家族ぐるみで付き合いのある人気漫画家3人が、アシスタント時代の思い出や、それぞれの作品、夫婦のルールなどについて語りました。
4月17日(日)の『ボクらの時代』は、漫画家の、伊藤理佐さん、二ノ宮知子さん、安野モヨコさんが登場しました。
今回は伊藤さんの「『ボクらの時代』に一緒に出るなら、二ノ宮っち(二ノ宮さん)とモヨたん(安野さん)しかいない」という希望で、これまで、メディアに一切顔を出してこなかった二ノ宮さんの出演が実現しました。
アシスタント時代の「超恵まれている」環境
伊藤さんと二ノ宮さんは「師匠が一緒」。「出会ったのが、同じアシスタント先の(漫画家の)先生のところ」と説明がされました。
二ノ宮:理佐ちゃんはもう、17歳くらいでデビューしていたから、私にとって大先輩で。「絵の修行に行ってこい」みたいな感じで、担当さんに言われて行ったのが、村田順子先生のお家で。
安野:超恵まれてると思う。順子先生のところ。
伊藤:そうなんだよ。だって、夜食にオレンジクリームパスタとか出るんだよ。
安野:何それ?
伊藤:夜食で。
安野:オレンジ?
伊藤:オレンジを搾って作ったパスタとかいって。
安野:え!?
二ノ宮:朝から、前菜みたいなの出てこなかった?
伊藤:出てきた。
二ノ宮:で、モーツァルトがかかってたよね。
安野:すごい!ほかのところ行ったら、つらかったんじゃない?
二ノ宮:行ってないんだけど、よくつらいアシスタント先のことを聞いていると、カチコチのおにぎりが冷蔵庫に入ってて、「食べろ」って言われたとかいう話を聞くと、「え!そんなところあるんだ」って。
伊藤:誰?どこ(笑)?
二ノ宮:言いたい(笑)。
伊藤:(安野さんに)アシスタントは、どこに行ったの?
安野:有名どころでは、桜沢エリカ先生と、あと岡崎京子先生のところに。でも、そこはそんなつらいことなかったな。どっちの先生も泊まりはなくて、夜8時くらいまでに、もう原稿を上げちゃって。
伊藤:踊りにいくんじゃない?
安野:踊り…クラブに行くこともあったけど、焼き肉行ったりとか、飲みに行ったりとか。
伊藤:じゃあ、楽しそう。
安野:うん。わりと楽しく、いろんなところに連れていってもらってた。今はどうかわかんないけど、そのときはそうやってアシスタントに行って、先生に技術を教えてもらうじゃない?知らないとできないことって、いっぱいあったから。
二ノ宮:でも、もうパソコンで描く時代になっちゃったから、今から紙で(描く)っていうのを覚える子はいないんだろうなと思って。
安野:そうだよね。
二ノ宮:2人とも、まだアナログで描いてるんだっけ?原稿。
安野:ううん、デジタル。
伊藤:私は、まだ紙。
安野:漫画を描く人、増えてるじゃない?絵うまい人、めっちゃ多いよね。
二ノ宮:多い。もうなんか絵がうまいだけじゃやっていけない。だから、今の人のほうが大変だろうね。競争が激しい。
「昔は、雑誌がもっといっぱいあったしね」(伊藤)、「漫画バブルだったし」(安野)と、3人は若手時代を振り返りました。
また、二ノ宮さんは「インターネットで個人が発表できる時代になった」ことも指摘。
伊藤:ああ、そうか。
二ノ宮:自分で有名になれる子がいっぱいいる。
安野:それは、本当にいいなと思う。(以前は)売れるためにいろいろ言われて、成長できる部分もあるけど、その人の本来の持ち味がつぶれちゃったりする場合もあるじゃない。そっちがなくなってるだけでも。
伊藤:そのまんま出せるもんね。
安野:自由に、そのままで出せるのっていいことだなと思う。
二ノ宮:そうだね。
3人は、個人が自由に作品を発表できる時代になったことを、歓迎していました。
伊藤理佐「私が一番面白く見ていた」
また、今年1月に放送された伊藤さんの漫画を原作にしたドラマ『おいハンサム!!』(東海テレビ・フジテレビ系)についても話題に上がりました。
伊藤さんの漫画「おいピータン!!」を中心に、5作品を織り交ぜたオリジナルストーリーでしたが…。
伊藤:「混ぜる」って言いだしたのは、山口(雅俊)監督なんだけど。
二ノ宮:「一緒にしちゃうなんて、なんて失礼な人なんだ」と思って。
伊藤:(笑)。
二ノ宮:「何て声をかけよう?」と思っていたんだけど…(笑)。
伊藤:いやいや、私が混ぜてほしくて。
二ノ宮:面白かった。
伊藤:私が、一番面白く見ていたと思う。「すげー混ざってる~」みたいな。
二ノ宮:理佐っちの漫画のテイストが全部入っていて「ちゃんと理佐っちの漫画だわ」とか思って。
伊藤:2人も、(自身の作品が)ドラマになったでしょ?映画とか。
二ノ宮:モヨたん、「見てない」って言ってたよね(笑)?
安野:言わないでよ(笑)。
伊藤:あははは。
安野:何か「違う作品」と思っているというか。漫画とは方法論も違うしさ、ドラマとか映画になろうと思って描いてるわけじゃないじゃん?
伊藤:うんうん。
二ノ宮:好きなこと描いてるだけだよね。
この流れから、伊藤さんは「小6の娘が、今(二ノ宮さんの作品である)『のだめカンタービレ』にハマってるよ」と報告。
すると、二ノ宮さんは「うれしい。また、若い子が読んでくれたらいいなと思ってる」とニッコリ。
3人は「『お母さんがファンだった』という人が、ついに出てきて…」(伊藤)、「『親子二代で(ファン)』って言われたことある」(安野)などのエピソードを明かし、「年配を認めなきゃいけない」(二ノ宮)と笑い合いました。
まるで「三国志」?二ノ宮知子の「壮大な」作品世界
伊藤さんは、二ノ宮さんの作品を「三国志みたい」と表現しました。
二ノ宮:(笑)。全然違う…。
伊藤:壮大な。
二ノ宮:壮大…かなぁ?
伊藤:「のだめ」を読んでた娘が「え!パリ行くの?」って言ったときに、やっぱり壮大な漫画だよなって。
安野:(笑)。
二ノ宮:ああ、そうか。割と範囲は広いかな。
伊藤:パリ行かないよ。
安野:そうだね。
二ノ宮:興味の範囲が広いのもあるけど。
安野:その掘り方が深いよね。
二ノ宮:プロの方に途中で聞いちゃって。私、料理みたいだなって思うんだけど。プロの人とか、そういう人たちにネタをいっぱいもらって。全部「市場」で仕入れてきたら、家で並べて「かぼちゃ2玉、にんじん…何作ろう?」みたいな。
安野:その仕入れ先がさ、普通の人がたどり着けないようなすごいところから…。
伊藤:目利きだよね。
安野:うん。すごいネタを引っ張ってくるから、それはすごい。
伊藤:私なんて拾い食いだよ。拾い食い。
安野:(笑)。
二ノ宮:でも、それもすごいと思うのよ。
伊藤:ときどき、お腹壊す、みたいな(笑)。
二ノ宮:理佐っちは、自分の生活圏内を漫画にするじゃん。
伊藤:うん、私ね、ネタを拾うしかないから。
二ノ宮:でも、その拾い方が上手なんだよね。
安野:うん。何か、不思議とさ、そういうことやってると、まさにその状態の人が(寄って)来たりしない?
伊藤:不倫の話してると、不倫してる人が来るとか。
二ノ宮:うふふふ。
伊藤:陰毛を脱毛する話を描きたいと思ったら…。
安野:陰毛を脱毛している人が来るとか。
伊藤:わかる!
安野さんは「二ノ宮っちみたいに、ちゃんと奥行きのある取材ができるようになりたいなとは、いつも思う」と感心していました。
安野モヨコ「働きマン」と「働き方改革」
そこから3人は、「好きなこと」を描くということについても言及。
二ノ宮:結局、好きなこと描いてないと。私、逃げだすことがよくあったんだよね。
伊藤:どこから?
二ノ宮:パソコン雑誌から「パソコンの話描いてくれ」って言われたときは、1、2回で「もう無理!」って思って逃げだしたよね。
伊藤:逃げだした(笑)?
二ノ宮:うん。連載終了(笑)。
安野:確かにしんどくなるよね。やっぱり、自分が本当に好きなものを描いていったほうが続いて描けるのかなっていう。ということは、私は(現在連載中の)「後ハッピーマニア」が好きなのかなって。あ、そういう不倫とかが好きではないけど(笑)。
二ノ宮:よく描いてるよね。でも、あれ、生き生き描いてるよね。
安野:私「働きマン」は、楽しんで描いてたんだけど、「頑張って働いているのが、かっこ悪い」みたいな方向性にどんどん…ほら、働き方改革じゃないけど、ブラック企業とかが問題になり始めるちょっと前くらいだったんだけど。ああいうこと自体に、嫌悪感を持ってる人が増えてきてたから。
伊藤:そうだった?
安野:そう。そういう人たちからの攻撃が強かったんだよね。
伊藤:へぇ。
二ノ宮:そうなんだ。
安野:それは、すごいつらかったなと思って。
二ノ宮:私、エゴサたまにして。
伊藤:ひょー!
二ノ宮:変なのがあっても、割と気にしない。
伊藤:ああ、強いんだよね。
安野:二ノ宮っち、強いんだよね、本当。
二ノ宮さんは「『いいね』とか、しちゃったりするよ」と言って、伊藤さん、安野さんを驚かせていました。
漫画家夫婦ならではのルール
家族ぐるみの付き合いがある3人は、夫婦間のルールややり取りも明かしました。
伊藤:うちはね(夫は、漫画家の吉田戦車さん)、ずっと家に2人でいるから、なるたけ会わないようにしています、家の中で。
二ノ宮:ええ?
伊藤:本当、本当。あっちがお茶いれてたら、「もうちょっとしてから来よう」みたいな。
安野:晩ご飯だけ、一緒に食べるの?
伊藤:朝と晩ご飯。昼はバラけて、廊下ですれ違わないようにしてる。気配を感じて。
二ノ宮:ケンカしないためのルールみたいな?
伊藤:家の中に漫画家が2人いるとね、ちょっとギスギスするかな~。
安野:ネタの取り合いとか、ならないの?お互いに。
伊藤:なる!子どもの話を描いてたときは、「子どもが面白いことを言った」っていったら、先にメモしたもん勝ちなのよ。だから、メモ帳をいつも身近に。
安野:「取った!」みたいな?
伊藤:そう。「取ったり!」みたいな(笑)。
伊藤さんの、漫画家夫婦らしいルールに「そんなルールがあるの?」「面白い」と盛り上がりました。