45年前に作家・筒井康隆が世に送り出し、ミリオンセラーとなった「富豪刑事」。アニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』は、筒井氏の原作をもとにオリジナルキャラクター&ストーリーで制作された。

今年7月から、フジテレビ<ノイタミナ>枠で放送され、スタイリッシュな映像と、警視庁「現代犯罪対策本部準備室」(通称・現対本部)を舞台に繰り広げられる主人公・神戸大助と、バディを組む加藤春の、かみ合っていないようでかみ合っている捜査ぶりが話題になった。

そんな作品を舞台化した「富豪刑事 Balance:UNLIMITED The STAGE」で、加藤春に扮する菊池修司。多くの2.5次元作品で活躍する彼が注目作にどんな思いで臨むのか、インタビューした。

財力ですべてを解決しようとする大助と、正義を貫いて戦おうとする加藤のアンバランスさが魅力

――初の舞台化ということで、初演メンバーとしての心境を聞かせてください。

ちょうど「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」を放送している今、稽古の真っ最中で、すぐに本番に挑める贅沢な環境の中、加藤春という重要な役をやらせていただけることがうれしいです。こういう世の中だからこそ「エンタメが必要なんだ」ということ、この作品を通してエンタメの魅力をお届けできたらという気持ちです。

――プレッシャーはありませんか?

プレッシャーというより、どの作品でもそうなんですが、原作やもともとのキャラクターがあるうえで演じなければいけないので、大事に役をつくり上げていかなきゃという責任。そして、愛してくださっている皆さんの期待を裏切らないように演じなければ、という思いで臨んでいます。

――「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」の魅力はどんなところだと思いますか?

見ていて気持ちがいいですよね。ちょっと偏見かもしれませんが(笑)、お金持ちの方ってなんとなくそこをひけらかしてる感じがするじゃないですか。でも、神戸大助はその度を超えちゃってるので、爽快さすら感じるんですよ。僕はゾンビが出てくる作品が好きなんですけど、ゾンビが倒された時のスカッとする心境に通じるものがある(笑)。そこが魅力だと思います。

――大助の「お金で何でも解決してしまう潔さ」がいいんですよね。

そうなんです。財力で解決する大助と、正義を貫いて全うに戦おうとする加藤のアンバランスさが、逆にバランスがいいというか。デコボコだけど意気投合している2人の空気感を、舞台上でうまく表現できたらと考えています。

――“富豪”ならではの、浮世離れしたゴージャスな世界観にも期待が集まります。

劇場自体も、品川プリンスホテルのクラブeXという素敵な場所で、演出の西田大輔さんがその持ち味を最大限に活かした演出をされ、お客さんも事件現場に居合わせてしまったような感覚に陥れる世界観になっているので、そこも見どころの一つですね。

加藤を演じるうえで、「引くこと」だけは絶対にしてはいけないと意識しています

――加藤は「世の中、金じゃねぇ」と発言していましたが、菊池さん自身が世の中でもっとも大事だと思うのは何だと思いますか?

幸せにもいろんな形があると思うんですよ。お金を持っているからって幸せではない方もいるかもしれませんし、お金がなくても幸せという人もいる。定義はないと思うので、その人自身が幸せと感じているなら、幸せなんじゃないでしょうか。

お金があれば何でも買えちゃいますけど、人の心だけは買えない。心を大事に生きていたら、きっとこの先、いい人生が待っているんじゃないかと。自分の仕事やプライベートで携わってくださる方や応援してくださるファンの方、皆さんの心を大事にしながら自分の心も大事にして、毎日を謳歌していきたいです。

――アニメ版では加藤の声を宮野真守さんが演じていますが、アニメの加藤からとり入れたい要素はありますか?

声優さんが声だけですべてを表現しなきゃいけないことに比べて、僕たちは体を動かすことができ、表情で表現することができるなど、自由度が広がる。宮野さんがつくられた加藤を僕なりに分解して、正義感あふれるまっすぐな魂をしっかりと受け継いでいきたいです。

――加藤を演じるうえでポイントとなるのはどんな部分でしょう?

引くことだけは絶対にしちゃいけないと考えています。稽古で意識しているのは、「前に」ということ。少しでも引いてしまったら加藤ではなくなると思うので、大助にどれだけ振り回されようが、落ち着かないように心掛けています。

――見どころはなんといっても、大助と加藤の掛け合いですね。

稽古終わりに大助役の(糸川)耀士郎くんと「ここをもっとこうしたら2人のアンバランスさが際立つよね」など話していて、役者としてもいいバディになれる予感がしています。大助と加藤のポイントは、とにかくデコボコなことという共通認識なので、そこをしっかりと表現するために話し合いを重ねています。

――ちなみに、役を離れた2人の関係性は?

出会ってから4年くらい経つので信頼関係はできていますが、人間、十人十色といいますか、それぞれ違いますので、100%気持ちが一緒かといったら、そうでない部分もあります。でも、そこをお互い理解しているので、バディを組むにあたっての心配は何もありません。

――アニメの第1話で、大助がいきなり10億円で車を買い取っていました。もし、手元に10億円があったら、何に使いますか?

とりあえず、家を買って、車を買って、それでもまだまだ余ってると思うので、島を買って余生を過ごしたいです。あとは、家族や友達にやれることをしてあげて、ですかね。想像するだけで夢がふくらみますよね。

――また、アニメではAI執事のヒュスクが登場します。もし、自分のそばにヒュスクがいたとしたら、どんなことをしてほしいですか?

まずは家族や友達、後輩など、身近な人たちの手助けをしてあげられるようにしたいです。実は……、僕の家にヒュスクがあるんですよ。「OK!Google」っていうんですけど(笑)。電気やテレビ、エアコンのスイッチを入れたり、消したりしてくれるので、これ以上ヒュスクはいらないのかも。今は「OK!Google」を愛でながら、大事にしています。

1人でも演劇のことを思ってくださる方がいる限り、僕らがやれることをやり続けたい

――コロナ禍で演劇だけでなく、すべてのエンタメが一時ストップしてしまいました。久しぶりに舞台に立つ心境を聞かせてください。

自粛期間、エンタメの優先順位はあまり高くないという意見も多く聞きましたが、演劇界で働いている人もいますし、それを糧に仕事を頑張ってる人もいます。そんなふうに、演劇のことを思ってくださる方が1人でもいる限りは、僕らがやれることをやり続けたい。

以前のような演劇界に戻るのはもうちょっと時間がかかるかもしれませんが、そんな中でもスタッフさんや役者たちはより良い作品をつくろうと努力し、お客さんも観たいと思ってくださる。これまでと変わらず、いや、それ以上に演劇界を盛り上げていきたいという思いが強くなりました。

――ステイホーム期間はどんなふうに過ごしていましたか?

1人でいると口を動かしたり、声を出したりすることがなく、とにかく人としゃべりたかったので、友達や後輩とよく電話をしていました。他にはテレビを見たり、YouTubeを見たり、知り合いが出ている映像などを見て、気を紛らわせていました。

――そんな中での癒やしは…

子どもの頃からゲームが好きで、ゲームをしている時は無心になれるので、あっという間に夜中の1時とかになっていました。一番の癒やしはそれだったかもしれません。

最近はDIYにハマっていて、テーブルの色を変えたり、ベッドライトを作ったりしています。我ながらいいものができたと感心するぐらい、自慢のモノができました。

――どんなものなのか気になります。

Twitterにも画像をアップしたんですが、あまりの完成度の高さに即、マネージャーさんにも画像を送信しました。これと思うベッドライトが見つからなくて、それなら自分が納得するものを作ってみようと思い立ったところから始めたんですよ。結果、満足いくものができましたし、一つ一つの工程を経て、完成していく流れが楽しかったです。

僕の眼福は甘いもの。パンケーキが大好きです

――菊池さんにとって眼福な存在は何ですか?

甘いものです。僕はパンケーキが大好きで、1人でも食べに行っちゃうんですよ。稽古の休憩中に近くのお店を検索して、パンケーキの写真や店の雰囲気を見て決めるという。

浅草に評判のお店があって、そこはまだ行ったことがないので、行ってみたいんですよね。好きなのはフワフワ系で、お店でいうとFLIPPER’Sやgramのプレミアムパンケーキが好きです。いつ行ってもおいしいんですよね。

――スイーツ男子なんですね。俳優としての今後の展望を聞かせてください。

今は、2.5作品に多く出演させていただいていますが、お芝居自体が大好きなので、重めの作品をいつかやってみたいです。本編が終わって、終演のアナウンスが流れても、席を立てなくなるような重いテーマの作品。技量がないとそういう作品を演じきれないと思うので、少しずつでも確かな力を身につけていきたいです。

――公演を楽しみに待っている皆さんへ、メッセージをお願いします。

「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」は、大助と加藤の掛け合いや会話のデコボコさがクセになる作品で、どんな事件が起きようが、大金をポンッと出してしまう大助の潔さも魅力。

終了したばかりのアニメとストーリーが連動しているので、アニメを見ていた方にも楽しんでいただける展開になっていると思います。

また、加藤の過去に関するエピソードも出てくるので、そんな部分にも期待してください。劇場でお待ちしています。

公式サイト ©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥 

©神戸財閥ステージプロジェクト

撮影:河井彩美