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「TGCの発信力で地方の技術を世界へ」 水問題解決の突破口 バイオトイレ

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株式会社W TOKYOは、2025年大阪・関西万博の「Co-Design Challengeプログラム」を通じて、「サーキュラーバイオトイレ」をサステナビリティの象徴としてデザイン設計、機能拡充し、大阪・関西万博を契機に世界に向けて発信する。人類共通の課題である「水問題」とそれに対応する今回の技術の認知向上をめざす。そのプロジェクトについて、4回のシリーズ企画で迫る。


※シリーズ記事は、「Co-Design Challengeプログラム」のホームページに公開しています。各記事は、取材時点の情報のため、プロジェクトの進捗や開発状況によって当時から変更となった点などが含まれます。




「TGCの発信力で地方の技術を世界へ」 水問題解決の突破口 バイオトイレ Vol.1

「東京ガールズコレクション」を企画制作する「W TOKYO」


SDGs(持続可能な開発目標)推進と地方創生。大きな二つの社会課題と若い世代を結び付け、独自のプロデュース力で次世代を見据える企業がある。「東京ガールズコレクション(TGC)」を企画制作する「W TOKYO」だ。大阪・関西万博では、地方発の技術を生かした「サーキュラーバイオトイレ」をデザインし、世界に向けて発信する。


2018年5月31日。米ニューヨークの国連本部はいつになく華やかな雰囲気に包まれていた。会議棟4階の会場に設営されたのはランウェー。日本を代表するモデルたちが颯爽(さっそう)と歩き、ポーズを決めていく。バックスクリーンには、「ジェンダー平等を実現しよう」などSDGsの17ゴールが大きく映し出された。この模様は出演者のSNSで瞬く間に広がり、百数十万人もの若者たちが動画を視聴した。国連とファッションショー。意外な組み合わせが引き起こしたうれしい化学反応に、国連関係者は口々に感嘆の声を上げた。


「圧倒的な発信力で若者と社会課題をつなぎ、唯一無二のプラットフォームだと感じた。その力で故郷の山梨に恩返しできるような企画を手掛けたいと思い、迷わず就職を決めた」。翌19年、W TOKYOに入社した淺川万葉は志望動機を語る。


淺川は大学時代、インバウンドを主軸にした観光まちづくりを専攻。就職活動を始めた頃、W TOKYOの「TGC地方創生プロジェクト」を知った。世界へと目を向ける一方で、地方が抱える足元の課題にも向き合う姿勢に魅力を感じた。このプロジェクトは、国内最大級のファッションイベントに育ったTGCをあえて地方で開催。トップモデルや女優、歌手、芸人ら日本屈指の人気を誇る出演者たちが、ランウェーで特産品を身に付けたり、地域住民と交流したりして、ご当地情報を全国に発信する。15年にスタートし、北九州市を皮切りに広島、富山、静岡、山梨県甲府市などの各地に波及した。


「きっかけは福井県鯖江市のメガネだった」。プロジェクト責任者の田嶋康弘は振り返る。まだ東京だけで開催していた09年。経済産業省とのプログラムの一環で、TGCのなかで鯖江のメガネづくりの技術を紹介する場面があった。国内約96%、世界でも約20%のメガネフレームが鯖江産というシェアも驚きだったが、細部にまでこだわる職人たちの誇りや信念に触れるうち、地方に息づく工芸技術や特産品を埋もれさせず、自分たちの強みで発掘、応援できないだろうか。地方に目を向ける原点となった。

以来、各地に赴くなかで、地方独自のきらりと光る産業技術に出会う機会に恵まれた。その一つに、微生物の働きで汚水を浄化し、洗浄水にリサイクルする装置を備えた自己完結型バイオトイレの開発があった。


W TOKYO ソリューション事業局 淺川 万葉さん

W TOKYO 地方創生・SDGs管掌 田嶋 康弘さん




「TGCの発信力で地方の技術を世界へ」 水問題解決の突破口 バイオトイレ Vol.2

W TOKYO ソリューション事業局 淺川 万葉さん


田嶋や淺川らが、開発を進める名古屋市の会社や静岡市の研究者のもとに通い、技術について徹底的に学んだ。どうすればソーシャルビジネスにするお手伝いができるのか。どういう形で世の中に知ってもらうのが一番いいのか。話し合いを重ねていた時、Co-Design Challengeの募集を知った。


この技術は単に水をリサイクルし、トイレに水を供給するだけではない。再利用可能な水資源として再生できるだけでなく、処理された排泄(はいせつ)物は農業肥料にも活用できる。日本各地で進む下水施設の老朽化、発展途上国の水不足や衛生環境の改善など世界的な社会課題に対応できる。


「安全な水とトイレを世界中に」というSDGsゴール6への貢献を目指すなら、発信する場は大阪・関西万博しかない。皆の意見が一致した。そして、技術の素晴らしさを伝えるには、やっぱり注目を集めないといけない。ここは、TGCで磨いてきた企画力が何より生きる分野だ。「スタイリッシュにデザインし、世界中の人にSNSで発信したくなるような仕掛けを考えたい」。淺川は力を込める。


時間は短く、一瞬のつかみを肝に、キャッチーな事柄を入れる。淺川は入社以来、複雑で難しい社会課題に対して、SNS世代の若年層が関心を抱けるような発信手法を追求してきた。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムの成果を若者に伝えたいという依頼では、TGCの発信の場を活用し、フードロスの取り組みや食生活など身近な話題を通して、5分に凝縮して紹介してもらった。


「万博の来場者は国籍、年齢層ともに幅広い。地域によっては水環境や水資源に対する捉え方も違う。伝えたいことがたくさんあるなかで、どこを切り取って発信すれば、より多くの人に実感してもらえるか。今からどんな展開ができるか楽しみだ」。淺川のワクワクはとまらない。


パリコレに代表されるファッション業界に挑戦し、2005年にTGCを始めてから19年。昨年6月、W TOKYOは東京証券取引所に上場を果たした。田嶋は言う。「第二の創業のスタートを切り、これからはエンターテインメント以外の業界のことももっと知り、TGCとは全く関係ないようなことにもどんどんチャレンジしていきたい。万博での取り組みを機に、地域の社会課題と世界をつなぐプロジェクトにも目を向けていきたい」。


設計図を見ながら打ち合わせする様子

W TOKYO 田嶋さん(右)と淺川さん(左)




「TGCの発信力で地方の技術を世界へ」 水問題解決の突破口 バイオトイレ Vol.3

「サーキュラーバイオトイレ」のデザイン案(外観)


万博に向けて、会場で実際に使うシステムの技術的な試作ユニットは完成。排泄物を分解して農作物の栽培に使う水を供給できることは確認済みだ。「外観は、四角い建物が二つ並んでいるだけなので、これから万博会場にふさわしいデザインに洗練させていきます」と田嶋は言う。「トイレの排泄物を微生物で分解、浄化し、不純物がほとんど含まれない水を回収するシステムです。途中、蒸発する水分もあるので、若干の補給は必要になりますが、駆動のためのエネルギーもごくわずかで、ほとんど自立して運用できます」。万博会場では、車台に載せた移動式のシステムを団体バス乗降場に、ユニバーサルトイレとして設置する予定だ。


淺川は「このシステムは分解の過程で臭いはでませんし、汚泥も残らないのです。そこが現行の仮設トイレとは異なります。ただ、それを入場者に見てわかってもらうようなデザインにするのは難しいですね」と、システムを最大限アピールするために工夫を凝らしているという。この技術は、農業分野での活用は実証済みで、回収した水が、農産物の生育を促進するという実績が確認されている。現在、このシステムで得た水で食物を栽培するプロジェクトが進行中だ。


それを踏まえて「万博でも、実際に植物を周りに植えて、開幕の春から、期間中の夏、秋にかけて生育していく様子を皆さんと共に楽しみながら観察することはできないか考えています」と淺川は夢を語る。まだアイデア段階で実現できるか模索中というが、会場で、そんな草花や、野菜に会えるかもしれない。


日本では、上下水道が完備されているし、衛生状態もいいので、このシステムが日常的に必要となる場面は少ないかもしれない。それでも、災害時のトイレ対策などには活用できる。「海外には水に困っている地域がたくさんあります」と田嶋。「清潔な水があれば助けられる命があります。日本発のこの技術を世界で活用したいですね。それが、Co-Design Challengeで万博にサーキュラーバイオトイレを提供する大きな意味じゃないか。私たちはそう考えています」


「安全な水とトイレを世界中に」。SDGs6番目のゴールをそのまま体現したようなシステムであることは間違いない。


打ち合わせの様子

「サーキュラーバイオトイレ」のデザイン案(内観)


「TGCの発信力で地方の技術を世界へ」 水問題解決の突破口 バイオトイレ Vol.4

「サーキュラーバイオトイレ」の完成予想図


2024年元日に能登半島地震が発生した北陸地方では、同年9月には豪雨に襲われ、広範な被害が発生し、被災地域では飲料水や仮設トイレの確保など、被災者の健康と命を守る喫緊の課題が浮き彫りとなっている。災害はいつ起こるかわからない。「日頃からの備え」の重要性が強調されている。


「私たちが万博会場へ提供するサーキュラーバイオトイレは、トレーラーで運搬して設置するため、災害時の緊急対応での出動が可能です」と田嶋は言う。大阪・関西万博で利用されることを機会に、「いざという時に使える」と多くの人に知ってもらえることを期待している。万博会場での設置場所は、夢洲第2交通ターミナル、団体バス乗降場の出入り口付近の予定だ。「自然にも人にも優しいSDGsをテーマにした万博の会場にふさわしい、水を循環させるシステムを、来場する人たちに見てもらい、体験してもらうことを楽しみにしています」。そのため外観や内装についてもデザイナーと協力し、目を引くようにして「面白いトイレだよ」とコンセプトを理解してもらえる工夫をしているという。


「日本は、水はふんだんに使えるし、水道の蛇口からすぐに飲めるきれいな水が出るのがあたり前になっています。古くから、水は空と大地を巡るもの、人間はその恩恵を受けるものという理解がありました」と淺川は語る。言葉の歴史を振り返れば「便所」を意味する「かわや」も、元は「川の上に掛けて作った小屋」という意味だったという説がある。人間が大自然の循環の一部として暮らしていたことを物語っている。サーキュラーバイオトイレは、その循環を、トレーラーで持ち運べるシステムの中で展開する仕組みだ。


だからこそ、世界の災害や紛争地域の復興や、簡単に水を引けない環境など世界のあらゆる場所に届けられる可能性を秘めている。


田嶋は「このシステムがあると知っていてもらえれば『いざという時』に一緒に動けます。『日頃からの備え』として活用できるシステムです」と人々が実感できる日を心待ちにしている。


W TOKYO 地方創生・SDGs管掌 田嶋 康弘さん

W TOKYO ソリューション事業局 淺川 万葉さん




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Co-Design Challengeとは?

Co-Design Challengeプログラムは、大阪・関西万博を契機に、様々な「これからの日本のくらし(まち)」 を改めて考え、多彩なプレイヤーとの共創により新たなモノを万博で実現するプロジェクトです。

万博という機会を活用し、物品やサービスを新たに開発することを通じて、現在の社会課題の解決や万博が目指す未来社会の実現を目指します。

Co-Design Challengeプログラムは、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が設置したデザイン視点から大阪・関西万博で実装すべき未来社会の姿を検討する委員会「Expo Outcome Design Committee(以下、「EODC」)」監修のもと生まれたプログラムです。


※EODCでの検討の結果はEODCレポートをご覧ください


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