宝塚歌劇団の元スターに、輝く秘訣やこだわりを語ってもらう「宝塚OG劇場」。第7回は、彩吹真央(あやぶき・まお)が登場。
繊細な演技力と豊かな歌唱力を持つ雪組男役スターとして活躍し、2010年の退団後は舞台を中心にミュージカル・ストレートプレイなどで幅広く活躍中。2月17日(木)から上演される舞台「僕はまだ死んでない」に出演し、終末期医療を題材にした本作で医師を演じる。
そんな彩吹に、フジテレビュー!!がインタビュー。
前編では、医師役への意気込みや、舞台に立つ上で宝塚時代から大切にしていることを聞いた。
<【後編】彩吹真央 宝塚歌劇団で演技指導「ファンの方がどこにキュンとするか」>
<彩吹真央 フォトギャラリー(全9枚)>
慈悲深さの上に、医師としての強さを乗せていきたい
――「僕はまだ死んでない」は2021年2〜4月にVR演劇として、今回とは異なるキャスト陣で配信されました。作品への印象を聞かせてください。
VR版では、お客様は360度動くカメラを通じて、主人公目線でオンライン観劇ができます。コロナ禍で生まれた斬新な演劇スタイルに驚きましたね。物語は終末期医療についてシビアに描かれていますが、心あたたまるやり取りもあって、演出家・ウォーリー木下さんの世界観がギュッと詰まっています。今回の舞台版で、どう生まれ変わるか楽しみです。
――彩吹さんは主人公を診る医師・青山樹里役ですが、どう演じていきたいですか?
セリフには医療用語もたくさん出てくるのですが、ただ説明するのではなく、青山のバックボーンや人となりが、少しでも表現できたらいいなと思っています。真面目でガチガチのお医者さんだと演じがいがないですから、彼女の根底にある人間性と、医師として律する姿勢とのバランスを探っていきたいです。
――役作りはどのようにしていますか?
私は、医療従事者の方々の「人を助けよう」という使命感や、ホスピタリティを尊敬しています。役者はその役を想像しながら演じるわけですが、実際のお医者さんと同じレベルで使命感を持つというのは、そうできることではありません。少しでも近づけるように想像していますが、まずは頑張って目の前のセリフを覚え、理解し、脚本に忠実に演じることによって、医師・青山樹里として存在できるのでは、と信じています。
青山は、寝たきりになった主人公と、その家族に厳しい現実を言い渡します。しかし、つっけんどんではなく、人に対しての慈愛深さを持つ女性だろうとイメージしているので、医師としての威厳や強さも乗せて、さらに魅力的な人物にしていきたいです。
――お稽古の雰囲気はいかがでしょう。
役者同士がいい意味で“密”になれるよう、ウォーリーさんがお稽古開始前に「即興アドリブゲーム」を行ってくださったこともあり、本当に楽しくお稽古をしています。演劇、特に会話劇は役者たちの距離感がお芝居に現れます。コロナ禍で、舞台稽古に入るまで相手の顔がマスクでわからなかったり、たわいもない話も控えたりする中、このゲームはとてもありがたいものでした。
「僕はまだ死んでない」はシリアスなテーマを扱っていますが、役者同士の心のキャッチボールが自然と起きることで、あたたかい作品になっていくと思います。
――楽しくお稽古を進めている様子が伺えます。
私を含め5人中4人が関西人なので、気がゆるんじゃって(笑)。特に矢田悠祐くんと中村静香ちゃんがバリバリ関西弁なので、思わず私も関西弁に…。
作品のセリフが標準語の場合、感情の持っていき方やイントネーションに気をつけるので、“よっこらしょ”と頑張るような感覚があるんです。今回もそうではあるのですが、お稽古以外の時間は気がゆるんでいると思います(笑)。これも、ウォーリーさんがリラックスできる空気を作ってくださっているからこそですね。
私の演劇の根底には天海祐希さんがいる
――さまざまな作品に出演する上で、宝塚時代から今も変わらず決めていることはありますか?
お芝居って、ある意味“嘘の世界”じゃないですか。でも私は、舞台上では本当にその人として存在したい、嘘をなくしたいと思っています。心からそう思うから、そのセリフを言う、そのメロディで歌う。実際にその人がいるかのように表現したいんです。
――なぜそう思うようになったのでしょう。
ある方に衝撃を受けたからです。宝塚に入団して2作目の舞台で、当時、月組のトップスターだった天海祐希さんとご一緒したんです。通常、舞台のお芝居は相手と完全に向き合うのではなく、お客様のほうに体を向けて、相手と“ハの字”になって会話をすることが多いです。しかし天海さんは、相手にまっすぐ向き合ってセリフをおっしゃったのです。
ある先生は「そういうのは、ゆり(天海さんの愛称)のいいところだけど、舞台はそうじゃない」とおっしゃっていましたが、私は自然で嘘のないお芝居をしていらっしゃる天海さんに、すごく衝撃を受けました。
私、音楽学校時代は標準語を話すのが恥ずかしかったのもあり、演劇の試験の点数がすごく低かったんです。でも、天海さんとご一緒させていただいて演劇が大好きになってから、点数がどんどん上がって。今でも私の演劇の根底には天海さんがいらっしゃいます。天海さんのようにセリフが相手にまっすぐ刺さるような、嘘のないお芝居をしたいと常に思っています。
<コメント&撮影メイキング動画>
<舞台「僕はまだ死んでない」概要>
2月17日(木)〜28日(月)/銀座・博品館劇場
出演:矢田悠祐、上口耕平、中村静香/松澤一之・彩吹真央
原案・演出:ウォーリー木下
脚本:広田淳一
最新情報は、舞台「僕はまだ死んでない」公式サイトまで。
撮影:河井彩美