宝島社主催の第19回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞した新川帆立さん。受賞作の『元彼の遺言状』は、綾瀬はるかさん主演の月9ドラマに起用されました。
『元彼の遺言状』は、敏腕弁護士の剣持麗子が元彼が遺した奇妙な遺言状を受け、依頼人と共謀して巨額の遺産を手にしようと奮闘するリーガルミステリー。弁護士として働いていた経験のある新川さんだからこそ描ける緻密なシナリオと斬新な事件アプローチ手法が“このミス”選考委員をうならせ、大賞を受賞しました。
強烈なキャラクターで人気の剣持麗子を主人公とするシリーズ最新作『剣持麗子のワンナイト推理』を上梓した新川さんに、フジテレビュー!!がインタビュー。最新作を含めた「剣持麗子シリーズ」について、作家業について、自身の作品がドラマ化された思いなどを聞きました。
「剣持麗子は、ちゃんと1人の人間として書く」
<新川帆立 インタビュー>
──『剣持麗子のワンナイト推理』が発売されてから1ヵ月経ちましたが、反響は届いていますか?
ちょっと怖くて、レビューサイトを見ることができていないのですが、おかげ様で売れ行きはいいそうなので、皆さんに楽しんでいただけているのかな、と感じています。
あとは反響と言いますか、私と同世代以上の女性から、「新キャラの黒丑くんがかわいい」という声は聞きました。現在放送中のドラマでは、望月歩さんが演じてくださっていますが、私が軽い気持ちで銀髪にしてしまったがために、ブリーチするの大変だっただろうなと心配しています(笑)。
──銀髪は、軽い気持ちだったのですか!?
最近、カラーリングで遊んでいる若い子が多くて、ステキだなと思っていたので、銀髪にしたんです。そうしたら、望月さんも銀髪にされることになって…でも、似合っていますし、今後の登場も楽しみです。
──剣持麗子シリーズは、『元彼の遺言状』『倒産続きの彼女』に続き3作目。剣持麗子という女性を書くうえで、一番大事にしていることはなんですか?
テンプレートで書かないことですね。「強い女性といったら、こういうことだよね」とイメージすることがあると思うのですが、「強い女性」と言ってもさまざまなタイプの人がいますし、人はいろいろな面を持っていますし。ちゃんと1人の人間として、現実の女性と同じように、立体的に書くことを意識しています。
こういったシリーズものは、登場人物の“年を取るか、取らないか問題”があるのですが、このシリーズではみんな年を取ってもらおうと思っています。読者の皆さんと一緒に年を取るということも意識しているというか、決めていることです。
──『剣持麗子のワンナイト推理』で、麗子が悩んでいるときに上司である津々井先生が送るアドバイスが印象的でした(※)。新川さんが弁護士として活動しているときに実際に言われた言葉を参考にされているのでしょうか?
※「部下を信用するのは上司の仕事だが、上司を信用させるのは部下の仕事だ。自分の仕事をしなさい。そして部下が仕事をしていないなら、仕事をさせなさい」
実際に言われたということはないです。ただ、法律の条文に照らし合わせて話す弁護士っぽい発言だなと思って書いていますね。
他にも、作中に津々井先生がパソコンで作業をしながら、別の話をするという場面があるのですが、そういう弁護士はいるんです。そういったディテールは、かつての先輩方を思い出して書いています。
最新作の装丁にはある秘密が…?
──『元彼の遺言状』は赤、『倒産続きの彼女』は黄、『剣持麗子のワンナイト推理』は青と、剣持麗子のシリーズは装丁のイラストとカラーがすごくキレイで印象的ですが、こだわりはありますか?
装丁に関しては、編集者さんにお任せしています。このステキな装丁は、編集者さんのセンスとこだわりの賜物ですね。自分が書いた小説を、デザイナーさんが解釈して表現してくださるのはすごく贅沢なことだな、と毎回思います。
──イラストをお願いするうえで、「こんなキャラクターで」とリクエストしたことなどはありましたか?
「麗子ちゃんは、ロングヘアのイメージ」ということだけは、ふんわりお伝えしましたが、それ以上はないです。
シリーズを通してイラストレーターの丹地陽子さんが装丁のイラストを描いてくださっているのですが、本当にステキですよね。丹地さんは他の作家さんのカバーも担当されているのですが、作家同士で「丹地さんいいよね」と、いつもしみじみ語っています(笑)。
丹地さんに依頼してくださったのも編集者さんですし、色もすごくこだわってくださっていて。毎回、表紙が上がってくるのをワクワクしながら待っていました。今作は背表紙にも星がついているところが、私は好きです。
まだ大々的には言っていないのですが…もしお手元に『剣持麗子のワンナイト推理』をお持ちの方は、カバーを外してみてください。かわいい麗子ちゃんが見られます(笑)。
癒しは以前と変わらず、「ガチャピンのYouTube」
──新川さんは『セブンルール』出演時、「寝転がりながら小説を書く」というお話をされていました。今もそのスタイルで執筆しているのでしょうか?
今も変わらずゴロゴロしながら書いてます。番組では腹ばいの映像しかなかったと思うのですが、ラッコみたいになって書くパターンもあります…って、いらない情報かもしれませんが(笑)。
もちろん机に向かって書くこともできるのですが、寝ながらというのが楽な姿勢なんです。
──今、新たに「これをやると筆が進む」というルーティンなどはありますか?
「毎日ちょっとずつ書く」ということでしょうか。だいたい原稿用紙15枚くらいが1日に書ける限度なのですが、もちろん書ける日と書けない日もあって。書けない日が続くと、締め切り前にたくさん書かないといけなくなり、体力的にすごくしんどくなるんです。だからこそ、毎日少しずつ書くことが一番だな、と感じています。
──つらいときの息抜きは、やはり『セブンルール』でも明かしていたガチャピンの存在でしょうか?
そうですね。ただ、最近ガチャピンは忙しいのか、あまりYouTubeを上げてくれなくて(笑)。でも、更新されると楽しく見ています。
4月にやっていた「ガチャピンムック スプリングコンサート」は見に行けなかったのですが、次に開催されるときは絶対に行きたいんですよね。ちゃんとガチャピンのフードを装備して行こうと思っています(笑)。
「作家として生き残れるように」研究の日々
──現在、新川さんは作家業に専念されていますが、専念したことで気持ちの変化などはありましたか?
専業になったら、時間がある分たくさん書けるだろうと思っていましたが、それは間違いでした(笑)。専業になったからといって、筆は速くならないということに気づきましたね。
でも、アウトプットの量は一定ですが、本を読んだり、映画を見たり、以前よりインプットの時間が取れていて。それはすごくいいな、と思っています。
私は、専業でずっとやっていきたいし、専業でやるには書き続けなくてはいけないし、うまくならなきゃいけない。なんとか作家として生き残れるように頑張りたいな、と改めて感じています。
──新川さんが、今一番好きな本を教えてください。
アメリカに住んでいるので、アメリカのミステリーを読もうと思い、今はエラリー・クイーンのシリーズを読んでいます。やはり面白いですね。
──面白さを具体的にうかがえますか?
ガチガチのミステリーって、あまり言葉による差がなくて。エラリー・クイーンの作品は単純にミステリーとしてのクオリティが高いので、面白いなと思います。…と言いつつ、分からないことも多くて。本当は、詳しい方の解説を聞きたいなと思いながら、勉強も兼ねて読んでいるところです。
──さまざまな場所で「いろいろなエンタメ作品を書きたい」とお話されている新川さんですが、今、構想しているものがあればお聞かせください。
今は、ちゃんとミステリーを書けるようになるために研究中です。私は「ミステリーの分野で第一人者になりたい」という野望があるわけではなくて。エンタメ作品を書くうえで、ミステリーの技法は作品を面白くするポイントになると思っているんです。
だから、ミステリーの技法をうまく使えるようになりたいのですが、今は苦戦しておりまして…。目下、研究中ですので、読者の皆さんにおかれましては、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします、という感じです(笑)。
──研究は、どのようにされているんですか?
作品を読むしかないですね。読んだものをマネするのではなく、「こういう仕組みのトリックにすると、読者が驚いていいな」などということを学ばせてもらっています。
ドラマ『元彼の遺言状』の感想は?「意外でした」
──現在放送中のドラマ『元彼の遺言状』。初回の放送は「友達とリアタイします」というツイートもされていましたが、ご覧になった感想をお聞かせください。
事前に流れていたCMで、綾瀬さんが焼肉を食べるシーンが使われていたので、すごく焼肉が食べたくなって、友人と焼肉を食べに行ってから家でドラマを見ました(笑)。
感想としては、思った以上に「しっかりミステリーをやろう」という意気込みがあるのを感じましたね。小説をドラマ化するとき、ミステリー部分を簡単にして、人間ドラマに重点を置くことが多いと思っていたので、そこは意外でした。
──一緒にご覧になった友人のリアクションはいかがでしたか?
友人もミステリー好きで、「このミステリーがすごい!」のランキングに入っている作品は、毎年全部読んでいる子。ドラマのセリフが途中速くて、伏線を拾いきれなかったようで、「原作を読み直したくなった」と言って、帰っていきました(笑)。
その友人の姿を見て、もしかしたら同じように「原作を読もう」と思ってくださる方が増えるかもしれないと、うれしくなりましたね。
──SNSなど視聴者の反響はご覧になりましたか?
一番目についたのは、「綾瀬はるかさんがステキ」「大泉洋さんがかわいい」というコメントでした(笑)。
あと、「登場人物が多すぎて難しい」という声も見ました。1話、2話で扱った『元彼の遺言状』の話は、原作ではもっと多くの人物が登場していますし、遺産相続系のミステリーは、どうしても登場人物が多くなってしまうので…ごめんなさい!
──放送前、ドラマ化に対して「楽しみな部分と、悔しがりたい気持ちもある」と、お話されていましたが、実際にドラマを見て、どのような思いが起こりましたか?
1話、2話での話になりますが、「正直、勝ったな」と思うところと、「負けたな」と思うところあります。
「勝ったな」と思ったのは、分かりやすさですね。この作品のプロットはかなり複雑で、設定が入り組んでいるんです。遺産相続ミステリーという切り口では、ドラマよりも小説のほうが分かりやすいのかな、と思いました。
他方で、映像の“映え感”というか、元彼・森川栄治(生田斗真)が住んでいた屋敷のセットや、左右対称にコマを割っている感じとか、大事な伏線をカットで強調するという手法はすごく面白いな、と。小説ではできないことですから。
同じようなストーリーでも、媒体の違い、表現手法によって見え方が変わるんだなと、とても勉強になりました。
撮影現場の見学でディテールの大切さを再認識
──改めてとなりますが、ドラマ化の話を受けたときの心境をお聞かせください。
最初にご提案いただいた段階から、綾瀬はるかさんがメインキャストというお話だったので、それが一番うれしかったです。この作品は、主人公のキャラクターが大事ですから。綾瀬さんなら間違いないと思いましたし、ぜひという感じでした。
──ドラマ化する過程をご覧になって、新鮮だったことはありますか?
コロナ禍ということもあると思いますが、思った以上にバタバタしていたのは驚きでした。
小説の場合、刊行する4ヵ月前に原稿が上がるように、着々と進める感じなので、刊行直前にバタバタと何かをするということは、あまりないんです。
でも、ドラマは当事者の数が多いので、それぞれの意見などをまとめるのも、バタバタした中でものづくりをするのも大変だなと思いました。
そういう意味では、小説は気楽と言いますか…「1万人の兵が走り出した」と書けば1万人の兵が走り出したことになりますからね(笑)。
それを映像でやろうと思うと、CGを使うのか、エキストラを集めるのか、「大変だから脚本を直そう」となるのか。今まで視聴者として、なんとなしに見ていましたが、ドラマを作るのは本当に大変だなと知りました。
──撮影現場も見学に行かれたそうですね。
ドラマの撮影現場は初めてだったので、普通と比べてどうなのかということは分かりませんが、すごく和やかで、雰囲気の良い現場でしたね。
あとは、セットも小道具もすごい。映像だと一瞬映るか映らないかくらいのところまで、すごく手が込んだ、細かい仕事をされていて。ディテールって大事だなと改めて思いました。
7月の月9ドラマ『競争の番人』も決定!思わずプロデューサーに「なんで?」
──7月期の月9も、新川さん原作で『競争の番人』が放送されることになりました。連続で自身の作品がドラマ化されることになった心境をお聞かせください。
まさかです。本当に驚きました。先に『元彼の遺言状』のお話をいただき、時を置かずして『競争の番人』のお話をいただいたのですが、「同じ作者の作品を連続でやるのはダメでしょ」と、どちらかが無かったことにならないか心配していたんです。でも、両方とも無事に巣立ってくれそうで、本当によかったです。
『競争の番人』は公正取引委員会の物語。撮影現場を見学させていただきましたが、『元彼の遺言状』とは世界観がまったく違いますし、脚本の雰囲気も違いそうなので、2期連続とはいえ、視聴者の皆さんも飽きずに見ていただけるかと思います。私もどんな感じになるのか、今から楽しみです。
──小説を書いている段階で、映像化されることは想像していましたか?
想像していなかったというか、まったく映像化を狙ってはいませんでした。それに、こういう小説は、映画やWOWOWのようなところで映像化されることが多いイメージだったので、地上波のゴールデンタイムの連ドラというのは、本当に予想外でした。
さすがに、2作連続でドラマ化されることに驚いて、7月期のプロデューサーさんに「なんで私の作品を選んでいただけたんですか?」と聞いてみたんです。そうしたら、「月曜日に見るものだから、明るい作風がいい。どんなに面白い作品でも、重い話は視聴者がぐったりしてしまうから」とお話されていて。私の作品は、全体的に明るいので、そういう意味では月曜日のドラマにマッチしていたんだな、と納得しました。
──『元彼の遺言状』は現在、ドラマオリジナルの事件を描き、放送されています。今後への期待をお聞かせください。
いろいろなインタビューで話していますが、私はドラマの台本を読まないようにしていて。それは、好きに作ってもらいたいと思ってるから。
小説をそのままドラマにすれば面白いというものでもないですし、ドラマにはドラマの面白さがあると思うので、映像として面白いものを作ってもらえたら、それだけでうれしいです。今後の展開も楽しみにしています。