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微生物の研究一筋、20年。細菌の“言葉”を遮断し、仲間と悪さをさせない技術とは?

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独りぼっちでは悪さをしないけれども、 “言葉”を交わしみんなで悪いことをするようになる――目に見えない細菌の世界は奥深く、実はこの性質によって私たちの暮らしに様々な影響がもたらされています。今回は、人間に悪い影響を及ぼす微生物について長年研究してきた濱田にフォーカス。微生物とは何かといった基本的な知識から、濱田が現在研究に取り組む「クオラムセンシング阻害」について、話を聞きました。

インタビューを通して、暮らしのお困りごとを解決するための、小林製薬の技術研究の最前線についてお伝えいたします。


20年以上のキャリアを持つ「微生物」のエキスパート

――濱田さんは大学時代から微生物の研究一筋とのこと。まずは、これまでにどのような研究を行ってきたのか教えてください。


大学4年生のときに研究室に配属になってから、もう20年以上になります。微生物は文字通り「微=目に見えないほど小さい」「生物」ですね。人間の生活に役立つ一面もある一方、困った現象を引き起こすこともあり、私はこれまでずっと困った現象を起こす微生物をやっつける研究をしてきました。


小林製薬には中途入社で、研究歴は6年になります。製品の効果効能を実現するための技術研究がメインです。歯周病ケア製品や入れ歯の洗浄剤、ニキビの原因となるアクネ菌をケアするスキンケア製品などの研究を行ってきました。抗菌加工した靴下で菌による臭いを抑えるための研究も行ったことがあります。


悪影響を及ぼす「菌同士のコミュニケーション」をさせない技術開発への挑戦

――「菌」というワードが出ましたが、そもそも菌とは何なのでしょうか…?


微生物に含まれる生き物で、代表的なものとして細菌やカビ、酵母、ウイルスが挙げられます。生物が繁殖して増えるように、自分たちで増殖できるのが特徴ですが、細菌と混同されがちなウイルスは、寄生した動物など他の生物内で増えることはできても、自らは増殖できないんですよ


――そんな違いがあるんですね。


そうなんです。ただ、菌もウイルスも、活用したり抑制したりすることが大切なのは同じです。


――濱田さんが現在取り組んでいる「クオラムセンシング阻害」研究。そもそも「クオラムセンシング」とは何でしょうか?


クオラムセンシングとは、細菌などがお互いの密度を感知して特定の遺伝子を発現することです。密度を感知するために、細菌は互いにコミュニケ―ションを取るんです。細菌は、人がコミュニケーションを取って行動を起こすのと同じように、コミュニケーションを取ることで何かしらの現象を起こすことがわかっているんです。細菌は増えると悪さをすると思っている人が多いと思いますが、実は細菌は、人でいう“言葉”にあたる化学物質を介して仲間に気付き、みんなでいっしょに新たな行動を起こすようになるんです。その変化が口の中で歯垢を作ったり、ニキビが繰り返しやすくなったりするなど人間にとって悪い現象につながっているケースも多いんですよ。この “言葉”を遮断することで悪い現象を抑える、これが「クオラムセンシング阻害」です。




――クオラムセンシングに関する研究は昔からされてきたものなのですか?


1990年代から右肩上がりで論文が増えていますので、30年ほどになりますね。殺菌・抗菌技術はミイラの防腐など、何千年前に遡る古い技術ですから、それと比べるとまだまだ歴史が浅いですが、細菌を制御する新しい技術として近年非常に注目されています。


――濱田さんが研究することになったきっかけを教えてください。


入社後、当時の上司に「クオラムセンシング阻害を研究することで、お客さまのお困りごとを解決できるか考えてほしい」と言われたのがきっかけです。実は、私が入社する数年前に研究をしていたことがあったそうなのですが、そのときはあと一歩で製品化にこぎ着けられなかったんです。ですので、会社としては2度目のチャレンジでした。


――1回目のチャレンジが製品化につながらなかった理由は何だったのでしょうか?


説明が少し難しいのですが、着目した”言葉”が違ったから、というのが要因の一つですね。まず前提として、細菌の”言葉”にあたる化学物質にはいろいろな種類があります。日本語よりも英語の方が世界中で話せる人が多く通じやすいように、化学物質の種類によってコミュニケーションの範囲が異なるんですね。


過去に当社で研究していた社員は、例えるなら日本語タイプのクオラムセンシングを研究していたんです。それに対し、私はより広く伝達できる英語タイプに着目しました。その違いが一歩進めた理由だと思います。


歯周病菌の“言葉”を遮断することで、歯垢形成や酵素産生の抑制を実現

――研究内容について、詳しく教えてください。


最初に取り組んだのは、歯周病菌の研究でした。様々な種類の細菌がコミュニケーションに使う”英語”によるクオラムセンシングを研究して、いろいろな分野に展開したいという思いがありました。


歯周病菌は、私が着目した英語タイプのクオラムセンシングにより、歯垢を作って殺菌剤を効きづらくさせたり、歯周病に関係の深い酵素を作ったりします。クオラムセンシング阻害を実現できたら、歯垢形成や酵素を抑えられると考えました。


――どのように研究を進めていったのでしょうか?


まずは、どのような物質がクオラムセンシングを阻害するかを見つける必要がありました。はじめは見つけ方さえわからず、物質を見つけるための実験を一から立ち上げなければなりませんでした。歯周病をターゲットにしてはいたものの、それだけに絞ると見つからない可能性もあります。そのため、オーラルケア製品に使うことができる200種類くらいの物質をひとつずつ評価しました。その結果、当社のオーラルケアブランド「生葉」の有効成分でもある「ヒノキチオール」に活性があることがわかり、晴れて歯周病菌のクオラムセンシング阻害研究をすることになりました。



その後も困難が続きました。というのも、物質の効果は歯周病菌を使って確かめなければならないからです。人が一人ひとり違うように、細菌も一つひとつ個性があります。扱った経験のない特徴的な性質を持つ細菌を安定的に取り扱うことが非常に大変でしたね。試薬を1つ選ぶために数種類も検討し、それ以外にもさまざまな条件を何十通りにも変えて検討しました。


あらためて整理すると、「クオラムセンシングを阻害する物質を見つける実験を作り」、「クオラムセンシングを阻害する物質を見つけ」、「クオラムセンシング阻害により本当に歯垢形成や酵素産生が抑制され、殺菌剤が効きやすくなるのかをすべて検証する」。これがこの研究で実施した実験です。


酵素の実験に関しては、評価に用いる物質が手元になく、論文を読み、面識が無かった大学の先生に直接連絡し、分けていただけたことで行えたんですよ。


――聞いているだけでも大変そうですが、なぜ粘り強く続けられたのですか…?


ひとりではできなかったと思いますね。膨大な実験をやり切れたのは、一緒にデータを取り続けてくれた仲間の支えのおかげだと思います。


あと、実験への向き合い方にも変化があったなと思います。クオラムセンシングの研究では、初めに立てた実験計画で、すんなり上手くいくことはゼロでした。ただ、上手くいかなかった実験は無駄ではまったくなくて、「この条件では上手くいかない」ことがわかったということなんです。仮説を立てては一つひとつ試すことで、少しずつ事実を明らかにするのが研究だと気づき、やれば必ずできると思えるようになりました。今は上手くいかないことがまったく怖くないですね。上手くいかないことも前進だ、ということに気づきましたから。



今後も身近なお困りごとを解決し、お客さまの「快」を増やしたい

――今後の研究についての思いを聞かせてください。


少しずつ、小林製薬のブランドスローガン「“あったらいいな”をカタチにする」を実践できるようになってきたなと感じています。研究って8割は思い通りになりませんが、あきらめず最後までやり抜くことが大切だと思います。枠にとらわれずに技術を探求し、暮らしの中のお困りごとを解決する製品につなげられるよう、今後も頑張りたいです。


2023年にはアクネ菌のクオラムセンシング阻害についての技術がまとまり、論文を執筆、学会のシンポジウムでも発表しました。また、まだ詳細は言えないのですが、別の細菌のクオラムセンシング阻害についてもようやく形になってきました。こちらは今年、国際学会での発表を目指しています。


微生物が起こす悪いことのなかには、見過ごされている問題、見過ごされてはいないけれど、難しくてまだ解決できていない身近な問題がまだまだあると思っています。それらを1つでも解決に導き、お客さまの「快」を増やしたいですね。微生物の専門家だけでは実現できないため、他分野の専門家と協力してイノベーションを起こしたいと思っています。


<公式オウンドメディア「おっ!?小林製薬」にも掲載中>

今回の研究ストーリーは、小林製薬の公式オウンドメディア「おっ!?小林製薬」にも掲載しております。

同サイトでは、製品開発秘話や枠を超えてチャレンジする当社の企業活動、その裏側にある社員一人ひとりのひたむきな思い、泥臭くトライを重ねる姿など、さまざまな一面をお伝えしています。

「おっ!?小林製薬」URL:https://www.kobayashi.co.jp/koba/




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