昨年、ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(TBS)で胸キュン旋風を巻き起こし、今秋からスタートする連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)では、ヒロインに抜擢。さらに、歌手、声優、ナレーター、バラエティ番組のMCと、幅広く活躍する上白石萌音。

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9月25日(土)には、初の書き下ろしエッセイ集「いろいろ」(NHK出版)を上梓する。エッセイ50篇のほか、故郷・鹿児島への小旅行ルポ、書き下ろしの短篇小説も収録した意欲作だ。

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本と読書が大好きな彼女らしい、こだわりがギュッと詰まった1冊の刊行が迫る上白石に、初エッセイ集への思いや執筆時の苦労などについて聞いた。

<上白石萌音 インタビュー>

「心がちゃんと動かないと形にならないというのは、お芝居や歌と一緒だな」

──先ほど、印刷工場へ出向き「いろいろ」のカバーの色調を確認したり、ページが印刷されたりする様子を見学したそうですが、いかがでしたか?

めちゃくちゃ幸せな空間でした。これだけ真新しい紙に囲まれる経験もなかったですし、こんなに大きいサイズ(と、刷り出しを見ながら)で印刷されてくるなんて想像もしていなかったですし、自分が一字一句考えて書いた文章がどんどこ刷られてくるのにもすごく感動しました。「がんばってよかったな」と思いました。

──それにしても、初エッセイ集で書き下ろしを50篇というのは、かなり大変ではなかったですか?

「これは、無理かもしれない…」と、途中で何度も思いました(笑)。

──執筆期間は、余暇のほとんどを執筆に費やし、常に本のことが頭にあったそうですが、筆がよく進んだときや、逆にスランプの時期などはありましたか?

すごく波がありました。1日3篇くらいできた日もあれば、1ヵ月何も書けないときもあったりして。

時間がないときでも、なんとか書いてみようとパソコンを開けて書き始めるんですけど、何が言いたいのかわからないものができちゃったり(苦笑)。

やっぱり、「書かなきゃ」ではなく、「書きたい」と思って書かないと書けないものなんだなぁ、と。その証拠に、衝撃的なできごとやうれしいことがあったらワーッと書けましたから。心がちゃんと動かないと形にならないというのはお芝居や歌と一緒だなと思いました。

──1篇、1篇コンパクトながら、とても読み応えがある文章に驚かされました。あの長さにまとめるのは難しかったのでは?

だいたい1篇800~1000文字を目安に書き始めて、実際は、それより短くなったり、長くなったりもしたんですけど、振り返ってみるといちばん難しい尺だったなって(笑)。短い中でも「起承転結をつけないといけない」とか「しっかり落として終わりたい」とか、そういう思いがありました。

最初はやっぱりムダが多く、そぎ落として、そぎ落としてという作業を繰り返しました。書いては編集者さんに送って、赤(修正)が入ったものが返ってきて、というラリーを何度かするのですけど、そこから学ぶことが多かったです。

──書きながらブラッシュアップされていく実感がありましたか?

確かに、前半に書いた文章と後半に書いた文章では、“力み方”が全然違うように思います。後半の方が柔らかいトーンで書けているかな、って。とはいえ、(掲載は)時系列ではなく、シャッフルされているので、読者の方にはわからないと思いますが。

「せっかく場をいただいたので、明るいだけ、楽しいだけではないものにしたいなと思った」

──書くにあたり、担当編集の方から「ありのままを記録してみて」という言葉があったそうですが、50篇のエッセイの中で、もっともご自身を“明かした”と感じたエピソードといえば?

う~ん(と少し考えて)、“誹謗中傷”のようなことについて書いたものがひとつあって、あれは、書いてからも掲載するかどうか、すごく悩みました。(テーマとしては)ずっと思っていたことですけど、いざ言葉にするとなるとすごく勇気がいることでした。

執筆当時、コロナ禍で時間に余裕があったこともあって、いっぱいいっぱい考えて、ああいうピリッとしたものも必要かな、って。あのときは、本当に心の底から「くそぉ!」なんて思って書きました(笑)。実はあれ、初稿ではもっと尖っていて、自分でも「ヤバい、ヤバい」って(笑)。そこから、マイルドにしたつもりではありますけど、今まで、あまり言ってこなかったことを書いたな、とは思っています。

──「上白石さんでもこんなふうに思うことがあるんだ」と、身近に感じた気がしました。

せっかく場をいただいたので、明るいだけ、楽しいだけではないものにしたいなと思って。自分が持ちうる限りの感情の種類を書き残せたらなと思いました。

──タイトルの「いろいろ」には、仕事をするうえで“求められる色”に染まることを大事にしてきた上白石さんの気持ちも込められていますが、本来の自分は何色だと思いますか?

…ベージュ?オーソドックスな(笑)。

──白ではなくて、ちょっと色は入ってるんですね。

普段の私は、真っ白ではないと思っています。“ピュアピュア”ではなく、しっかり濁りはありますので。表現をする上では、ベースは白でありたいと思っていますが、生きてきた中でちゃんとくすみもあります。日にも焼けますし、その分の“肌の色”です(笑)。

──自然な色ですね。

そうですね、自然な色は好きですね。無理していない感じ、無難な感じがすごく好きだし、安心感を覚えます。

──本作には短篇小説も収録されていますが、こちらも素敵でした。

がんばりました(笑)。

──以前から小説を書いてみたいという気持ちはあったのでしょうか? 

一切なかったです。絶対向いていませんので。私、計画性がなくて…。小学生くらいのとき、ノートにお話を作っていた時期があったのですが、ひとつとして完結してないんです。

書き初めはすごく楽しいんですけど、途中から「あれ、これダメじゃない?」と終わっちゃったものばかりで(苦笑)。

──今回は見事に完結していますが、小説を書いてみていかがでしたか?

いやぁ~、作家さんってすごいですね。私には無理です。思いついたのは、(書いた)ひとつだけでしたし、あれ以上はもう思いつきません。

──いつかまた構想が浮かぶかもしれません。

職業柄、すばらしい物語に触れる機会が多いので「何も自分で書かなくても…」と思ってしまうところもあります。でも、もしかして親になったら…。寝る前にお話を作ってあげたりするじゃないですか。そうなったら、ちょっと興味が向くかもしれないですね。何十年かあとに(笑)。

──読書好きの上白石さんが最近読んで面白かった、お気に入りの本はありますか?

今読んでいるのは、「酒ともやしと横になる私」(スズキナオ著/シカク出版)というエッセイ集です。これくらいのちっちゃい本なんです(と、両手で輪っかを作るような仕草で)。

──ちっちゃいですね!

はい。でも、むちゃくちゃ面白くて。渋谷に好きな本屋さんがあって、そこで買いました。帯にも書いてあるので言っちゃうんですけど、日常のくだらないことをボヤきながら書いていて。でも、それがふとした拍子に社会の仕組みをズバッと言い当てるような真理に至ったり…。

──油断していたら「わっ!」みたいな?

そうです!すっごく面白くって。プッと吹き出しちゃうし、考えさせられるし、どんどん先が読みたくなるのだけど、終わりたくないからすごくゆっくり読んでいます。

──気になりすぎて、先の方をチラッと読んで、「ダメダメ!」って思いながら元に戻ってまたゆっくり読む、みたいな。

そうなんです。私は、さくらももこさんが大好きなのですけど、その“気”を感じます。さくらさんの男性バージョンみたいなエッセイです。ポッケに入るサイズで気軽に持ち歩けますし、お気に入りです。

「愛をたくさんもらって生きてきたんだ、ということがわかって、感謝の思いが強まりました」

──エッセイ執筆中はドラマの撮影で関西に滞在されていたそうですが、関西での暮らしで気に入ったこと、休日に楽しんでいたことはありますか?

ご時世的なこともあってほとんど閉じこもっていたので、あんまり…。でも、関西の文化なのですかね。鶏卵屋さんによく行ってました。“卵を卵屋さんで買う”ということがすごく楽しくて。

市場の近くに住んでいたので、肉は肉屋さん、魚は魚屋さんで買うのが新鮮で。市場に寄って食材を買って帰ってパッと作る、みたいなことが楽しかったですし、地のものを使っていることもうれしかった。食を楽しみに生きていました。

途中、ちょっと減量モードに入って、豆腐ばっかり食べてた時期もあったんですけど(笑)。こんな時期じゃなかったらいっぱい出かけられただろうし、行きたいところもいっぱいあったんですけど、でも逆に、こういう時期だったからこそ日常の暮らしを大事にできたなと思います。観光客じゃなくて、本当に“暮らした”という思い出ができました。

──そんな日常の中で書かれた「いろいろ」のあとがきには、初めて本を執筆して「自分が思っていたよりも面倒くさい人間である」「本を編むのは大変な作業だということ」がわかった、とありました。そんな発見もあった本作はご自身にとってどんな1冊となりましたか?

すごく個人的な感想ですけど、「とってもいい記念をいただいたな」と思います。奇しくも今年は(デビュー)10周年で、こんな機会でもなかったら書かなかったこともたくさんあったでしょうし、大切な人もたくさん協力してくれましたし…。

今まで、私はこんなにいろいろなことを教えてもらい、愛をたくさんもらって生きてきたんだ、ということがわかって、感謝の思いがすごく強まりました。

上白石萌音「いろいろ」(NHK出版)
2021年9月25日発売
定価 1,980円(税込)

詳しくは、上白石萌音「いろいろ」特設ページまで。

取材・文:落合由希
撮影:YURIE PEPE