『元彼の遺言状』第4話完全版
剣持麗子(綾瀬はるか)は、さまざまな企業の顧問弁護士について調べていた。
狙いは老舗企業と長期に渡って契約している高齢の弁護士。若くて優秀な自分が営業をかければ、すぐに彼らにとって代われる、という算段だった。
一方、篠田敬太郎(大泉洋)には、そんな麗子の相手をしていられないほど楽しなイベントがあった。
敬愛する女性ミステリー作家・秦野廉(宮田早苗)が、大ヒット作「胡桃沢啓二シリーズ」の最新作「甘い殺人」を13年ぶりに発表することになり、その記者発表会見の模様がオンラインで生配信されるのだ。
ほどなく会場に秦野が姿を見せ、会見がスタート。そこで秦野は、いきなり「私は、人を殺しました」と言いだす。一瞬驚きつつも、すぐにそれは新作のプロモーションだと理解する篠田。これまでも秦野は、自著の中で読者に対して謎解きの挑戦状を出していたからだった。
すると秦野は、あるアパートの住所を明かす。視聴者からの通報で警察がアパートに駆けつけると、そこには本当に住人の男性・清宮浩平の死体があった。その報が伝わると会見場は騒然となり…。
同じころ、浩平の妻・加奈子(中島亜梨沙)が、「夫を殺した」と自首していた。警察は、秦野の発言と併せて加奈子から事情を聞いているという。
そのニュースを見た篠田は、死体は一つなのに犯人を名乗る人物は2人──まるでアガサ・クリスティーの「牧師館の殺人」のようだと騒いでいた。
麗子は、そんな篠田に、「もし秦野が犯人なら、楽しみにしている小説は発売中止だ」と冷たく言い放つ。
だが、小説の版元が白河出版だと知ると、すぐに出かける支度をする麗子。白河出版の顧問弁護士が84歳と高齢だったからだ。
麗子たちが白河出版に着くと、津々井君彦(浅野和之)の姿があった。津々井も、今回の案件を狙っていたのだ。
担当者の吉村(夙川アトム)に会った麗子は、篠田が熱く語っていた言葉をそのまま拝借して秦野のファンであることをアピールし、今回の一件の担当弁護士の座を獲得する。
麗子は、警察署まで秦野を迎えに行くと、事務所に戻る。秦野は、自分の小説が殺人事件に繋がったことにショックを受けている様子だった。
「甘い殺人」は、夫の暴力に苦しめられてきた妻が、自殺を装って夫を殺してしまう話。作中の殺害の手口は、夫の好物であるもなかに睡眠薬を混ぜて眠らせ、地蔵背負い──背後から背負うようにして電気コードで首を絞めて殺害し、最後にドアノブにコードを括りつけて自殺に見せかける、というものだった。
実は加奈子は、3年ほど前から秦野の家の家政婦をしており、先週、彼女に「甘い殺人」の原稿を読ませていた。人の意見に左右されたくない、という理由から、担当編集にも発売前まで原稿を読ませない秦野が、加奈子に原稿を見せたのは、13年前の作品が評論家から酷評され、不安だったからだという。
その話を聞いた麗子は、争点になりそうだった殺人教唆の罪に問われることはないと秦野に伝えた。
津々井は、ライバル出版社から頼まれたのか、あるいは麗子への嫌がらせなのかは分からないが、テレビ出演の際に、「今回の事件は殺人教唆だ」という発言をして、世論を誘導しようとしていた。
麗子は、真相を確かめるために加奈子に面会し、彼女が小説を読んでいなかったことを知る。
しかし、警視庁捜査一課の橘五郎(勝村政信)は、加奈子が誰かを庇っているのではないかと疑っていた。橘は、加奈子には娘がいる、と麗子に告げ…。
篠田は、事件があった加奈子のアパートを訪れる。現場は、線路のすぐそばにあり、近くでは道路工事も行われていた。そこで篠田は、加奈子の娘・希(白鳥玉季)と出会い、彼女を事務所に連れて帰る。
希は、「母を助けてほしい」と麗子に頼んだ。しかし麗子は、「金にならない仕事はしない」と断ってしまう。
「法律は不公平だ。何度殴られても助けてくれなかったのに、一度やり返したら罪になる」と言い残して帰ろうとする希。麗子は、「小説を読んだのか」と尋ねたが、希は答えなかった。
別の日、テレビのワイドショーでは、何人ものコメンテーターたちが、「今回の事件は殺人教唆に問われない」と話していた。番組のスポンサーは森川製薬。事情を知った森川紗英(関水渚)の仕業だった。
「軽井沢からわざわざそんなことを言いに来たのか」と麗子から問われた紗英は、麗子たちの事務所を見下ろすタワーマンションに住んでいる、と驚きの告白をする。
篠田は、ホストの黒丑益也(望月歩)に協力を求め、加奈子が働いていた家事代行会社から情報を得る。やはり加奈子は、夫から酷い暴力を受けており、希が包丁を持ち出して警察沙汰になったこともあったという。
秦野からもらった「甘い殺人」の原稿を読み終えた篠田は、ある疑問を抱いていた。
小説の中の犯人は完全犯罪を成し遂げるが、加奈子は偽装工作までしながら自首している。篠田は、今回の事件は、「牧師館の殺人」ではなく、小説通りに殺人事件が起きるエラリー・クイーンの「Yの悲劇」だと麗子に告げた。
そしてもう1人、小説を読むことができた人物がいることも…。
そんな折、麗子の元へ橘から連絡が入る。加奈子が小説を読んだと供述を変えたというのだ。
加奈子と面会した麗子は、事件の詳細について、犯人なら知っているであろうことを矢継ぎ早に質問。だが加奈子は何も答えられず、焦りのあまり机を叩いて立ち上がると、「私が小説を読んで、この手であの人を殺した!」と叫んだ。
麗子が事務所に戻ると、希がいた。そこで希は、小説を読んで決心し父を殺した、と麗子に話す。
希は、これから警察に行ってすべてを話してくる、と出て行こうとした。そのとき希は「担当の刑事が、小説に出てくる胡桃沢刑事のような人だったらいいな」と口にする。「胡桃沢刑事は日本一女の子に甘い刑事だから、自分のことも見逃してくれるかも」というのだ。それを聞いた麗子は、警察には明日行くよう指示した。
麗子と篠田は、秦野の家を訪ねた。麗子から、「加奈子は誰を庇っているのか」と問われた秦野は、「希だ」と答える。
事件があった日、加奈子から電話をもらった秦野は、彼女が娘を庇って自首する決意をしたと知って黙っていられなくなり、自分も会見場で話したのだという。希のことは2人だけの秘密にしようと約束したらしい。
そんな秦野に、ふいに「加奈子の家に行ったことはあるか」と尋ねる麗子。秦野は、「行ったことはないが、希が読書好きだと聞いていたから親子で楽しんでもらいたいと思って原稿を読ませた」と返した。
すると麗子たちは、「甘い殺人」のトリックは出来過ぎではないかと切り出す。リアリティを追及したという秦野に対し、「13歳の女の子が大柄の父親を殺害しようとすると、すぐには絶命せず、大きな物音がしたのではないか」と問う篠田。それに対して秦野は、「あの家は、電車や工事の音がうるさいから、音なんて気にならない」と返し…。
麗子たちは、希が小説を読んでいないことを秦野に伝えた。希は、「胡桃沢啓二」のことを「胡桃沢刑事」だと思い込んでいたのだ。
観念した秦野は、「甘い殺人」は加奈子の家をモデルにして書いたこと、加奈子と希が小説を読めば感情移入して小説通りに殺人事件を犯すと考えたことを告白した。
だが、事件が起きずに業を煮やした秦野は、自らの手で事件を起こしたという。すべては、再起をかけた小説を売るためだった。
麗子は、最初に秦野に会ったときから疑問を持っていたらしい。手袋をしていた秦野が、派手なマニュキアをしているのを不審に思い、何かを隠すために塗っているのではないかと思ったのだ。
白河出版の吉村は、「小説の出版後に秦野が逮捕されたら、自主回収で何倍もの被害が出るところだった」と言って麗子に感謝の気持ちを伝える。
続けて、秦野のことを「トリックが古い」などとひとしきり批判すると、麗子に顧問契約の話を始める吉村。すると篠田は、吉村の態度に怒り、「作品を大切に思えない人とは仕事はできない」と言って、一方的に顧問契約の件を断ってしまう。
事務所に戻った麗子は、篠田の振る舞いに激怒した。しかし、一歩も引かない篠田は、「雑用係のくせに!」という麗子の言葉にキレ、食事の世話をボイコットする。
事務所2階にある自分用の生活スペースに上がった篠田は、ふて腐れてベッドに転がった。そこで篠田は、麗子の元彼・栄治(生田斗真)と、秦野の小説の素晴らしさについてを語り合ったときのことを思い出していた。