昆虫やバナナといった自然の存在をモチーフに、漆を使用して表現をする野田怜眞(のだ・りょうま)。

「ポジティブなものの象徴」を創りたいと語る彼は、今年で25歳。現在は東京藝術大学の大学院に在籍する注目の若手アーティストだ。

「アート」と聞くとお堅いイメージを持つ人もいるだろうが、現代アートの世界ではいま、若手のオシャレなアーティストが多く活躍し、次々と新しい世界観を生み出している。

新進気鋭のアーティストの考え方に迫るシリーズ企画「アートに夢中!」。第1回は、野田怜眞さんに作品への想いや美術の道に進んだきっかけなどを聞いた。

<野田怜眞 インタビュー>

――まずは作品について教えていただけますか。

僕の作品はカブトムシなど昆虫、あと最近はバナナをモチーフに漆を使って表現しています。

表現したいのは、自然のそれぞれのストーリー。昆虫や自然を見ていて思うのは、人間の作り出す形は敵わないなと。

自然が生み出した姿形、色の偉大さは、人間では太刀打ちできない。人間の自分には何が出来るだろうと考えた時、その自然の姿形を含め、その背景にあるストーリーを表現し、伝えることだと思って今の表現に至りました。

Vanana 刺/20.0×11.3×4.6/乾漆・銅

――自然界にも色々とあると思いますけど、どうしてバナナに?

バナナは、一つの象徴なんです。栄養価が高い果物だし、バナナの実がなっている姿って王冠をいくつもぶら下げているように見えたり、すごくエネルギーを感じるんですね。

「Vananaシリーズ」と呼んでいるのですが、頭文字の「V」は「Victory」と同じでもあります。そんな堂々した存在感を、本当のバナナから型取りして造形に仕上げてるんです。

――カブトムシもそうですけど、堂々して強そうなものを描きたいのですか?

うーん、実は美術にとって一番大事なことって、見ていてポジティブになれるものを創ることだと思っていて。

マイナスな気持ちにさせるものじゃなくて、見る人にとっていい思い出とか、勝利とか高揚感とか、前向きな気持ちを起させるものが大事なんじゃないかと。

カブトムシは、それこそ戦国武将の甲のような力や威厳の象徴だと思うのですが、同じように「強さ」とか前向きな精神性を造形にしたくて。そこが伝えたいメッセージでもあるので。

――漆を使うことも重要ですか?

そうですね。やはりこの国で造形をしようと思ったら、一番マッチした素材だと思います。日本の気候とか、文化とか、そういった点にすごく合っていると思います。

《尋常に》 50.0×220.0×150.0㎝, 乾漆・金箔・鮑貝

――高校は美術系の学科だとか。もともとアートに興味があったのですか?

実はすごく俗っぽい理由なんですけど、中学の時にお付き合いしていた人と同じ進学先を選んだんです(笑)。だから偶然と言えば偶然ですね。

でも、やっているうちに興味が出てきて。もともと造形が好きだったし、デザインとかビジュアル的な世界は好きだったんです。

ということで、結局3年生の時に美大進学を目指しました。現役時代は愛知の公立校を目指したんですが、ボロボロに落ちた(笑) すごく悔しかったですね。

――でも、翌年には藝大に入れたのですね。

そうですね、本当によかったと思います。

先生も先輩もすごい方ばかりなので、本当に刺激になります。自分の表現をぶつけ合える相手がいるのは、本当に大事なことだと思いますね。

制作用に蒐集している作品の標本

――もともとアートなどインドアな趣味が多かったのですか?

いや、全然、外派ですね。スケボーとか釣りとか、どちらかと言えば外に出てることが好きな子供でした。小中ではサッカー、高校ではラグビー漬けでしたね。

《進化》70.0×185.0×170.0, 乾漆・銀箔・夜光貝

――絵を見ることなどは好きではなかったですか?

うーん…好きじゃないというか、絵画はちょっと苦手で(苦笑)。

特に抽象画は読み取るのが難しくて、少しストレスかな。全般的に見ることが好きなんです。目で完結していたい。

そういう意味で造形物や虫ですね、観賞しててストレスがないのは。虫は一番ストレスがない。

――だからこそ、そのビジュアルの良さを表現したいということですか?

人によっては不気味だと思うんですけど、僕はすごくきれいだと思っていて。自然の凄さとか、美しさとか、それはもう圧倒的に人を超えていると思うんですよ。

アトリエのワンシーン

――作品にする時、気を付けることはありますか?

曖昧な言い方かもしれませんけど、自分の殻に閉じこもらないこと。語り合うって大事だなと思っていて。

自分の表現したいことを語り合って、ぶつけ合うのは大事だと思うんです。

最近は第一線で活躍されている方とお話しする機会があって、お話を聞いたり、逆に聞いてもらってダメ出しをされたり、すごくためになります。閉じ籠ってちゃダメだなと思いますね。

《Vanana 煌》 20.0×13.0×4.2, 乾漆・鮑貝

――今後目指したいことは?

今はブラッシュアップですね。新しいものというより、今やっているバナナなど、今の表現を掘り下げたい。

自分の言いたいことをより伝わりやすいように進化させるにはどうすればいいか、今はそこに磨きをかける時期かなと。出来るだけ多くの人に共有してもらいたいと思っているので。

ああ…、でもカブトムシみたいに華美でやり過ぎなものは目指したいですね(笑)。

野田怜眞(のだ・りょうま)

1995年愛知県一宮市出身。2014年に愛知県立起工業高等学校デザイン科を卒業し、2015年東京藝術大学工芸科に入学。昨年は東京藝術大学卒業展示にて取手市長賞を受賞。現在は同大学大学院工芸科の漆芸専攻修士課程に在籍中。

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