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伝統産業を、後世にまで受け継いでいく。そのためには、職人の高齢化や工場の老朽化、原材料の不足など、技術継承のための環境を整える必要が多くある。日本でも有数の伝統工芸の産地である京都の工房では、若手職人に技術の継承が進んでいるものの、職人が作った工芸品を販売する店舗が限られ、新たな販路の開拓に頭を悩ませていた。現代の暮らしと伝統工芸の距離を近づけ、その良さを伝えるために、何か一緒に手を取り合えないだろうか──。京都府からそんな相談を受けて住友林業は、2023年11月に京都の伝統工芸とコラボレーションをしたインテリアブランド「tonowa(トノワ)」※を立ち上げた。
第1弾として作られたのは、京焼・清水(きよみず)焼のプレートアート、京唐紙のアートパネル、そして西陣の織物製造技術を活かしたワイヤーアート。どれも手頃な価格で本格的な伝統工芸を暮らしに取り入れることができるインテリアアートだ。
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京焼・清水焼のプレートアート
プロジェクトに携わったのは、住友林業の3名の社員。今回は、tonowaの制作チーム、そして実際にプロダクト制作を一緒に進めた京焼・清水焼の伝統工芸士・高島慎一さんにその制作秘話を聞いた。
※「tonowa」は「住友林業の家」のオーナーさま向け商品のため一般販売しておりません
京都の伝統工芸を伝えるプロダクトを作ろう
はじまりは、京都府からの依頼だった。京都に存在するさまざまな伝統工芸を、現代の暮らしに取り入れる人を増やしたい。伝統工芸の魅力を伝えるために何か一緒にできることはないだろうか。そのような思いを受け、プロジェクトを立ち上げたのが設計統括部インテリア室に所属する橋本友紀子だ。住友林業に入社以来30年間ずっとこの道一筋で歩んできた、たたき上げの社員である。
「現在は、インテリア部門を統括する部署にいます。今回のようなプロジェクトに関わることは初めてなので、最初はとても驚きました」
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左:住宅事業本部 設計統括部 北地忍
中央:住宅事業本部 人財開発部 寺崎由起子
右:住宅事業本部 設計統括部 インテリア室 橋本友紀子
「京都の伝統工芸を、暮らしの中に取り入れる」。そんな今回のミッションを、具体的にどのような形で実現させていくか。橋本は、寺崎由起子と北地忍に声をかけた。2人が当時、所属していた建築デザイン室(現:建築デザイン部)は、高い難易度や、特別な要望がある建築物を担当する、住友林業の中でも精鋭が集う部署である。彼女たちに声をかけた理由を橋本はこう語る。
「寺崎さんは京都出身で、おじいさまと叔父さまが行李(こうり)という葛籠(つづらかご)を編む伝統工芸士。北地さんは生まれてからずっと京都にお住まいで、伝統工芸品を取り入れた展示場計画の実績もある方だったので、京都の伝統工芸とコラボレーションする今回のプロジェクトにぴったりだと考えました」
3人で話し合いを重ねていくうちに、伝統工芸を使った「インテリアアート」のブランドを立ち上げるのがいいのではないかというアイデアに至った。「家」という、暮らしに最も身近な商材を扱う住友林業だからこそ、さらにはインテリアを生業にしてきた自分たちだからこそできることだと、3人の意見は一致した。
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からかみアートパネル
ゼロからのものづくりの難しさとおもしろさ
ただ、これまで3人が経験をしてきた「インテリアコーディネーター」という仕事は、すでにこの世に存在するものの中からプロダクトを選び、空間を作り上げていく仕事である。まったくのゼロから商品を作る経験は誰もしたことがなく、その難しさは想像を超えるものだったという。
「ブランドコンセプトの作成から、一緒にものづくりを進めていく京都の工房の選定、販売戦略、在庫管理、納期管理、ロゴの作成、商標登録、マーケティングまで……。ただ“良いものを作る”だけではなく、住友林業から出すひとつのプロダクトとして考えるべきことが山ほどあって、取り組むので必死でした」(寺崎)
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ワイヤーアートパネル
住友林業の商品として販売していくためには、在庫や品質を安定させる必要がある。さらには今回の「伝統工芸のインテリアアートを身近な暮らしに取り入れる」というコンセプトに合うように、価格設定も手の届くものにしたかった。
「アートというものは、お客様がご自身で購入するにはすごくハードルが高いと思っています。画廊に行くのも敷居が高いし、価格帯も手が出しづらいものが多い。だからこそ、tonowaは気軽に楽しめる価格にしようと最初から決めていました」(北地)
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第2弾で発売した西陣織アートパネル(枕の上の壁に設置)と
西陣織クッション(ソファに設置)
住友林業の「商品化」の条件を、職人たちにひとつずつ説明していく。さらにはインテリアのデザインやトレンドを取り入れながら住友林業の住宅デザインに合うプロダクトを作りたい制作チームの意図と、伝統工芸の職人としての思いや得意とする技術を擦り合わせていく必要があった。両者が歩み寄って建設的に議論は行われたが、どうしても折り合い地点が見つからず、途中で白紙になったことも一度や二度ではない。インテリアのプロダクトとしての観点、伝統工芸の職人たちの思い、そしてお客さまからのニーズ。どの思いも大切にするために、慎重に話し合いを重ね、2年以上の時間をかけてtonowaは誕生した。
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洸春陶苑と制作した京焼・清水焼のプレートアート
伝統技術とプロダクトを融合させていく
「tonowa」のプロダクト制作を協働する工房は、京都のさまざまな工房からプレゼンを受け、3人が実際に足を運んで決定したのだという。現在「tonowa」には4つのプロダクトがあるが、そのなかのひとつが、京都・東山にある京焼・清水焼の洸春(こうしゅん)陶苑とともに作ったプレートアートだ。代表取締役を務める高島慎一さんのプレゼンを聞いた時、その熱量に「絶対にご一緒したい」とチーム全員が思ったのだという。
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有限会社洸春陶苑 代表取締役 高島慎一
最初、住友林業とのコラボレーションの話があった時の印象について高島さんはこう語る。
「マジか!ほんまかいな!という感じで、いい意味で驚きました。大きな会社が伝統工芸に光を当ててくれることは本当にうれしかったです」
洸春陶苑と制作したのは、3種類の大きさ、2パターンのカラーバリエーションがある京焼・清水焼のプレートアートセットだ。後ろには留め金がついているので簡単に壁にかけてアートとして飾れることに加え、食器としての使用や、置きものとすることもできる。制作過程の出来事について高島さんに聞くと、このような答えが返ってきた。
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絵付けの様子
「住友林業の皆さんが最初から、手仕事だからこそ生まれる焼き加減や成形の差、色味の違いなどの“幅”や”揺らぎ”を肯定的に捉えてくださったことは印象的でした。もちろん、今回はインテリアプロダクトなのでデザインとして普段では考えられないような細かなオーダーもありましたが、そこにも1つずつ意図があったので進めやすかったです。あとは、判断がすごく早かったですね。販売価格や安全面、いろんな条件がある中で、いつも的確に判断をしてくれて『できることを1から確実にやっていきましょう』という姿勢がありがたかったです」
プレートアートの制作で特に大変だったのは、裏面につけた留め金だった。壁にかけた時、留め金が緩いと落ちてお皿が割れ、家の中で怪我をしてしまうかもしれない。京焼・清水焼の裏に絶対に落ちないような頑丈な留め金を装着する仕組みを考える必要があり、それを探すのには苦労したと高島さんは語る。探しに探して、ついに洋食器メーカーの留め金を発見し、仕入れることができた。そういった細かな努力とこだわりが、ひとつひとつのプロダクトには眠っているのだ。
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プレートアートの裏の留め金
実際に商品が完成して少しずつお客様に届きはじめている今、高島さんは、tonowaへの期待をこのように口にした。
「お客様の目に触れ、手にしていただく機会が増えていることを嬉しく思います。住友林業さんで家を建てられる方は、きっと夢を見ている方が多いはずです。私もそうでしたが、家を建てるということは一世一代のお買い物で、夢をいかに形にできるかという大きな想いがある。その中で京都の伝統工芸をご提案いただけることが一番ありがたいですね。京都の焼き物をご存じない方もまだまだ多いので、そういった方が初めて購入された京焼きがtonowaであれば嬉しいですし、その何年か後には、ご家庭の中に1つでも2つでも、京都の焼き物や漆器、お召し物でもいいのですが、何か工芸品があるとなお嬉しい。伝統工芸に興味を持っていただけるきっかけとして、裾野が広がっていくといいなと願っています」
ものづくりへの尊敬とプライドを持ちながら
「tonowa」という名前には、「都の技(京都の伝統工芸)が広がり、人々の生活を通して大きな輪となっていく」という思いが込められている。今回のプロジェクトを通して、それぞれのメンバーの伝統工芸に対する思いも少しずつ変わっていった。
「生まれた時から京都に住んでいるので気づかなかったのですが、身の回りには意外とたくさん伝統文化があったのだなとあらためて気づきました。釉薬(ゆうやく:陶磁器の表面を覆うガラス質の部分)や襖(ふすま)の雲母(うんも:鉱物が原料の塗料)など、工芸品はどれも素材の魅力が本当に美しい。実用的なものはもちろんのこと、こうやって飾ることで気付ける魅力もあるのだなと感じました」(北地)
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壁に飾った「からかみアートパネル」
「私は今回のプロジェクトに携わるようになって、あらためて、叔父にものづくりについて聞いてみました。そうすると、昔は道具からすべて自分で手作りしていたことを教えてもらって。現代は技術が発展していますが、昔の人は道具すら何もかもすべて自分で作っていて、それってすごいことだなと。手仕事で思いが込められた作品がいまも残っていることは素晴らしいですし、京都の技はやっぱり未来に繋がっていってほしい。簡単ではないことを受け継いで続けている伝統工芸の尊さをひしひしと感じています」(寺崎)
「住友林業は森林経営が起源で、京都の伝統工芸も、木・漆・土・絹・麻など天然素材を原材料としたり、モチーフに自然素材が描かれていたりと、自然と共存し、素材と対話をして作られているものが多いです。ものづくりの誇りや厳しさを持っているという面においては私たちも同じ気持ちなので、刺激を受けながら、今後もご一緒できるとうれしいです」(橋本)
現在、tonowaは第3弾のプロダクトを製作中だ。今回は、京丹後エリアの工房と共に制作予定なのだという。京都のすばらしい伝統工芸と住友林業の思いが合わさって生まれるtonowaは、きっと新しい伝統との出会いを生み出すだろう。
関連リンク:京都の伝統工芸品を室内インテリアに! ~住友林業株式会社が伝統工芸品を活用した室内装飾を開発~
https://www.pref.kyoto.jp/senshoku/news/press/2024/10/kougeiinterior.html
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