“調剤の魔術師”荒神さん(でんでん)には末期がんの奥さまがいて、その最期を看取る…。

って、これ絶対泣いちゃうやつじゃん!

荒神さんは、でんでんさんがあまりに愛おしく演じてて、最高にピッタリなキャラクター。そしてそれは個性豊かなスタッフの中にいるただの賑やかし要員で、たまの癒しになる存在なだけ…だって“魔術師”って言っときながら単なる手品好きじゃん!

ってそんな風に軽く思ってた…。それなのに、実はプライベートでは奥さまが末期がんで、つい最近在宅の治療に切り替え、看病していた。…ってこれ、あからさまに泣かせに来てる…だけどその“あからさま”にこっちも乗ってやろうじゃないか。

だって荒神さんだもん!って、もう先週の予告段階から半泣きで、今回の視聴前ではかなりの覚悟を持って臨んだ…はず…だったんだけど、荒神さんが“手品”をはじめたきっかけの微笑ましさや、それが残る思い出の“VHS”に映る夫婦の姿、家でも美味しそうなコーヒーを淹れてくれる様子(サイフォンコーヒーだし)…に、泣けるというより温かい気持ちに。

だけどそんな中で、奥さまが苦しんでいく様子も克明に描かれ、“最期”と決意したその瞬間、いつでも明るく朗らかだった荒神さんが狼狽しちゃって、なんて辛い…泣くとかじゃねぇ、辛い…。

またそれに追い打ちをかけるかのように、やっぱり最期は思い出のマジックを見せてあげるんだ!って奮い立って、結婚記念日当日、お披露目しようとした途端、とんでもなく寸前のとこで、急変…なんて残酷な展開…。こっから急ピッチで悲しみの涙展開になるんだ…容赦ない話…まさか辛い展開で泣かせに来るとはね…奥さまに思い出の手品披露で最期を迎える…っていうベタで泣かせると思ってたよ…それがあざとかろうがなんだろうがこっちは泣く気満々だし、いつでもいらっしゃい!状態の準備万端だった…はず…なのに。

まさかまさか、笑顔でお別れフィニッシュ!!

なんて素敵!!そうそう、このドラマって泣かせる場面も敢えて淡々と描写して、そうは持ってかない、そういうのないから好感度高かったんじゃん!自分これまで何見てきたんだよ、信用しろよ!そんな簡単に泣かせてくれるわけないじゃん…って納得&油断して突入してったいつものエンドロール。

…あ、今回は“未来”じゃなくて、荒神さんと奥さまの仲睦まじい“過去”の回想か…このスタイルもいいなぁ…荒神さんの結婚記念マジック、毎年細かくていい夫過ぎる…で、やっぱりなんて美味しそうなコーヒー淹れるんだろ…素敵だな…奥さまとベッドで乾杯か…ああ、なんて幸せそうなの…(オーバーラップ)…(現在)…奥さまの遺影とコーヒーで乾杯………。

オロロロロロローーー(涙)。

卑怯!!
卑怯かッ!!

先週の予告から散々身構えさせて、うんそら違うよねって思わせて、予想外の泣きなしの笑顔フィニッシュで、なんて良心的なドラマ…ってホッとさせとく、涙ひっこませといて、エンドロールで結局泣かすって、卑怯か!!ドラマ内じゃなくエンドロールで泣いちゃうのはお客様の責任ですってか!卑怯か!!

っというわけで今回も裏をつかれ、手のひらで転がされまくりの僕でしたが、それがその裏をつく展開ばかりに苦心した話じゃなく、ちゃんとさまざまな要素を丁寧に重ねていくのがこのドラマの“らしさ”ですよね。

荒神さんの奥さまが末期がんで在宅で治療…っていうここへ来て唐突にも思えるお話をなぜここでやったのか?それは、いまだ謎だった荒神さんの存在意義…。

ただ手品やって場を和ますだけの人じゃないんだよっていうのを、さりげなく解消するってとこから始まって、主人公・葵(石原さとみ)が体現してきた薬剤師としての働きの行き着く場所が、患者さんを24時間対応で向き合う=“最期まで診る”在宅医療にある、葵のいつもの“おせっかい”が在宅医療では当然の働きになるっていう、なんてうまい絡め方。

だから今回、葵が業務終了後だってのに介護用品をわざわざ荒神さん家へ届けに行ったり、人形を差し出したり、ご飯作ってあげたり…っていつもなら、葵、今日も張り切ってんなーって思っちゃう場面が、在宅医療の前では自然、葵のいつもの“おせっかい”がその中では同化しちゃってましたもんね。

いつもは“異質”になることがその場所では“当然”になる…っていう見せ方をすることで、さらに在宅医療の大変さを浮き彫りにしていく…っていうね。ここもうまい。

またもっとさりげなくうまいのが、ここへ来て急に、こっちのスタッフもてんてこ舞いだってのに、なぜか“在宅医療の応援へ送り込まれる”という今回のエピソードの突然過ぎる発端も、連ドラだからそういう回もあります…みたいに無視せず、販田部長(真矢ミキ)は葵が在宅医療に関心があることに気付いてて、しかも荒神さんのサポートを葵に託したい…力添えしたい…っていう企みがちゃんとあるという、そこにもちゃんと物語を用意してるんですよね。

でもって、荒神夫婦のように、より献身的に思いを尽くしたいという“家族のあり方”と対比するかのように、家族だからこそ無自覚に悪気なく油断してしまうアレルギー性鼻炎のお父さん(田中幸太朗)も並行して描くという美技。

それがまた自分の子どもなのに、ハウスダストっていう症状が粗方わかってるとはいえ、受診もさせないで自分の薬飲ませる?おかしくね?ひどくね?なんなの?ってちょっと怒ってたけど、僕、思い出しちゃいましたよ。そういえば昔、親から症状同じだからって薬もらって飲んだ記憶あるわー。ってことは全然ありえなくない。家族だからって、そのへんの油断あるよね。

だけどドラマであんな風に描かれるとすっごくおかしく見えちゃうし、腹立って映るんだ…って、ちょっと自分、反省しちゃいました。そして改めて薬剤師さんの大切さを知る…。

そしてそのエピソードでは、葵イズムを継承しつつある相原ちゃん(西野七瀬)の成長過程をさらに描き、ダメ押しで前回に引き続き、瀬野(田中圭)のやたらイケメン風吹かす感じ、ツンデレの“デレ”パート増し増しの無双状態をみせておいて、ラスト、吐血。ってどんだけ繋げんのよ。

ってことで瀬野ですよ。前回の不穏もあり、あの予告映像も見ちゃってるもんだから、今回の“デレ”部分が全部嫌な予感しかしなくてハラハラしましたね。で、わかっちゃいるけどラストの吐血はあまりにも衝撃的。最終回へ向けて、ラストエピソードの舵がグンと切られたようです。

次回以降はさらに覚悟しながら…とか言いながらその覚悟は絶対裏切ってくるので、どう裏切ってくれるのか。楽しみに待ちたいと思います!

text by 大石 庸平 (テレビ視聴しつ 室長)