『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』第4話完全版
井沢(沢村一樹)たちのもとへやってきた香坂(水野美紀)は、ミハンが割り出した新たな危険人物の捜査を指示する。その人物とは、自殺を考えている人たちの相談に乗るNPO法人に在籍する“いのちの相談員”杉原佳代(木野花)だ。
佳代は、失踪に見せかける方法について調べていたほか、スタンガンも購入していた。そしてもうひとつ、佳代には気になる過去があった。彼女は、10年前に起きた『大森山無差別殺傷事件』の被害者家族でもあったのだ。この事件の犯人・川久保敦也(大田怜治)は、社会への不満から商店街を行きかう人々を金属バットで襲い、佳代の夫を殺害していた。
身寄りもなく、子どももいなかった佳代は、事件の後、家を売り払って共同生活用の不動産を購入し、問題を抱えたさまざまな人たちに格安で部屋を貸していた。
井沢は、山内(横山裕)とともに佳代が在籍するNPO法人『セーブ・ザ・ハート』を手伝うスタッフとして潜入する。一方、小田切(本田翼)と吉岡(森永悠希)は、駆け落ち同然で上京したカップルに扮し、佳代のシェアハウスを訪れていた。
ほどなく、小田切たちの情報から、佳代のシェアハウスで長い間暮らしていた保育士の佐藤奈々(木竜麻生)が、佳代と揉めて3ヵ月ほど前に部屋を出ていったことが明らかなる。奈々を調べた加賀美(柄本明)は、彼女が改名しており、実は無差別殺傷犯・川久保の妹の恵美であることを即座に突き止めていた。
大森山無差別殺傷事件の後、残された川久保の家族は激しいバッシングに遭い、事件から1年後、一家心中を図った。だが、奈々だけが生き残ったのだ。再び命を絶とうとした奈々は、佳代に電話をして謝った。そんな彼女を救ったのが佳代だったのだ。
山内は、保育園で働く奈々をマークする。そこに、男が迎えに来た。その写真を見た香坂は、見覚えがあるという。男の名前は梶智明(山中崇)。加害者支援センター『未来へ歩む会』の支援者でもある、キャリアコンサルタントだった。奈々は佳代にから紹介された『未来へ歩む会』で梶と出会い、彼と婚約したのだ。
山内が奈々と梶を尾行していると、ふいに近づいてきたバイクから男が降り、奈々に向かって生卵を投げつけた。山内は男を追いかけたが、男はそのままバイクで逃走する。
川久保が獄中から手記を出版するという情報が広まり、再び奈々たちへの酷いバッシングが起きていたこともあり、犯人はそういう人物のひとりである可能性が高かった。
井沢は、奈々の周辺を洗おうと提案する。すると、自ら名乗りを上げたのは、香坂だった。『未来へ歩む会』の代表は、法務省時代の上司だというのだ。香坂は、梶の取材という名目で、奈々にも同席してもらって直接話を聞くと井沢に告げる。
法務省の広報担当に扮した井沢は、香坂と共に梶と奈々に会いに行く。その席で梶は、加害者家族への支援が普及していない日本の現状を指摘するとともに、何があっても奈々を守ると話す。奈々から事件当時の話を聞いた井沢は、川久保の手記出版の件を切り出した。
それに対して梶は、奈々への誹謗中傷がエスカレートし、物を投げつけられたり、階段から突き落とされたりしたこともあるため、警察に相談するという。続けて梶は、手記を出版しないよう川久保を説得するから、といって奈々を安心させようとしていた。
するとそこに、佳代がやってくる。香坂が呼んだのだ。佳代は、誰が奈々を追い詰めているのかもう少しではっきりする、と奈々に告げた。しかし奈々は、新しい家族を作る、といって佳代を拒絶する。
あくる日、奈々が働く保育園にも川久保の事件のことがリークされる。その報告を受けた際、佳代が『セーブ・ザ・ハート』に来ていないことに気づく井沢。小田切は、家を出た佳代を香坂が追尾していると報告する。ところが香坂は、勝手に予定を変え、加賀美とともに、奈々を襲ったバイク男に接触していた。
男の証言により、奈々に危害を加えた人間は他にもいることが明らかになった。そして、男のもとへは佳代が訪ねて来たという。やがて、奈々を階段から突き落としたOLも特定された。やはり佳代は彼女のもとも訪ねていた。そこから判明したのは、バイク男もOLも、SNSのダイレクトメッセージを通して焚き付けられていたことだった。
香坂は、奈々への誹謗中傷を仕掛けたのは、梶ではないかと考える。梶と奈々の話を聞いていたとき、一瞬、梶が奈々の苦しみを喜んでいるように笑ったのを思い出したのだ。梶は、周囲の関心を自身に引き寄せるために、代理のものを傷つけるような自己愛しかない男だった。加賀美は、それを裏付ける証拠として、梶がダイレクトメッセージを送っていたことを突き止めていた。
そのころ梶は、加害者支援のセミナーで講演を行っていた。そこに佳代がやってきた。佳代は、梶が出版社の人間と川久保の手記について、「絶対売れる」などと話しているのを偶然聞き、彼に不信感を抱いたのだ。
講演を終えて地下駐車場にやってきた梶の前に現れた佳代は、民間調査会社に依頼して得た証拠を突きつけた。そんな佳代の前に立ちはだかったのは奈々だった。奈々は、梶が自分を追いつめている男だとしてもそれでいい、と佳代に告げる。自分と結婚してくれるような男とはもう一生で会えない、というのだ。
そこに駆けつけた香坂は、立ち去ろうとしていた梶の胸倉をつかみ、「あなたのような人間は許さない」と告げる。井沢の姿も確認した梶は、婚約を解消すると言い出し、奈々に向かって「じゃあな、殺人鬼の妹さん」と言い放つ。梶は、香坂の手を振り払い、攻撃しようとした。香坂は、それをかわして反撃し、怒りに任せて梶を殴ろうとする。そこに割って入ったのは井沢だった。
井沢は、梶をねじ伏せると、あるサイトを見せた。それは、梶の正体を白日の下に晒したものだった。佳代は、途方に暮れている奈々に声をかけ、何か美味しいものを一緒に食べよう、と声をかけた。
1994年。ある映画館で、40代と思われる男が館内で神経ガスを撒き、10名以上の死傷者が出る事件が起きた。その映画館を訪れ、慰霊碑に手を合わせる香坂。そこにやってきた井沢は、香坂がその犯人の娘であることを知ったと告げる。井沢は、妻と娘が殺された事件の何を知っているのかはわからないが、犯罪を未然に防ぎたいという思いは一緒だとわかって良かった、と香坂に告げる。
別の日、未然犯罪防止法案の見送りを受け、香坂は、北見(上杉柊平)を法務省に戻す。
加賀美は、ミハンルームにやってきた香坂に、「君には井沢君が必要だと思うよ」と声をかけた。
1994年。事件が起きた映画館には、遺族たちが献花に集まっていた。遠くて花を持ったままそれを見つめていた中学生の香坂は、逃げるようにその場を去る。そのとき彼女がすれ違っていたのは、加賀美だった――。