内野聖陽さんが、主演舞台「M.バタフライ」について、そして初共演で相手役を務める岡本圭人さんの印象などを語りました。
6月24日(金)より開幕する舞台「M.バタフライ」。実際に起こった驚愕の事件をもとに創作された物語で、世界中で上演されてきた作品です。日本では32年ぶりの上演となるこの公演で、内野さんが主人公ルネ・ガリマールを演じます。
時は1960年代の中国・北京。駐在フランス人外交官のガリマールは、社交の場で京劇のスター女優ソン・リリン(岡本)に出会います。妻のいるガリマールはソンに魅了され、男女の仲になった2人は、人目を忍びつつも20年にわたり関係を続けます。しかし、ソンは毛沢東のスパイであり、男だったのです。
その後、国家機密情報漏洩により投獄されたガリマールは、オペラ「蝶々夫人」と対比させながら、自らの物語の「正しさ」を説いていきーー。
ストイックな役作りで知られる内野さんに、フジテレビュー!!がインタビュー。作品への意気込みや、内野さんにとっての“元気の源”、最近ハマっていることなどを聞きました。
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“脳内劇場”に、いかに気持ちよくお連れできるか
――この作品に、どんな印象を受けましたか?
やはり、実際に起きた事件をもとに創られているところに衝撃を受けました。ガリマールはソンと肉体関係もあったのに、彼女が実はスパイで、しかも男性であることに20年以上気づかなかった。ガリマールは独房の中で、彼女との美しい物語を語りはじめます。しかし自分を騙したソンのイメージがどんどん膨らみ、侵食し、ついには自分を保てなくなってしまう。見事な戯曲だと思いました。
ガリマール役はとても大変だと思いますが、世界各国の名だたる俳優が演じていると聞いたら、挑戦しないわけにはいかない(笑)。かなりビビっていますが、頑張りたいと思います。
――内野さんが思う、この作品の魅力をお聞かせください。
誰しも、人を好きになると、相手に“こうあってほしい”という幻想を投影してしまうことがあるのではないでしょうか。そういうことをテーマにしている作品なので、特殊に見えて実は誰にでもあり得る話だと思います。
原作は劇作家・デイヴィット・ヘンリー・ファンによる戯曲ですが、「adore(崇拝する、敬愛する)」という言葉がよく出てきます。「好き」を通り越して崇拝するレベルまでいくと、見たくないものに対して、目を瞑ってしまうことってないですか?汚い部分を見たくない心理が働き、美しい局面ばかり見つめてしまう。この作品の、人間の愚かさみたいなところに、僕はちょっと惹かれています。
――ガリマールの役作りで、こだわっているところはありますか?
ガリマールは、男性スパイと関係を続けていたことが明るみになり、世間からバッシングされ、嘲(あざけ)られ、その苦しみから救われたいと思っていました。小汚い独房に入れられても、「ここは楽園である」と言って、毎晩のように自分の理想を語るのです。
この普通ではないガリマールの“脳内劇場”に、いかにお客様を気持ちよく自然にお連れできるかが、この作品を成功させる鍵だと思っています。
ガリマールは、男性にも女性にも振り分けられないというか、ちょっとファジー(不安定)な人で、「こういうキャラクター」と決めつけられない。そこを芝居にどう落とし込んでいくかが、非常に難しいですね。
――ソン・リリン役の岡本圭人さんの印象はいかがですか?
今回、2度目の舞台出演ということで初々しい印象ですが、“演劇オタク”でびっくりしました。劇の構造や「M.バタフライ」と関わりの深い「蝶々夫人」のことなど、本当にたくさん学んでいて。とても感性豊かですが、勉強熱心ゆえに理論が先行するところもあるので、そこはおじさんの先輩である僕が口を酸っぱくして、いろいろ言っています(笑)。
圭人くんとは、役者としてイーブンな関係でいるつもりですが、ついつい心配になってアドバイスしている自分がいたりすると、おいおい自分大丈夫かって思います(苦笑)。
でもやっぱり、お父さん(岡本健一)の血を引いているのか、演劇に対する向上心が本当に強いと思います。彼のガッツと探究心と向上心なら、この舞台も頑張れるのではと思います。楽しみですね。
――若い俳優さんと共演することで、なにか影響を受けたりしますか?
キャリアを積んできた人間同士で作品を作ると、何段か高いところでセッションができるので面白いです。
一方で、圭人くんのような若い人と一緒に仕事をすることで、自分が昔持っていた瑞々しい感受性など、失ったものに気づかされることもあります。襟を正す瞬間があるというか。キャリアがあるだけが、良いとは限らないと思います。
どんな役でも、丸坊主にTシャツでも成立しないとおかしい
――劇中でガリマールはソンに騙されますが、“見かけで騙す”こととお芝居には、何か通じるものはあると思いますか?
僕は、騙している意識はないですね。芝居において“見かけ”は、効果にしか過ぎないと思っています。見かけより、演じる人間の魂や生き方のほうが大事なので、極端な話、どんな役でも丸坊主にTシャツ・ジャージ姿でも成立しないとおかしいと思っています。そこに衣裳やメイク、カツラがついて、より効果が出る。その効果が占める比重は、大きいのですが。
たとえば、ドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京)の矢吹賢二役も、本当はトレードマークのメガネをかけなくても、賢二として成立しないといけないと思っています。でも実際はメガネをかけないと、気分が出ませんねぇ…って、言っていることが全然違いますね(笑)。見かけから充実させる場合もあるけれど、基本的には内側から出すものだと思っています。
――内野さんが役作りでいつも大切にしていることはありますか?
僕は料理でもなんでも、熟成させたもののほうが好きです。化学調味料で舌を喜ばせる方法もあるでしょうけれど、熟成されたものには、化学調味料にはない芳醇な広がりがありますよね。
そういうものを自分の演技の中にも含ませたい、という思いはあります。一朝一夕に出せるきらびやかな味より、時間をかけて熟成させた味を提供したい。
だから、一瞬口当たりが良い、わかりやすい演技ばかりしていてはダメだなと思っています。僕の毛穴から出るものや、背負っている空気から想像してもらえる…そんな表現をしたいですね。まだまだ志のレベルですが。
――内野さんは幅広い役を演じていますが、仕事を受ける際の決め手みたいなものはありますか?
そんなにたくさん仕事が舞い込むほど売れっ子ではないので(笑)。でも僕のミッションは、いろいろな役を生き尽くすことだと思っているので、幅広い役にチャレンジしたいですね。七変化どころか、百変化したい。
だから「前に演じていた、あの役のイメージでお願いします」というオファーをいただくと、あまり気持ちが乗らないこともあります。それより「え、これ僕がやるの?無理でしょ?」と思うくらい違和感があるほうが、うれしいです。それこそ「賢二みたいな乙女心を表現できる可能性を、感じてくださったんですね?」と、闘志がメラリと燃えます。
――今後、挑戦してみたい役があればお聞かせください。
僕は、“役者は出会い”だと思っているので「こういう役をやりたい」というのは、あまりないです。
でも強いて言うなら、邪悪な役をやってみたいですね。人間って小綺麗に生きているようで汚らしい部分もいっぱい持っていますよね。そういう、人にあまり見せたくない醜悪なものを表現したい。いい人然としているけれど、本当は社会規範から外れていて、それをひた隠しにしているキャラクターって惹かれますよね。
家庭菜園にハマり中!トマトの成長に「ルン♪」
――「これがあるから仕事を頑張れる」と思える、内野さんにとっての“元気の源”はありますか?
やっぱり友人とお酒を飲む時間が、一番楽しいですね。コロナ禍でなかなか行けなくなりましたが、酔っ払ってバカ話をしているのが好き。
僕は普段、書斎に閉じこもっている時間が長く、自分がやりたいと思ったら際限なく籠もって仕事をしています。だから余計、誰かと触れ合いたい、外に出てコミュニケーションをとりたいと思ってしまうのでしょうね。今こうして取材を受けている時間も楽しいです(笑)。
――最近ハマっていることがあれば教えてください。
最近、自宅の庭に野菜を植えました。どこかへ遊びに行ったときに、途中で寄った道の駅で、セロリとトマトの苗を衝動買いして。朝起きて、ちょっとずつ育っているのを見ると、「ルン♪」という気持ちになります(笑)。花が咲いて、小さい豆粒みたいなトマトがでたときは、「うわぁ、トマトじゃん!」とちょっと感動しました(笑)。
去年は、オクラを育てていました。本当にたくさん収穫できて、味噌汁に入れたり、炒め物に使ったり、塩茹でにしたり…いろいろ作りましたね。セロリとトマトはどう料理しようか、今から楽しみです。
写真:河井彩美
ヘアメイク:柴崎尚子
スタイリング:中川原寛
<「M.バタフライ」公演概要>
東京公演 6月24日(金)~7月10日(日)/新国立劇場 小劇場
大阪公演 7月13日(水)~7月15日(金)/梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
ほか福岡・愛知公演あり
原作:デイヴィッド・ヘンリー・ファン
翻訳:吉田美枝
演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
出演:内野聖陽、岡本圭人、朝海ひかる、占部房子、藤谷理子、三上市朗、みのすけ