ウィリアム・ジェームズ・モリアーティとシャーロック・ホームズの華麗な戦いを描く“モリミュ”最新作、ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.3 -ホワイトチャペルの亡霊-が上演される。
原作の『憂国のモリアーティ』は、集英社「ジャンプSQ.」で2016年から連載されている、構成・竹内良輔氏、漫画・三好 輝氏による人気コミックで、上流階級の人間たちに支配され、差別が蔓延している19世紀末の大英帝国を舞台に、階級制度による悪を取り除き、理想の国を作ろうとするジェームズ・モリアーティと、シャーロック・ホームズの戦いを中心に描かれている。
そして、今回、モリミュ第3弾の上演が決定。初演から引き続き、シャーロック・ホームズを演じる平野良と、シャーロックの相棒として事件の捜査を手助けする元軍医、ジョン・H・ワトソン役の鎌苅健太に過去2作品の思い出、そして、新作への意気込みを聞いた。
緊急事態宣言解除後、一発目となったOp.2上演。観客の拍手に思わず涙が…
――約1年ぶりの上演となりますが、前2作品の思い出を聞かせてください。
平野:初演はシリーズの立ち上げで、しかも、ピアノとバイオリンの生演奏というこれまでにないミュージカルだったので、いろいろ熟考しましたね。
鎌苅:ウィリアム役の(鈴木)勝吾くんと、シャーロック・ホームズ役の良が引っ張ってくれて、そこにみんながついていったという感じ。食事に行っては、めっちゃ話し合ったね。
平野:何度も話し合って、同じ感覚にもっていかないと演じられないぐらい繊細で難しい作品ですから、他のどのカンパニーよりもディベートの多い作品だったかもしれません。
――具体的にどんなことを話し合ったんですか?
平野:作品の方向性や空気感、音楽性、どんな世界観でいくか…。
鎌苅:そこに良が最もこだわって、「芝居だけじゃなくミュージカルだから、ミュージカルとしてどう表現するか」と、アイデアをたくさん出してくれました。
平野:この作品はミステリーの要素もありますが、どちらかというとヒューマンドラマなので、人間をきちんと描かなければいけないと思ったんです。
一般市民の苦しみを、アンサンブルの皆さんがいかに表現するか。アンサンブルという言い方はしていますが、1人1人の役名はないにしても、どれだけ作り込むかはその人の自由ですよね。例えば、ブロードウェイでは演出家から「君の名前は何?年齢は?職業は?」と尋ねられたら全部答えられるぐらい、役作りをするのが普通なわけで。
酒場のガヤガヤしたシーンでも、ただ飲んでいるふりだけでは薄っぺらくなる。この人はどうしてここへ飲みに来たのか。そんな部分まで作り込んで苦しみを強く訴えるから、主人公のウィリアムは悪い貴族をやっつけて、いい世界にしようと暗躍する。その動機になる部分だから役付きだろうが役なしだろうが関係なく、とことん話し合いました。
鎌苅:良が「ここは君たちが主役で真ん中にいるわけだから」と説明したことが、強く印象に残っています。
平野:「アベンジャーズ」もそうですけど、民衆が苦しんでいなかったらヒーローなんていらないわけで、そこからちゃんと作りたいよねって。例えるなら…和食?
鎌苅:出汁は昆布でとろう、みたいな。
平野:「いや、あご出汁じゃないですか?」って(笑)、そこレベルから話し合いましたね。
鎌苅:Op.2は、緊急事態宣言解除後一発目の作品だったので、歓声が一切聞こえない中、拍手の音だけが鳴り響いて。あの音は一生忘れられないな。
平野:会場の50%しか観客を入れられないんだけど、拍手の量がいつもの倍ぐらいに聞こえてきて。お客さんもいつも以上に大きく拍手してくれていて、「一緒に表現していこう」みたいな一体感がありましたね。だって、まだ初日ですよ。オープニングの曲をバーンとやって拍手をもらって、(舞台)袖に行ったら(鎌苅が)涙ぐんでましたから。
鎌苅:俺だけじゃないよ。良だって…。
平野:あれはヤバかったですね。
良の真摯さや、時々壊れそうな瞬間がシャーロックと重なる(鎌苅)
ケンケンさんは陽キャと繊細さが魅力。振り幅がすごい(平野)
――シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトソンのコンビ性を出すために工夫していることはありますか?
鎌苅:僕が演じるジョンは、シャーロックのことを誰よりもすごいやつだと思っているけど、誰よりもダメな瞬間があることも知っている。シャーロックのカリスマ性も含めて、真摯さや、たまに壊れそうな瞬間とか、そのまんま平野良みたいなところがあるので、すごく投影しやすいんですよ。良は何事も突きつめる人だから、誰も見えていないところが見えていて、僕の中でシャーロックとすごく被るんです。
平野:演劇にはいろんな作り方があって、仲の良さを表現するために話し合ってそこを出すパターンもあるけれど、役としてお互いが自分の役になりきっていたら、きっと仲良くなるはずだから、アドリブだろうがエチュードだろうが、それはそれで成り立つものだと思っていて。だから、ラクですよね。ケンケン(鎌苅)さんがワーッとやったらこっちものっかるし、その逆も然りで。エチュード的要素で作ることが多いかな。
――お話を聞いているとお二人の相思相愛ぶりが伝わってくるのですが、お互いの好きなところを教えてください。
平野:陽キャで盛り上げ隊長なのに、ものすごく繊細な部分を持っているところはすごくいいと思います。振り幅がすごいから、繊細にお話できるときもあれば、「うわーっ」って楽しむときもある。そこが魅力ですね。
鎌苅:よくご存じで(笑)。良のよさは、自分の発言にきちんと責任をもつところ。思慮深く、僕とは違う視点をもっている。こっちが悔しいと感じる瞬間を出してくれる人は、同世代の役者でもそんなにいるわけではないんです。
かといって、放っておけない、壊れちゃいそうな面ももっている。これだけ芝居に関してストイックなくせに、アホみたいなことばかり言うし。オンとオフがはっきりしているから、皆が彼の背中をみて行動する。有言実行する姿はカッコいいと思います。
平野:屁が出そうです(笑)。
鎌苅:なんで!?さっき2人でトイレへ行って用を足した後に、同じタイミングでオナラしたじゃん。
平野:ビックリしましたよ、まさかの放屁かぶり(笑)。
鎌苅:こういうところも息が合ってるのかな(笑)。
平野&鎌苅の理想の国、そして、現在、憂いていることは…
――ウィリアム・ジェームズ・モリアーティは理想の国をつくろうと奮闘しますが、お二人にとって理想の国はどんなところですか?
平野:理想って難しいですよね。国もそうだけど、人生もそうじゃないですか。「将来は〇〇になりたい」と思い描いていたのに、年齢や経験によって別の理想ができる。かつて、「〇年後は車が空を飛んでいるだろう」と言われていたのに、実際にはまだ飛んでいない。だけど、高速道路が発展したことで、移動時間は短くなっている。形は違えど、理想は進化していきますよね。
鎌苅:ちょっと哲学的な話になってしまうけど、例えば理想に到達したとするじゃない?到達したことで満足する。イコール、面白みはなくなってしまうけど、理想には行ってるわけでしょ?複雑だよね。
平野:例えば、世界幸福度数というものがあって、フィンランドがずば抜けて上位なんだけど、フィンランド人が全員お金持ちで幸せ、というわけではないじゃないですか。禅問答になっちゃいますけど、「幸せってなんだろう?」から考えないといけない。
鎌苅:その次元に行かないと見えないことがあって、そっちへ行ったらもしかして「うわ、あっちのほうが楽しかった」って感じるかもしれない。理想って難しいね。
平野:「終わりを迎えるのならば出会わなきゃよかった」っていう恋愛もあるじゃないですか。でも、人生においては死ぬことがわかっているのに、じゃあ、生まれなきゃよかったのか、ということになってくる。理想の人生、理想の国っていうのは、おそらく1分1秒ごとに変化していくんでしょうね。
鎌苅:俺たちって面倒くさいね。「理想の国」を聞かれているのにこんな話になって、素直に答えろよって感じだよね(笑)。
――タイトルの「憂国」は国を憂うと書きますが、今、憂いていることはありますか?
平野:サウナでかけ湯をしないで水風呂に入る人。結構いるんですよ。
鎌苅:それは憂うわ~。僕の場合は、Instagramにもあげたんですけど、2歳になる娘が「〇〇ちゃん(自分の名前)は王様。マミーはプリンセス。パパは……馬」って言ったことです。
平野:馬!?憂うなぁ~。
鎌苅:そんなことばかりだよ(苦笑)。でも、大丈夫。その後に「パパ大好き♡」って言ってもらえるから。
――ジェームズ・モリアーティにとってシャーロック・ホームズは宿敵です。お二人の宿敵はいますか?
平野:己ですかね。
鎌苅:全然カッコよくないよ!「己」って言った瞬間はカッコいいと思ったけど、直後に俺のほうをチラッと見た瞬間、カッコよくなくなった(笑)。
平野:小学生ぐらいからそうなんですけど、自分の世界と外の世界を戦わせたところで意味がないと思っているんです。空の青が変えられないのと同じで、その青を美しいと思える自分にならないといけない。
曇りだからイヤだ、雨だからイヤだっていうのは自分の主観であって、その曇りを好きになれる自分にならなければいけない。何かをイヤだと感じた瞬間に、そう思っている自分と向き合わなければいけないから、人に対して宿敵と感じたことがないのかもしれません。
鎌苅:僕の場合は、最近、良と同じようなことを感じるようになったんですけど、人と比べることをやめてから、だいぶラクになりました。湘南乃風さんの「いつも誰かのせいにしてばっかりだった俺」という曲に「誰かのせいじゃなくて、誰かのおかげと思えたら」という歌詞があるんですけど、その曲で僕も変わることができたので、宿敵はやっぱり自分です。
平野:「憂う」の隣に人(にんべん)を添えることで、「憂国」を「優国」にしたいですね(笑)。
一同:拍手!
――きれいにまとまったところで、公演を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。
鎌苅:これまで初演、Op.2とどっぷり浸かってやってきて、僕らの中でも思い入れが強い作品です。Op.3で新たに加わるメンバーとも糸を絡め合ってより深く、色濃くしていきますので、皆さんにもその彩りの一部になっていただけたら幸いです。
平野:がんばります。
鎌苅:おい(笑)!
平野:単純に面白い作品ですし、余白部分も多く、いろんな要素が詰まった作品。3作目ということでカンパニー一同、否が応でも熱量が上がっているので、我々の楽しみが伝染していくような作品にしたいです。ご期待ください。
ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.3 -ホワイトチャペルの亡霊-
【東京公演】8月5日(木)~15日(日)品川プリンスホテル ステラボール
【大阪公演】8月19日(木)~22日(日)サンケイホールブリーゼ
■原作:構成/竹内良輔 漫画/三好 輝 『憂国のモリアーティ』(集英社「ジャンプSQ.」連載)
■脚本・演出:西森英行
■音楽:ただすけ
©竹内良輔・三好 輝/集英社 ©ミュージカル『憂国のモリアーティ』プロジェクト
撮影:河井彩美
ヘアメイク:宮崎智子
スタイリスト:吉田ナオキ(平野良)
平野衣装協力:blue in green PR(03-6434-9929)