デビュー10周年を迎えたMrs. GREEN APPLEが、自身最大規模となる5大ドームツアー「DOME TOUR 2025 "BABEL no TOH"」のツアーファイナルを12月20日に東京ドームで開催しました。5都市12公演で全55万人を動員した本ツアー。高さ20メートルの巨大な“バベルの塔”が出現するなど、エンターテインメントの領域を超えた規格外のライブが繰り広げられました。終演後には続編となるライブ“ELYSIUM”(エリュシオン)の制作決定が発表されました。
壮大な物語の幕開けと巨大な“バベルの塔”の出現
2019年の「EDEN no SONO」から始まったストーリーラインの集大成にして、2022年から4年にわたって展開してきたフェーズ2のクライマックス、そしてデビュー10周年のアニバーサリーイヤーの締めくくり……さまざまな意味合いと想いを乗せたMrs. GREEN APPLE初のドームツアー「Mrs. GREEN APPLE DOME TOUR 2025 “BABEL no TOH”」が、12月20日、東京ドームで終幕を迎えました。巨大なステージセットで造られたバビロンの街を舞台に、100人を超えるキャストとともに繰り広げられたのは、ミセスというバンドがこれまで紡いできた音楽をひとつに繋ぎ、彼らが音楽を届け続ける理由を人々に伝える、人間の弱さと強さ、そして意思と愛の物語でした。
荘厳なオープニングに続いてマーチングドラムが高らかに鳴り響き、ステージ中央から大森元貴さん(Vo/Gt)、若井滉斗さん(Gt)、藤澤涼架さん(Key)が登場します。両手を耳に当てて歓声を浴びた大森さんが華々しいサウンドとともに歌い出したのは「Love me, Love you」。バビロンの住人を演じる多数のキャストが行き交う街の風景のなか、大森さんの伸びやかな歌声と東京ドームを埋め尽くしたJAM’Sの声が交差し、「BABEL no TOH」はお祭りのような賑やかなムードとともに幕を開けました。続く「CHEERS」でライトスティックがカラフルに瞬くなか5万人と〈乾杯〉すると、「もっと声を聞かせてくれるかい、バビロン?」という大森さんの言葉にオーディエンスが全力で応えた「アンラブレス」では若井さんのギターも藤澤さんのキーボードもファンキーに跳ね回り、大森さんも手振りを交えながらリズムに乗って歌を響かせます。「Feeling」ではアリーナに色とりどりのバルーンが投げ込まれ、東京ドームはますます晴れやかな雰囲気に。キャストたちもアリーナに繰り出して、オーディエンスと一緒に盛り上がっていきます。会場が本当にひとつの街になったかのような一体感です。
そんなワクワクに満ちた序盤から、ストーリーは少しずつ進み始めました。
ドラムのラッシュと若井さんのギターが爆発的なエネルギーを放射するなか突入した「パブリック」では、バビロンの街の人々が塔の建設を始めます。今回のセットリストのなかで唯一ファーストアルバム『TWELVE』からピックアップされたこの曲のギターロックサウンドに滲む焦燥感が一心不乱にツルハシを振るう人たちの姿に重なり、エモーショナルに響き渡ります。若井さんと藤澤さんのソロも勢いに満ちていて、東京ドームはプリミティブな熱狂に包まれました。さらに赤いライトがステージを照らすなか、「まだまだいけるか?」という大森さんの声とともに「おもちゃの兵隊」が鳴り出します。そして楽曲がクライマックスに差し掛かった頃、ステージにキラキラと輝く巨大な塔が出現しました。高さおよそ20メートル、重量はじつに100トンという、ステージセットというよりは「建造物」という言葉のほうがしっくりくるような存在感は圧倒的です。
「お帰りなさい、バビロン! Mrs. GREEN APPLEです!」。ここまで6曲を終えて改めて声を張り上げて挨拶をする大森さん。「我々も全身全霊で楽しみに来たので、みんなも全力で楽しんでいってほしいなと思います」と大森さんがさらなる盛り上がりを求めると、若井さんも藤澤さんも精一杯の大声でオーディエンスとコミュニケーションを取り、そのたびに会場中から大歓声が沸き起こります。そして「みんな、今まででいちばんの声聞かせてくれよな!」という若井さんの曲振りから「WanteD! WanteD!」でライブは再開。肩の力が抜けたMCで3人だけでなくJAM’Sの緊張もほぐれたのか、さらに大音量のシンガロングが広がりました。
混沌から再生へ、そしてフェーズ3への誓い
その後「ライラック」で瑞々しい青春の風景を描き出すと、ここでライブの雰囲気は一変します。ステージには雲海のようなスモークが満ち、白い衣装に身を包んだバレエダンサーがパフォーマンスするなか、大森さんが静かに「Soranji」を歌い出したのです。
その「Soranji」が終わると、スクリーンには生い茂る緑が映し出されます。〈緑が深いこの森を抜け/その先の町へ行こう〉と始まる「フロリジナル」です。
大森さんの内面にあり続ける孤独と赤裸々に向き合ったこの曲が、それでも愛を求める人間の性(さが)を象徴するようなキャストのカップルダンスとともに届けられます。「ゼンマイ」に「君を知らない」、そして「Soup」と曲が重ねられ、季節が移り変わるなか、ひとつの「歴史」とそのなかに生きる人間の営みが浮かび上がっていきます。
ここから一気に物語は加速。暗闇に包まれたステージで光るリボンやバトンによる不穏なパフォーマンスが展開し、足音とともに怪しげなマスクをつけた人々が現れます。そしてノイジーな音とともに大森さんの叫びが響き渡りました。
塔の上で王のような赤いマントを身につけた彼が歌うのは「絶世生物」。レーザーライトが迸り、重厚なサウンドが地響きのように東京ドームを揺らします。人の上に立った人が力を誇示するようなその存在感が、先ほどまでののどかな世界を一変させてしまいます。そして雷鳴が轟き、気がつくと塔が客席のほうに大きく迫り出していました。その巨大な仕掛けにも驚きますが、それ以上にステージから鳴らされる「Ke-Mo Sah-Bee」の音と大森さんのパフォーマンスに目を奪われます。
燃え上がる塔の火を必死に消そうとする人々を横目にアジテーションのような歌を繰り広げる大森さん。スクリーンには歌詞が映し出されますが、その文字は時折象形文字のような記号に変換されます。「ア・プリオリ」を経て、再び稲光が走るなか、大森さんの声にも若井さんのギタープレイにもいつも以上の激情が宿る「Loneliness」でその混乱は極限に達したのでした。
と、そんな荒れ果ちた世界を癒すように、藤澤さんの弾く美しいピアノの音色が聞こえてきます。大森さんの表情も先ほどまでとは打って変わって感情豊かに。「ダーリン」の混沌の果てに残った愛を希求するような切実な歌声とストリングスの響き、そして会場の大合唱がストーリーの続きを描き始めるのです。塔の壁は苔むし、長い年月が過ぎたことを物語っています。ここからライブは再び輝きを取り戻し、美しいフィナーレに向かって駆け上がっていきます。そこで鳴り響いた音楽たちは、分断と孤独と混沌を耐えて生き抜いてきたひとりひとりへの祝福のようでした。その幕開けとなったのはパーカッションのリズムから始まった「コロンブス」。スクリーンには活気を取り戻したバビロンの街の景色が描かれ、開放的なサウンドが鳴り渡ります。大森さんの歌も若井さんのギターも軽やかに弾みます。「せーの!」とみんなの声を求める大森さんの表情はとても晴れやかです。曲を終えて、「すごいよ、めちゃくちゃエネルギーもらってます!」と大森さん。そして3人はフェーズ2を振り返りつつ、来年1月1日から始まるフェーズ3に向けた思いを語り始めました。
藤澤:
フェーズ2、たくさんのみんなに出会えて、皆さんに楽曲を聴いていただいて、本当に幸せでした。フェーズ3はもっともっとミセスのこと、メンバーそれぞれのことをより深く知ってもらって、こんなところがさらに好きだなってポイントを増やしてもらえたら
若井:
みなさんがいるから僕たちはこうしていろいろな活動ができてるし、届ける場所があるから、表現を通して次はどんな楽しいことをしようかなってワクワクできる。いつもありがとうございます!
そんな2人の言葉のあと、「きっと、塔は建てられなかったんだろうね」と、大森さんはここまで進んできた物語を振り返って語り始めました。「でも、大事にしていたものが壊れたり、期待をしていたことが無駄になったり、生活はそんなことの繰り返しなんだろうなと思います。僕も自分のことを惨めだな、情けないなって思うこともあるんです。人というのはネガティブな生き物だと思っています。なので、どうせなら楽しいことをしたいと思って曲を書いています」。そんなふうにこの物語に込めたものと自分自身のことを言葉にし、彼はこう続けます。「今日、めちゃくちゃ楽しかったです!」。この「BABEL no TOH」のストーリーが聖書の「バベルの塔」をモチーフにしていることは明らかですが、むしろ大森さんが伝えたかったのは、塔が崩れ落ちたあとの世界、つまりいろいろなものを失いながら今を生きる我々の物語だったのでしょう。オーディエンスもその物語の一員だということを表現するために、この「BABEL no TOH」は演劇的という言葉すら当てはまらない、世界そのものを創造するようなスケールを必要としたのかもしれません。
感動のフィナーレ、そして新たな物語“ELYSIUM”へ
そして「みなさんへの感謝の返し方はたくさん露出することではなく、ちゃんと我々がいいと思えるものを真摯に作って、1曲1曲届けることだと思っています。フェーズ3もよろしくお願いします!」と変わらない意思を掲げると、ライブはラストスパート。「あなたの情けないところも、弱いところも、いったん俺が愛してやる!」――大森さんのそんな力強い言葉とともに「ANTENNA」が鳴り響きました。「どこまでも行こうぜ!」と始まった「GOOD DAY」ではJAM’Sの大合唱が鳴り響き、メンバー3人も心底楽しそうな笑顔を浮かべます。そして塔が舞台の奥へと戻っていくなか、「Magic」へ。この曲が何度も生み出してきた最高の景色が今回もまた更新され、東京ドームは完全にひとつとなりました。
そして「BABEL no TOH」もいよいよフィナーレ。藤澤さんの奏でるピアノの穏やかな音色とともに、大森さんは「天国」を歌い始めました。花道の先でスモークに包まれながら歌う彼の後ろで、舞台上の人々がひとり、またひとりと光のなかへと足を踏み入れて消えていきます。そして若井さん、藤澤さんに続いて、大森さん自身も。この曲が作られたときにはなかった壮大なアウトロが鳴り響きます。天使のラッパのようなトランペットの音色が彼らの新たな旅立ちを祝福するかのように聞こえてきます。去っていく大森さんの姿が見えなくなり、ついに「BABEL no TOH」はその幕を下ろしたのでした。
ですが、スクリーンには「TO BE CONTINUED」の文字とともに、「ELYSIUM(エリュシオン)」という言葉が映し出されました。ギリシャ神話における、神々に愛された者たちの楽園の名です。「エデン」から始まった物語がたどり着いた新たな楽園とはどんな場所なのか。「続き」を心待ちにしながら、フェーズ3の開幕が待ち遠しく感じられます。
