新型コロナウイルス感染拡大防止のために、4月7日より全ての劇場を自主的に休館した本多劇場グループが、6月1日より営業を再開。本多劇場にて7日までの1週間に渡り、再開第一弾公演「DISTANCE」を行った。

この公演はひとり芝居の無観客生配信という形で実施し、演目は出演者によって異なり、11人の俳優陣による、11演目を上演。6月6日(土)の14時公演では鈴村健一による「制御不能朗読劇〜読むAD-LIVE〜」が行われた。

鈴村のことを少しでも知っていれば、このタイトルにピンと来た人は多いだろう。「AD-LIVE(読み:アドリブ)」とは、鈴村が総合プロデューサーを務める即興舞台劇で、大まかな世界観と、舞台上で起こるいくつかの出来事が決められているだけで、出演者のキャラクターも、セリフも、全てアドリブという公演。その要素と朗読劇がミックスされたのが、今回の「読むAD-LIVE」だ。

フジテレビュー!!では、公演を終えた鈴村にインタビューを行い、上演までの経緯や、これからの「AD-LIVE」への想いなどを聞いた。エンターテインメント業界が困難な状況に陥る中でも、前を向くエネルギーを与える力強い言葉で話してくれた。

ポジティブな方向にシフトにした方が、人生は絶対に楽しくなる

――まずは今回の公演に出演が決まった経緯を教えてください。

最初は(今回の発起人で、脚本・演出家の)川尻(恵太)さんとZoom飲み会をしていたときにちょろっと今回の話をしていて。ただそのときは演劇をもう一回盛り上げるための無観客の有料配信にチャレンジしようと思って企画を考えている、という話だけで具体的なことはなかったんだけど、数日後、「鈴村さん出ません?」って話が来て。「そんなの出るに決まってるじゃん!」って、二つ返事でした(笑)。

ただやるって言ってから詳細を聞いてみたら、自分が具体的に何も知らなかったことに気づいて。返事はしたけど、僕が今できることって何だろうと、急に緊張したのを覚えています。

――やれることがあれば協力したい、という気持ちが先走ってしまったのでしょうか。

そうですね。今はもうやりたいことばかりなので(笑)。世の中的にはやっちゃいけないことばかりですけど、やっちゃいけないことを探して、それをしないように生きていくことって本当にしんどいじゃないですか。それならば僕は気持ちを切り替えて、やっちゃいけないことが当たり前になった結果、そこでやれることをちゃんとやる、というポジティブな方向にシフトにした方が、人生は絶対に楽しくなると思うんです。

そんな想いを持っているときに今回のお話が来たので、僕は救われたと思いました。自分がやるべきことに導いてくれた気がしましたね。

――準備期間はどのくらいでしたか?

2、3週間くらいかな。

――通常ではあり得ない短期間ですね。

それで他の出演者はどうしているんだろう?って思って聞いてみたら、わりと皆さん持ちネタを持っていらっしゃるということで。人によっては究極、稽古しなくてもできるぐらいのものがあるって聞いて、僕は持ちネタがないぞ、って焦るという(笑)。けど、その話から今、僕がやっていることから持ってこようというヒントがもらえました。

――それで「AD-LIVE」なんですね。

もともとは朗読劇をお願いします、という依頼だったんです。イメージとしてはスタンダードな朗読の形だったと思うんですけど。ただそこで僕が「AD-LIVE」という即興演劇をプロデュース企画として持っているので、それとリンクできないか、という提案をさせてもらって、今回の形に落ち着きました。

――なるほど。だから朗読劇の中に「AD-LIVE」の要素を取り込んでいるんですね。

そうなんです。単なる一人「AD-LIVE」でも良かったんですけど、せっかく朗読劇のご提案をいただいたので、そこは上手く使いたいな、と。

最初は「桃太郎」とかの誰でも知っているようなお話をベースに、そこに“アドリブワード”(※)を使う、まったくコントロールできない朗読がいいよね、という話をしていたんです。でも、せっかくやるなら自分の色に合わせた方がいいな、と思って。それで僕が最初に「AD-LIVE」をやったときの脚本をリライトしたものを使うことになりました。

※「アドリブワード」とは?
「AD-LIVE」では一般募集したキーワードをセリフとして使うことができる。ただし、それらはひとまとめにバッグに詰めこまれた状態となっているため、どんなキーワードが出るかは本人もわからない。また、一度引いたキーワードの引き直しはできず、必ずセリフに込み込まなければならない。

“時間の共有”が演劇なのかもしれない

1時間弱の公演では、前半はシンプルな朗読劇を、後半はベースの脚本はそのままに、そこへ「アドリブワード」を投入。鈴村は肩から下げたカバンから「アドリブワード」を取り出し、何が出て来るかわからない状況で物語が進むため、前半とは全く違った奇想天外な物語が編み出される。思わず演じる鈴村も笑ってしまうような展開にもなり、この日、この瞬間にしかできない物語が綴られた。

――そうやって作り上げた舞台に立ってみて、改めてどうでしたか? 無観客での本番という形も初めてだったかと思います。

正直、不思議な感覚はありました。いつもよりさらに緊張していた気もします。やっぱりお客さんの声援がどのくらい助けになっていたかを本当に強く感じました。その上で、それでも舞台をやる、ということに意味があるな、とも思いました。

お客さんがいないところでやるのは舞台じゃない、という考え方は存在しているとは思うんですけど、感じたのは、結局、生でやる意味って何だろう、というところで。やってみて確実にライブ感があったんです。

それは、そういう状況を整えてくださったスタッフや関係者の皆さんがいたからこそとは思うんですけど、今、この時間、この瞬間しか見られない(※)ってことが、すごく大きいことだって気づいて。やってみて“時間の共有”が演劇なのかもしれない、って思いました。実際に笑い声は聞こえないんですけど、これを聞いて、見ている人がいるんだって思うと、それはすごく元気をもらえました。

※「DISTANCE」は、全公演が生配信のみで、アーカイブは無し

――人がいないところで一通り演じるというと、通し稽古と一緒かと思うのですが、それとはまた別の気持ちがあるということですね。

本番は確実にライブ感がありました。伝える方法はデジタルになったけど、それを扱うのも、使うのも人間だなと思うんです。それがきちんとイメージできれば、コミュニケーションツールの一つとしてデジタルを使っているだけだって。だから心もつながるし、緊張もしたんだとも思います。本番が届いている、という意識を持って舞台に立つことができるというのが、僕の中で生まれました。それはとても良いことだったと思います。

――準備段階でもこれまでと同じようにはいかないことも多かったと思いますが、そこはどうでしたか?

それに関して言うと、今回は実はそんなに変わらなくて。一人での朗読劇だったので、会場に来てリハーサルをしたのも1回でしたし、いつもやっている「AD-LIVE」も稽古は1回しかやらないんですよ。役者さんの負担をできるだけ減らそう、というのがあって。その分、会議はすごくするんですけどね。夜中の3、4時までやるなんてこともあるし。

だから、稽古に関してはいつも通りの「AD-LIVE」だったんですけど、唯一違ったのが会議をZoomでやったことですね。ただこれは今後も採用すべきだと思いました。こういう状況だからとかではなくて、これだったらいつでも会議ができるじゃんって(笑)。

確かに顔を突き合わせないとダメな部分も間違いなくあるんですけど、いい部分は取り入れて。たった3週間で公演までできたのも、いつでも会議ができたからだと思うから、決して悪いことじゃないなって印象ですね。

エンターテインメントの火をこれからも消さないように

――新型コロナウイルスの感染拡大はエンターテインメント業界にもさまざまな影響を与えていますが、鈴村さん自身は今、どんな思いでいますか?

いろいろと難しいことがあるというのは感じますけど…。でも、こういう状況になってしまったことは仕方ないのないことで。

今、エンターテインメントはイメージとしては今までやってきたものの縮小版や、廉価版を見せる、という感じになっている気がするんですよ。これまでやってきたものをリモートでやるにはどうしたらいいか?という議論をしている気がするんですね。

けど僕は、そうではなくてリモートとか、無観客を逆手に取るようなやり方って確実にあると思うんです。そのやり方だからこそできること。そちらにシフトしていくべきだなって思っていますし、僕はそういうことをやりたい、と思っています。今しかできないことが生まれそうだなって思います。

実際、今回やった「AD-LIVE」朗読劇は、こういう機会がなかったら作らなかったと思うんです。それでやってみて、面白かったし、またやりたいなって思いました。台本とマイクとアドリブワードさえあれば、どこでもできるって考えると、ミニマムな「AD-LIVE」の形だったりするんですよね。

そう考えると今までの「AD-LIVE」の演劇もやりつつ、こういう「AD-LIVE」を使った別の遊びをもっと生み出せるかもって。そういうきっかけにもなりました。

今はピンチではありますけど、チャンスは確実にあるし、この先、もっと生まれてくる新たなコンテンツがいっぱいあるんだろうなって実感しました。

今回は事前に用意した「アドリブワード」を使いましたけど、お客さんと双方向でつながれるようになったら、その場でワードを出してもらうこともできるかもしれないし、オンラインはステージと客席を線引きしない空間が作れる可能性があるなって感じています。

――今年も「AD-LIVE 2020」の開催が予定されています。それも踏まえて、最後に読者へのメッセージをお願いします。

エンターテインメントというものが今までとは形を変えたものになると思います。たぶんここから数ヵ月ですごい勢いで進んでいくんじゃないかな。

今年の「AD-LIVE」は開催予定で、これまでの状態でできることを準備していますけど、違う形で見せなきゃいけない状況も出てくると思うんです。そうなったときでも「AD-LIVE」を楽しんでもらえるようなアイディアを僕らも一生懸命考えて進めています。

エンターテインメントはステージだったり、テレビだったり、ラジオ、映画、配信、いろんな形があると思うんですけど、究極、表現者とそれを受け取る人がいれば、それでエンターテインメントになると思うんです。ツールは関係ない。そこだけは信じたいなと思っています。

だからどんな形になっても「AD-LIVE」を皆さんに届けたいという気持ちはずっと持ち続けていようと思ってます。何かしらの形で皆さんに作ったものを届けることは模索し続けますので、気にしてくれればと思います。エンターテインメントの火をこれからも消さないように、その最中でできることをポジティブに表現し続けていきます。

<「AD-LIVE(アドリブ) 2020」 オフィシャルサイト>

<本多劇場グループ オフィシャルサイト>