「バスに乗っている時間は、その子にとって、安心できるお家から学校へと気持ちを切り替えるための、ほんのわずかだけど大切な移行の時間なんです」。
そう語るのは、子どものケアリングサービスを提供するソイナース(運営:株式会社Medi Blanca)に登録し、主に医療的ケア児の「通学支援*」を担当する看護師の田中さん(仮名)。大学病院の小児病棟で十数年、さらに大学教員として小児看護学を教えてきた経験を持つベテランです。
なぜ彼女は今、「通学支援」という現場を選んだのか? そこにはどんな難しさがあり、どんなやりがいを感じているのか? そして、子育て中のママさんナースがこの仕事を続けるリアルな日常とは?
通学支援の最前線で活躍する田中さんに、詳しくお話を伺いました。
*通学支援とは:医療的ケアの必要度が高い子どもが学校へ通学する際に、送迎や看護師の同乗などの支援を行う制度
「働きたい時間」で「専門性を活かす」。1時間から働ける通学支援を選んだ理由
――まずは、これまでのご経歴を教えていただけますか?
田中さん: 都内総合病院の小児病棟でキャリアをスタートしました。初めの4年間勤務した後、大学院の修士課程に進学し、修了後にまた同じ病院に戻りました。合計で十数年は小児病棟で働いていたことになります。
――大学院に進まれたきっかけは何だったのでしょうか?
田中さん:働いていた病院では、先輩看護師の中にも大学院に進学する方が多くいました。私も4、5年経った頃、これからのキャリアを考える時期になり、当時お世話になっていた恩師に相談したこともきっかけとなって進学を決めました。
――その後、大学教員も経験されていますね。
田中さん: はい。臨床を離れた後は、大学で教員として小児看護学を教えていました。看護師としての臨床経験とは別に、教育という立場から看護に関わった経験も、今の自分につながっていると感じています。
(※編集部注:田中さんは現在も単発で大学の教育活動に関わることがあるため、今回は仮名でのインタビューにご協力いただきました。)
――まさに小児看護のスペシャリストでいらっしゃいますが、なぜソイナース、そして通学支援という働き方を選ばれたのですか?
田中さん: 娘の小学校入学などを機に、自身の働き方を見直したいと考えたのがきっかけです。短い時間でも、これまで培ってきた小児看護の経験を活かせる仕事を探していました。正直、「小児看護」で求人を探すと、クリニックか保育園という選択肢が多くなります。でも、クリニックは勤務時間の拘束が長かったり、曜日が固定されたりすることが多く、子育てとの両立を考えると少し難しいと感じていました。
そんな時にSNSでソイナースを知り、曜日や時間に縛られず、自分が「働きたい時間」に働ける点に大きな魅力を感じました。特に「通学支援」であれば、朝の数時間という形で、生活の中に組み込みやすいと考えました。
保育園看護師も経験はありますが、より専門性を活かせる現場として、ソイナースに登録しました。
お母さんとの連携、子どものサイン…通学支援ならではの難しさと工夫
――通学支援*の現場では、どんなことを感じますか?
田中さん: まず、この支援が医療的ケア児のいるご家庭にとって、いかに必要不可欠かを痛感しています。負担の多い医療的ケア児のお母様ですが、ほんの1時間の通学支援が、お仕事を続けていただけたり、自分時間をもっていただけたり、ご兄弟にかける時間に繋がれば、と思っています。
――看護師目線で通学支援ならではの難しさはありますか?
田中さん: 一番は、お母さんと直接お話しできる時間が非常に短いことです。バスの到着時間によっては、本当に1分もないくらい。お子さんのその日の体調を一番よく知っているお母さんから、限られた時間で的確な情報を引き継ぐ必要があります。
また、お子さんの小さな変化を見逃さないことも重要です。病院と違って、何かあった時にすぐに他のスタッフに頼れる環境ではありません。一人で判断しなければならない場面も多く、最初は大きなプレッシャーと責任を感じていました。帰り道はぐったり疲れてしまうほど緊張していましたね(笑)。
――どのように乗り越えられたのでしょうか?
田中さん: やはり経験を重ねることです。何度も担当させていただくうちに、お子さんの表情や様子から「今日は眠たいのかな」「少し調子が悪そうだな」と、サインを読み取れるようになってきました。
こちらから具体的な様子を伝えて質問すると、お母さんも的確な情報を返してくださるようになり、短い時間でもスムーズな連携ができるようになりました。学校の看護師さんとも顔なじみになり、日々の細やかな情報共有もできています。
「お母さんの代わり」として。バスの中で心がけていること
――バスに乗っている間は、どのように過ごされているのですか?
田中さん: 私はいつも「お母さんの代わりに乗っている」という気持ちでいます。医療的ケアが必要なお子さんにとって、学校へ行くことは成長のために大切なことですが、同時に身体的にも精神的にも大きな負担がかかることだと思います。一番安心できるお母さんから離れて、集団生活の場へ向かうわけですから。
だからこそ、バスの中では、できるだけお家での安心感に近い雰囲気を作ってあげたいと思っています。その子の様子を見ながら、たくさん話しかけることもあれば、眠そうにしていたらそっと見守ることもあります。
道端の草花の色が変わったこと、季節の移り変わりなど、車窓から見える景色について話しかけたり、「週末は何してたの?」なんて聞いてみたり。発語のないお子さんでも、表情や仕草でコミュニケーションをとるように心がけています。
――お子さんとの関わりで、嬉しかったことはありますか?
田中さん: 担当しているお子さんが、学校に着いた時に「バイバイ」と手を上げてくれた時は、本当に嬉しかったですね。最初は気づかなかったのですが、学校の先生に教えてもらって…。私の存在を認識して、挨拶してくれたんだな、と信頼関係を感じられて、すごく励みになりました。
しばらくお休みしていて久しぶりに担当した時には、少し涙ぐんでくれたこともありました。お母さんから「もう来ないと思って不安になったのかも」と聞いて、私がいなくなることを寂しいと思ってくれたことに、また胸が熱くなりました。
ママさんナースのリアルな一日。通学支援があるから続けられる
――通学支援を含め、子育てと両立する1日の流れを教えてください。
└通学支援看護師のとある1日のスケジュール例
田中さん: 朝は6:20起きが目標ですが…(笑)。7:20には家を出て、7:50にお子さんのお宅へ。8:00前後にバスに乗り、8:40に学校到着。申し送りを済ませて9:00前には学校を出ます。
次の訪問まで2時間ほど空くことが多いので、カフェで記録をつけたり、次の準備をしたり、仕事とは別の勉強をしたりと、自分のための時間として使っています。この「すき間時間」があるのが、ソイナースの働き方の良いところですね。
日中の訪問を終えると、夕方からは子どもの習い事の送迎。夕食の準備なども含め、すべてが終わるのは夜遅くになります。子どもが寝た後に、ようやく動画視聴などの自由時間です。
――多忙な中でも、通学支援のような短時間勤務があることで、うまくバランスを取られているのですね。
田中さん: まさにその通りです。もし固定シフトの仕事だったら、ここまで柔軟に働くことは難しかったと思います。
これからも、家庭と学校をつなぐ架け橋として
――ソイナースでの働き方を考えている方へメッセージをお願いします。
田中さん: 特に、幼稚園や小学校のお子さんを持つママさん看護師には、ソイナースの働き方は本当におすすめです。固定シフトに縛られずに、空いた時間を活用して専門性を活かせます。また、今はフルタイムは難しいけれど、いずれはしっかり働きたい方、看護師の仕事以外にもやりたいことがある方にも、キャリアを途切れさせずに自分らしく働くための良い選択肢になると思います。
通学支援は、責任も大きいですが、お子さんの「いってきます」から「いってらっしゃい」までの大切な時間に関われる、とてもやりがいのある仕事です。子どもたちの成長をすぐそばで見守りながら、ご家族をサポートできることに、日々喜びを感じています。
――最後に、医療的ケア児を取り巻く環境について、今後どのようになってほしいと思われますか?
田中さん: 通学支援の必要性はますます高まっていくと思います。それと同時に、兄弟児への支援ももっと充実していくべきだと感じています。
医療的ケア児の兄弟は、生まれた時からお家の中に医療者がいたり、お母さんやお父さんがケアで忙しそうにしている姿を見て育ちます。親御さんに心配をかけまいと、自分の気持ちを我慢してしまう子も少なくありません。
その子たちが抱える思いに寄り添い、話を聞いてあげる機会や、兄弟児がやりたいことを叶えるためのサポートがもっと必要だと思います。そのためにも、私たちのような訪問看護師が、ご家族全体の状況を理解し、必要な支援につなげていく役割を担っていけたらと考えています。
――本日は、通学支援の現場のリアルなお話をありがとうございました!
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