『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督が脚本を手がけ、同作で撮影監督を担った曽根剛がメガホンをとった映画『永遠の1分』が3月4日に全国公開されました。
東日本大震災をコメディで描くという異色の映画。池袋シネマ・ロサでは3月5日、映画上映後に曽根監督と、主演のマイケル・ギダさんが登壇する公開記念イベントが行われました。
イベントでは、制作の裏話が披露されたほか、アメリカ公開が決定したことが報告されました。
8カ月たっても連絡がなく「落ちた」
この作品は、アメリカ人の映像ディレクター・スティーブが日本で東日本大震災を題材にしたコメディ映画を撮ることを決意し、さまざまな壁にぶつかりながら“笑い”の力で困難や葛藤を乗り越えていく物語です。
『コンフィデンスマンJP』シリーズで、ダー子たちの執事役として出演しているマイケル・キダさんの初主演作としても注目されています。
イベントで曽根監督は、映画の構想が生まれた背景を明かしました。
「2011年以降、漠然と3.11の何かが作れないかなと思っていたんですが、なかなか形にできずにいました。そんな中、2013年にロサンゼルスで映画を撮ったんです。それを機にロサンゼルスでも映画が撮れるなと思うようになり、今まで考えてきたことも合わせて、翌年の2014年には初稿の脚本が書き上がりました」
マイケルさんにとっては、この作品が初主演作。もともとは2019年頃に、レストランのオーナー役のオーディションで呼ばれていたと言います。
「台本を読んでみて話がすごくいいなと思って。主演というよりもスティーブという役を演じてみたいと思ったんです。それでオーディションの時にスティーブをやらせてもらえないですかと言ったら、いいんじゃないですかと言ってもらえて」
オーディションはうまくいったと思いながら8カ月たっても連絡がなかったため、マイケルさんは落ちたと思っていたそう。
「ちょうどコロナにもなっていた時だったんで、この作品は決まらないかなと思っていたんですが、それからしばらくして、スティーブ役ということで連絡が来て。台本を送っていただいた。この作品に関わりたかったからうれしかった」
曽根監督自身は、オーディションの時にはすでにマイケルさんを「スティーブに」と思っていたそう。すれ違いがあったことを申し訳なさそうに語りました。
「私を含め、プロデューサー陣たちと一緒に審査をした時は、満場一致でスティーブ役にということになっていました。だからてっきり伝わっているんだと思っていたんで、ビックリしました」
「ようやく決まりました」アメリカ公開の決定が発表
イベントでは、曽根監督から映画『永遠の1分。』のアメリカ公開が決まったことが発表されました。
公開されるのは、米ロサンゼルス。曽根監督は「この映画が、日本とロサンゼルスを舞台にしているので、どうしてもロサンゼルスで公開したいと思っていました。いろいろと動いて、ようやく公開が決まりました」と笑顔を見せました。
そのうえで、「本作は3.11を題材にしていますけど、世界中のあらゆる困難に立ち向かう人間の姿を描いたものでもあるので、今後はこれを機に、世界中の方にメッセージを届けたいなと思っています」と決意を語りました。
この日は出席できなかった脚本担当の上田慎一郎さんからは、ビデオメッセージが寄せられました。
「この作品は曽根監督からお話をいただいて書いた脚本なんですが、3.11を題材にした映画を作る人たちの映画ということで。自分たちが被災地で取材をする過程で、本当にこの映画を作っていいのか、という葛藤があったり、こんな映画を作るべきじゃないという声を受けたりと。
映画の中でスティーブたちがぶつかる壁は、僕たちの壁でもありました。そういった自分たちの体験を交えて作りあげたフィクションになっています。震災についてはいろんな思いを持つ方がいると思いますが、映画を観た後にこう思ったというように語り合ってもらえたらうれしいなと思います」
さらに、曽根監督が企画を持ってきて、脚本を書いてから9年が経っていたことも明かしました。
「長かったですね。僕自身、長編の脚本を書いて、それを他の人に監督してもらうというのは初めての経験だったので。どんな映画になるんだろう、というのはすごく楽しみでした。いい意味で自分が作れないものになっていたなと思いましたね。こういう映画になったのかという感慨がありましたね。僕も頑張って広げるんで、曽根さんも頑張って広めてください」
満足げな様子を見せる上田さんの様子を見た曽根監督は「照れくさいですね」と笑いつつ、「聞いていて、上田に脚本を依頼した当時のことだったり、その過程をいろいろと思い出しましたね」としみじみ。そして、次のように述懐しました。
「最初は1ページくらいの大筋を僕が書いて。それを上田に書き換えてくれないかとお願いしたんです。そこから膨らませていただいて。
当初、僕が書いていたのは通常のドラマに近い形だったんです。悲しい出来事なんで、悲しく描いてもしょうがないですし、ドキュメンタリーは他にもあるので、違った形にしたいと思って。そしたらそこにコメディの要素を入れたらいいんじゃないかと提案してくれたのは上田でした。
そして2020年の春に製作が決まったんですが、コロナがやってきまして。あらためて本作は作れないんじゃないかという壁にぶち当たったんです。その壁があったからマイケルさんにも(主演決定が)伝わっていなかったのかもしれませんが。
でもその壁をどうしようかという時に、コロナ禍の状況を脚本に織り込んだらいいんじゃないかということも上田が提案してくれた。そのことによって、3.11だけじゃない、世界のいろんな事に対するメッセージを含むことになった。上田の力ですばらしいものになりました」
来週は3.11。その日だけは忘れないで
最後のメッセージを求められた曽根監督は「来週は3.11ですが、その日だけは忘れないでいてほしいなと。ただ悲しい気持ちになるんじゃなくて。前向きな気持ちでいてほしいというメッセージが伝われば」と発信。
それを聞いたマイケルさんは「曽根監督と同じ気持ちですが、今はコロナとか、ウクライナとか、つらいこともあり、みんな大変な時期ですが、でもいろんな乗り越える方法がある。この映画がそのひとつのヒントになったらと思っています」と呼びかけました。