)というのが、1人でこの作品の世界観を支えているんですよね。だから、レンくんと鈴木亮平さんの、令和版『パパと呼ばないで』みたいな雰囲気で持っていったら、抜群にしみる作品になっただろうなと思います。

木村:回を重ねるごとに、3人の関係性がよくなってきている。見やすくなってきているので、だからなおさら初回の、お金や仕事のために何の罪もない男性をだましてしまったというのが…あれを引きずって、視聴者が離れていってしまったという声をたくさん見た。これは、原作を尊重したからだとみているんですね。そこの流れを大事に描いた。だけれども、今の視聴者には受け止めにくいものがあって…そこを考えると、やっぱりフジテレビは制作力があるので、オリジナルをやったほうがいいと思うんです。

渡辺アナ:あははは。

木村:笑ってますけどね、他局はほとんどオリジナルなんですよ。フジテレビ、この1年間は、月曜日、木曜日、オリジナル作ってないんですよ。社内の空気とかもあると思いますよ。

渡辺アナ:「やってみろ」「挑戦してみろ」という空気感ですね。なるほど。

玉木宏主演、警視総監の座を巡ってパワーゲームが展開される『桜の塔』(テレビ朝日)には…。

吉田:テレ朝のドラマって、ベタばっかりじゃないですか。『科捜研の女』とか『警視庁捜査一課長』とか、それはそれで好きなんですよ。そこで絶対離さないじゃないですか(笑)。でも、「ベタばっかりじゃダメだよね」っていうことで、一応若ぶってみたというか。

木村:僕は、これワーストなんですね。質が低いとかではなくて、志の問題を僕は重視するので。警視総監を目指して、裏切りやだまし合いを繰り広げていくというドラマなんですけれども、他局からしたら、「そんなもんずっと前からやってるし。テレ朝は頑張っても、そのレベルか」と。刑事ドラマから離れてみて、何かやったらいいのに、というところがすごく中途半端。

16年ぶりの続編ということで話題の、阿部寛主演『ドラゴン桜』(TBS)については…。

梅田:「日曜劇場」になっちゃったなっていう。もともと、金曜ドラマ枠で生き生きと学園青春ドラマをやっていたんですよね。友情と成長がきちんとあってっていう世界観だったんですけど。今回もう、『半沢直樹』風っていうか。学園の内外に、いろんなビジネス上の敵がいて。「あれ、生徒どこですか?」っていう。

吉田:ほんとだよね(笑)。東大を目指す意味というのが、ファーストシーズンとは違ってきちゃっているのかなという気が。ビリの子たちが目指すというところに意味があったのが、今回も同じような設定にはしているんだけど、何か大人の汚れた背景が出てきちゃって、全然学園ものじゃないです。

木村:このテイストは、支持者も多いので問題ないとは思うんですけど、「何も『ドラゴン桜』でやることないじゃん!」というのは、多くの人が思っていると思うんですよね。前作を見ていた人にとっては、あの、ゆるくも一生懸命な世界観がすごく好きだったという方が多かったので、この脚色はあんまり賛成できない。

と、今回は、愛ある辛口も数多く飛び出した「ドラマ放談」となった。

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