安田顕と小池栄子が、お互いの役者としての好きなところ、ダメなところを語りあった。
スーパー“ウメヤ”で万年主任、家では典型的なマイホームパパ。そんな一見、平凡な男・伊澤春男の日々の空回りと、そこから起こる事件に立ち向かう春男や周囲の人物の姿を描く映画「私はいったい、何と闘っているのか」が、12月17日(金)に公開される。
芸人・つぶやきシローの原作を映画化した本作で、気を使いすぎるがゆえに脳内は常に戦場状態となっている主人公・春男を演じる安田と、そんな春男を立てながら支える妻・律子を演じる小池にインタビュー。二度目となる夫婦役での共演について、お互いを役者としてどう見ているのか、作品の内容にちなみ“憩いの場所”について聞いた。
<安田顕×小池栄子 インタビュー>
相思相愛の2人が二度目の夫婦役に!
──お2人は、今回が二度目の夫婦役ですが、共演すると聞いたときの心境をお聞かせください。
安田:ありがたや、ありがたやという感じでした。「よくぞ受けてくださった!」と。僕は人様のお芝居をとやかく言えませんが、以前共演したときにすごく演じやすかったですし、もう一度ご一緒できることがすごくうれしかったです。
小池:私もうれしかったです。前回共演したときに「もっと長く一緒にお芝居していたいな」と思っていたので。こんなに早く共演させていただけるとは。安田さんのことは信頼しているので、なんの不安もありませんでしたし、「私はただついて行けばいい」という感じで、撮影自体もすごく楽しかったです。
安田:ありがとうございます。
──現場では、安田さんがリードする感じだったのでしょうか?
小池:そうですね。何かわからないことがあって安田さんに聞くと、絶対に自分のお芝居の手助けになるような言葉をくださるんです。
安田:いや、リードしたことはないですし、何か聞かれたこともありませんでしたよ(笑)。小池さんは、素晴らしい役者さんです。
──「演じやすい(一緒にお芝居がしやすい)」と感じる具体的な部分をお聞かせください。
安田:僕は単純に小池さんの人間性が好きです。気さくだし、ユーモアのある方で。私のことを面白おかしく例えてくださることがあるのですが、もうそれが…涙が出るくらいすごく笑えるんですよね。同じことを小池さん以外の方に言われたら、きっと腹が立つと思うことなのに(笑)。
小池:ははは!そんな際どいことを言った覚えはないんですけど(笑)。
安田:「独房にいる土人形みたい!」って言われたことがあって…。
小池:ありましたね。
安田:言い得て妙だなと思って。涙で出るくらい笑っちゃったんですよ。そういう人柄が好きですね。
小池:私、口が悪いな(笑)。
──何か弁解はありますか?
小池:いや、これに関して弁解はないです!広い心で受け止めてくださっていたんですね。安田さんは、居心地のいい空気感を持たれているところがやりやすいです。(自分が)変な気を使って、待ち時間などに「よし!」とエンジンをかけて臨まないと時間が長く感じる現場がたまにあるんです。安田さんと一緒の現場はまったくそういうことはなく、しゃべらなくても分かり合えていると思わせてくれる懐の深さみたいなものを感じています。
現場でお互いの感情を“妄想”「安田さんを観察して過ごしているのが、すごく楽しかった(笑)」
──お芝居するうえで、お2人で相談することはありましたか?
安田:李(闘士男)監督を通じて演技のすり合わせはしましたが、ここ2人で何か話すということはなかったです。
それも信頼があってこそなのですが…前回ご一緒したときに、「涙を流す」と台本に書かれたシーンがあって。そのシーンのリハーサルをしたあとに、小池さんは「私、あそこじゃ泣けなかったんだよね」と言っていたんです。「(撮影の時間があるから)やりますけど、あのタイミングで泣けるかはわかりません」と言っているのを見たときに、小池さんのことを理解できた気がしていて。
そのときから、「今は、こう感じているだろうな」とわかるものがあって…まぁ、勝手に解釈しているので、ひょっとしたら全然違うことを思っているかもしれませんが(笑)。でも、僕にとってはそんなに気を使う必要もないし、会話がいらない方なんです。
小池:うれしいですね。私も実は、安田さんに関しては、現場で観察しながら勝手にいろいろと想像をしているんです(笑)。安田さんはご自身のお話をあまり自分からはされないので。「今こう思ってるのかな」「難しい顔してるけど、意外とお腹空いてるだけじゃないかな」とか。ストーリー立てて考えながら安田さんを観察して過ごすのが、すごく楽しかったです(笑)。
──そんなお2人が演じる夫婦を中心とした伊澤家は、とても幸せで居心地の良さそうな家族。お2人のその相性の良さも映像に反映されていそうですね。
安田:それはあるかもしれません。あと伊澤家のことで言うと、次女・香菜子役を演じた菊池(日菜子)さんは今回が初めての映画出演だったんです。監督の指導を受けて戸惑うことも多かったと思うのですが、そんなときに小池さんがさりげなくフォローをされていて、助かりました。
小池さんは、具体的に彼女のためになるアドバイスをされるし、現場のためになる気の使い方をされるからすごいんです。見習いたいけど僕は照れくさくてできない…。
──小池さんは、伊澤家のシーンの撮影で何か意識されていることはありましたか?
小池:どうでしょう…家族ものの作品なので、子どもが萎縮しちゃうのはよくないとは思っていました。だから、みんながのびのびやってもらえるようにというのは、意識していたかもしれません。
ただ、菊池さんはすごく真面目な子で「もっとお芝居を知りたい!」という気合いがすごかったんですよね。
安田:そうですね。
小池:私が「こうしてみるといいかも?」と言うとメモをとっていて。本当に不安だったんだと思うんです。彼女にも難しいシーンがありましたから。
自分も40歳をすぎると、菊池さんのような若い子がかわいくてしょうがなくなるんですよね。だから、私自身が先輩にしてもらったことを、彼女たちにもつなげたいという思いがあって、いろいろとお話はしていました。彼女にとって、何か心に残ることが言えていたらいいな、と思っています。
安田顕の「『カンブリア宮殿』の小池さんは面白い!」の指摘に小池栄子は…
──お互いが演じた役の魅力はどう感じていますか?
小池:春男さんは、愛らしいです。一生懸命、こんなにも誠実に生きている人って、なかなかいないですから。普通は、どこかでずる賢くなったり、ラクしたりするじゃないですか。春男さんのように「一生懸命」とか「情けない背中を見せる」って、私の“好き”の塊ですね。
私がプロレスラーを好きなのは、まさにそういうことなんです。ボロボロになっても、年をとってみんなに「そんなんじゃ戦えないじゃん」「色物じゃん」と言われても、その姿を見せていることが好きで。春男さんにもそういう部分があって、「こういう人がパートナーなら、一緒にいたい」と自然と思いました。
安田:律子さんは、人間的に尊敬できる方。彼女がいることで、春男は日々のささやかな幸せがどこにあるのか、ということを見つけることができるし…細かいことは映画で見ていただきたいですが、すごくステキな女性です。
──夫婦役を演じる中で、お互いに役者として「いいな」と思うことはありましたか?
小池:安田さんは、一緒にお芝居をしていると心が躍ります。「人間ってこんなにも感情豊かなんだ」「もっと自由でいいんだ」と思えるんですよね。経験を重ねれば重ねるほど、「こういうときは、こういうお芝居」と決めてしまいがちな自分がいるんですけど、安田さんとお芝居をしていると、もっと無限にお芝居の正解がある気がしてくるんです。
安田:そんなふうに言いますけど、小池さんは心のどこかで、「ここはこういう体(てい)の私を演じればいいのね」っていう“遊び”を持っている気がするんですよね(笑)。
小池:そうですか?
安田:そう思いながら、ちゃんとベースが出来上がっていらっしゃるから、“遊び”を入れたときに、すごく面白いんです。
小池:私のことをちゃんと見てくださっていて、うれしいです。でもなんか…罰が当たりそう!さっきからずっと褒め合ってるから(笑)。
安田:そうですね(笑)。
──では、ダメなところもお聞かせください(笑)。
安田:僕は、小池さんの“傍から見るとダメだと思われるかもしれないところ”がすごく好きです。
小池:私のダメなところって、どこですか?
安田:ユーモアに溢れているというか…知れば知るほど、『カンブリア宮殿』(テレビ東京)でMCをしている姿はめちゃめちゃ面白く見えてくるんですよね。
小池:それ、仲の良い人にも言われます!私、『カンブリア宮殿』の自分は、自分でも面白いです。「は?」って思う(笑)。ちょっと気張っていて、自然っぽく振舞っている感じがあって、そんな自分をバカにしちゃうというか。
安田:そう!自分を自分でパロディ化してる感じ!あの小池さんは面白い。
小池:そういう私を楽しんでくれる人は、信頼できます!
安田:ははは!
十数年のバー通いが1本のCMにつながった!?
──劇中で春男は、何かあると「おかわり」という店でこっそりカレーを食べて帰るというシーンがあります。このとき、律子はどのような気持ちなのでしょうか?
小池:劇中で律子は「また食べてきた。もう、教えてよ」と言ってますけど、私は、そういう憩いの場があるということに安心していると思います。
家に帰ったら子どもがいて、やらなきゃいけないことがあって、でも会社では大変な立場にいて。そんなときに、1人で時間をつぶせる場所を守ってあげられることが、私はうれしいなと思いながら演じていました。
実生活でも、そういう場所は大事だと思いますし。「どこにいんの?」「誰と飲んでるの?」ってガミガミ言われるのは、私も嫌ですもん。自分の秘密基地は、いくつになっても欲しいですよね。
安田:そうですね。春男としては、申し訳ないなと後ろめたい気持ちもあるけど、勝手に体が向くんでしょうね。僕も行きつけのバーがあったら行っちゃいます。
小池:フラッと一杯っていうのが、今なかなか行けなくてつらいですね。
安田:つらい!
──お2人にも、春男にとっての「おかわり」のような場所がありそうですね。
小池:あります。私の行きつけは犬も入れるお店なので、「ちょっと散歩行ってくるね」と言ってフラッと。夫に「2時間半も散歩してきたの?」と言われることもありますけど、明らかにお酒のにおいをさせながら「ちょっと道端で人に会って」と言い訳して(笑)。やっぱり1人になりたい時間もありますから。
安田:僕も「散歩行ってくるね」と言って川沿いに散歩に行って…。
小池:一緒だ(笑)。
安田:帰り道によく行くお店があるんです。「歩いてきたし、ちょっとぐらい、いいだろう」と寄ることが多いのですが…ちょっとなんてわけにはいかない。限られた時間でどれだけ飲めるかっていう戦いになっちゃうんです(笑)。
小池:ピッチが速くなっちゃうんだ(笑)。
安田:そうなんです。「何時までに帰ろう」と決めて、「マスターに○時になったら言ってくださいね」って頼んでおきながら、時間になったら自分で時計の針を戻しちゃうし(笑)。これを十何年、繰り返しているバーがありました。
小池:でも、そういうバーで知り合う人って大事だったりしますよね。
安田:そうなんです!僕、バーでの出会いがCMに結びついたことがあるんです。
小池:えー!
安田:奥さんに「(CMを)撮ってきたよ」って現場でいただいた花束を渡したら、涙ぐんで「良かった…元とったね!」って(笑)。
小池:(爆笑)。涙流すってすごい。奥さまもいろいろな思いがあったんでしょうけど、「行くな」って言わなくてよかったですよね。ステキなお話!
安田:十何年のバー通いが報われました(笑)。
──最後に、映画を楽しみにしている方へ、メッセージをお願いします。
安田:「主役はあなた」という言葉があるけど、それに気づけることは大事なことです。生まれたからには自分中心で考えるのは仕方がない。誰がなんと言おうと、あなたの人生はあなたが主役なんです。
朝起きてから夜寝るまでが積み重なっていく中で、他人の芝生は青く見えるかもしれないけど、自分の送る日常が見方によって、実はドラマチックなことが起きていると気づかせてくれる作品になっていると思います。
見終わったあと、3時間ぐらいしたらこの作品のことは忘れちゃうと思うんですよ。「人生とはなんだ」って考えながら眠りにつくような映画ではない。パッと軽く見て、ほんわか優しい気持ちになって、日常にふと「この感覚ってなんだろう?」という瞬間があったときに思い出すような映画です。とにかく優しい気持ちになっていただけたら。
小池:たしかに、この映画は3時間くらいしたら皆さん忘れちゃうかもしれないけど…2時間、3時間の公演を生で見る舞台でも思い出すシーンってそんな数多くないんですよ。泣いた、笑った。それだけでいいんです。映画の中にどこか心がフワッとなる瞬間があるといいなと思います。
撮影:今井裕治
ヘアメイク:西岡達也(Leinwand/安田顕)、山口公一(SLANG/小池栄子)
スタイリスト:村留利弘(Yolken/安田顕)、えなみ眞理子(小池栄子)
映画「私はいったい、何と闘っているのか」は12月17日(金)より、全国公開。
©2021 つぶやきシロ ・ホリプロ・小学館/闘う製作委員会
配給:配給:日活・東京テアトル
最新情報は、映画「私はいったい、何と闘っているのか」公式サイトまで。