キッコーマンが主催する『KCC食文化と料理の講習会』にとって、2025年は節目の年。第1回の開催から45年が経つのに加え、2020年より導入したYouTubeライブ配信も記念すべき第100回を迎えたのです。 「しょうゆをつくる会社」が料理講習会を、それも和食に限定せず、食文化を含めた幅広い「食」の情報をお伝えしている理由とは? そんな疑問に、キッコーマン株式会社 コーポレートコミュニケーション部 社会活動グループで運営に携わる鈴木聖子が、その歴史をたどりながらお答えします。



「食」にまつわる情報を伝え続けて45年。今も昔も変わらない理念


『KCC食文化と料理の講習会(以下、KCC料理講習会)』では、料理人やシェフ、料理研究家といった「食」のプロを講師に迎え、日本と世界の食文化や料理のつくり方、日々の食生活に役立つ情報などをお伝えしています。会場となるのは、キッコーマン東京本社にあるKCCホール。講習会にもよりますが、現在は、基本的にホールには抽選で当選された約30名のお客様をお招きし、YouTubeライブ配信はお申し込みの方全員に視聴していただく形をとっています。


「赤坂 四川飯店」の陳建太郎さんの回の講習会の様子(2024年)


スタートした1980年から数えると、2025年10月5日で2164回目。お招きした講師の方は800名以上にも上り、本当に多くの方に受講していただきました。食品メーカーが一般のお客様を対象に、これほどの長い期間、定期的に本社にお招きして料理講習会を行うケースはそう多くはないことでしょう。


キッコーマン主催となると、しょうゆを使った和食の料理教室、といったイメージを持たれる方が多いかもしれませんが、決してそんなことはありません。開催当初から今に至るまで、一貫して目指しているのは「日本の食文化の継承」「世界の食文化との交流」「時代に合わせた食の情報の提供」の3つ。これらの目的は私たちが掲げる「食文化の国際交流をすすめる」「地球社会にとって存在意義のある企業をめざす」という経営理念や、「キッコーマンの約束」のひとつである「世界の食文化との出会いの中で新しいおいしさを創造し、時代や文化にあった豊かな食生活をご提案します。」という言葉に基づいています。言うなれば、この3つの目的を一般のお客様に向けて体現したのが『KCC料理講習会』。当初からブレずに続けてきたものであり、今後、どんな時代になろうと変わらないと思っています。


「つきぢ田村」の初代・田村平治さんにご登壇いただいた回の様子(1980年)


なお、この講習会の名称にある「KCC」とは、「Kikkoman Cooking Center(キッコーマン・クッキング・センター)」の頭文字をとったもの。ひとつ目のCには「Cooking(料理)」だけでなく、「Culture(文化)」「Consumer(消費者)」「Communication(情報交換)」「Community(共同社会)」の意味も込められています。これは、KCCがもともとキッコーマンとお客様との交流の場となるために設立され、料理講習会だけでなく、食文化講座などのイベント開催や月刊誌による情報発信、お客様相談センターといった活動も包括していたためです。これらのセクションは独立・再編されたことで、現在、「KCC」の名が残るのはこの講習会のみとなりましたが、交流の場であることに変わりはありません。



過渡期に継続するという決断と、お客様を招き続ける理由


45年という歳月を経るうちに、世の中ではさまざまな出来事がありました。中でも、世の中が大きく変わったのが2011年の東日本大震災と、2019年末から続いたコロナ禍。時世柄、さまざまなイベントが自粛された時です。


『KCC料理講習会』も一時休止していましたが、いま振り返ると、部内で「このままやめる」という選択肢はありませんでした。「どうやって開催しよう」「いつからやろうか」という話ばかりだったのは、やはり『KCC料理講習会』はあって当たり前の存在になっていたからだと思います。また、外出の自粛などによりお店の経営が大変だった料理人の方、シェフの方に対し、「一緒にやりましょうよ」という気持ちもあったかもしれませんね。


コロナ禍を機にスタートさせたのが、今回100回目を迎えたYouTubeライブ配信です。始めてからしばらくはお客様をホールに招待せず、オンライン配信だけで行い、お客様に再度来ていただくようになってからはリアルとオンラインのハイブリッド方式に落ち着きました。オンラインの場合、遠方の方にも情報をお伝えできるという大きなメリットがありますから、継続することにしました。


45周年を記念して、「ル・マンジュ・トゥー」の谷昇さん、

「トワヴィサージュ」の國長亮平さんの師弟コラボによる講習会も実施(2025年10月)


一方、リアルでは臨場感がまるで違います。調理中の香りはもちろん、画面越しでは聞き取りにくいパチパチと油のはねる音などもホールではしっかり伝わりますし、講師の人柄なども感じ取れますから。憧れの料理人と直接話せたり、つくった料理を試食できたりするのも魅力のひとつで、回によってはホール観覧希望に200〜300名の応募があったりもします。講師陣も、お客様の反応が直接見られるからと、リアルの方を好まれる方が多いですね。こうした「生の場」を提供できるのも、意義のあることだと感じています。



長く続けていることで見えてくる、時代と食の世相の変化


『KCC料理講習会』を長年続けている中で、食を取り巻く世相の変化も数多く見てきました。遡れば1990年代、テレビ番組で料理人の方がフィーチャーされるようになってからは、料理だけでなく、お話を通じて楽しませてくれる方が増えたように思います。2010年代にレシピの分量が2人分で記載されることが多くなったのも、世帯の少人数化が進んだからでしょう。


2010年代後半からSDGsやサステナブルの考え方が活発になったことも、印象に残っている変化のひとつです。水産資源の枯渇といった環境問題を意識したり、生産者の方と交流したりする料理人の方が増えたこともあり、『KCC料理講習会』でもSDGsやサステナブルをテーマに、さまざまな形で開催し続けています。


また、これは世相の変化ではないのですが、親子2代、あるいは3代にわたって講師を引き受けてくださる方々がいらっしゃるのも、長年続けてきたからこそですね。4代目の登壇もありそうです(笑)。師弟関係にある先生のアシスタントをしてくださった方が独立して、講師として戻ってきていただけることもあります。



世界各国の家庭料理を紹介した、キッコーマンらしい講習会も


記憶に残っている講習会は数多くありますが、その中である意味、一番キッコーマンらしさが出ていると感じるのは、1995年から2004年にかけて開催した『世界のしょうゆクッキング』です。これは、キッコーマンしょうゆが世界100カ国以上で親しまれていることから、「世界の家庭料理ではしょうゆはどのように使われているのか」を紹介することを目的とした講習会。講師としてご協力いただいたのは各国の大使館員と関係者の方々で、母国の家庭の味を楽しいお話とともにご紹介いただきました。


左:オランダ、右:シンガポール


全71カ国の大使館にお願いしたのですが、どの国も快く協力してくださったのが印象に残っています。やはり、母国の料理に関心を持ってもらうことは、国籍を問わずうれしく感じるものなのだと改めて実感しました。ただ、母国の家庭の味を忠実に再現するために、食材の入手やレシピの作成には苦労しました(笑)。


この講習会で改めて認識できたのは、「しょうゆがオール・パーパス・シーズニング(ALL-PURPOSE SEASONING =万能調味料)である」ということ。しょうゆだからこそ、『KCC料理講習会』の目的のひとつである「世界の食文化との交流」を実現することも、71カ国もの家庭料理を紹介することもできたのでは、と思っています。



『KCC料理講習会』45周年に寄せられた、講師陣からのメッセージ


『KCC料理講習会』の45周年を迎えるにあたり、これまで講師を長年務めていただいた方々からメッセージをいただきました。


日高 良実 さん(「リストランテ アクアパッツァ」オーナーシェフ)

『KCC料理講習会』には講師として、また受講生としても何度も参加させていただいています。

食の伝統や歴史、世界のトレンド、そして身近な家庭料理まで、実にさまざまなテーマを通じて、多くの講師がこの場で発信し、それを多くの受講生が学び、それぞれの場でさらに多くの人たちに伝えるという、そうした素晴らしいリレーションが築かれていると実感しています。

また、裏で支えてくださる調理スタッフのテキパキとした動きや、常にピカピカの厨房には、同行する店のスタッフもいつも刺激を受けています。

45年という長い年月を越えて、さらに先に進んでいただきたいと思います。


柳原 尚之 さん(近茶流宗家・柳原料理教室主宰)

食のあり方が大きく変化する中、多くの講師の方々を通じて学びの場を長く継続されてきたことは、本当に意義深いです。そして講習会を支えるスタッフの皆さんが、いつも講師と受講生のために気持ちのよい環境をつくられてきたことが、この講習会が長く続く理由だと感じています。

コロナ禍では、スタッフの皆さんが講習会の使命を真摯に考え、どのようにすれば続けられるかを模索されていました。そこで動画配信のシステムをつくり、さらに多くの方々に料理の魅力を伝えられるようになったのは素晴らしいことです。再開に向けた熱意を間近で見ていた私自身も刺激を受け、講義に一層力を込めて取り組んだことを覚えています。

食の環境が大きく変化する現代だからこそ、「本物」を伝え続ける『KCC料理講習会』の存在は、ますます重要なものとなっています。これからもその歩みに貢献できれば幸いです。


堀江ひろ子 さん & ほりえ さわこ さん(料理研究家)

KCC料理講習会には、わが家は3代にわたり長くご縁があり、親子で登壇したり料理研究家仲間と共演したりする機会にも恵まれ、毎回貴重な体験をさせていただいています。

ピッカピカに磨き上げられたキッチンに入り、スタッフの方々の笑顔とていねいで温かなお仕事ぶりにふれる時間は、いつも楽しく充実したひと時です。

2代3代にわたりお世話になった料理研究家4人が集まった講習会では、「料理研究家のあるあるトーク」で盛り上がり、今も楽しい思い出として心に残っています。 

こうした企画ができるのも長年続く『KCC料理講習会』ならでは! これからも長く続けられることを願っています。



これまでも、この先も。『KCC料理講習会』が進む道


『KCC料理講習会』はあと5年で50周年、実に半世紀。これ、結構すごいことではないかと思います。


私の個人的な意見ですが、今までと同じように3つの目的をブレずに続けていければいいなと思います。と言っても、頑なに守るのではなく、時代に合わせた変化も必要でしょう。老舗の料理人の方々と話していても感じるのですが、彼らは何代も続いていてブレないものを持ちながら、時代に合わせて変えている面もあります。『KCC料理講習会』も同じようにブレないものを持ち、少しずつ変えているからこそ、お客様も見てくださるんじゃないかなと。流行り廃りに乗るのではなく、地に足をつけて続けていくことが大切だと思います。


ここまで読んでくださった皆さんの中で、興味がわいた方がいるならまずはオンラインで参加していただけるとうれしいです。そうなれば、私もお話ししたかいがありますので(笑)。


商品・サービス情報

KCC食文化と料理の講習会




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