妖艶な佇まいとちょっと自虐的で機転の利いたトークで女優、タレントとして多方面で活躍し、文筆家としてもたぐい稀なる才能を発揮している壇蜜。

そんな彼女が2018年11月から2019年12月までの「あるがままの日々」を、独特のタッチで綴った日記「結婚してみることにした。壇蜜ダイアリー2」(文藝春秋)を3月25日に出版した。

「結婚してみることにした。壇蜜ダイアリー2」(文藝春秋)

昨年は11月22日(いい夫婦の日)に漫画家の清野とおると結婚。私生活でも大きな変化があった壇蜜に、新刊および「書くこと」への思い、結婚後の近況について聞いた。

<壇蜜 インタビュー>

穏やかな口調で丁寧に答えてくれた

――2014年秋刊行の壇蜜日記』に始まり、本作はシリーズ通算6冊目のエッセイとなります。新作出版に対する率直なお気持ちは?

「日記(『壇蜜日記』)」が「ダイアリー(『壇蜜ダイアリー』シリーズ)」になり、縦書きが横書きになったりと、趣は多少変わりながらも出版できたことはありがたいです。前の本が売れなければ次は出せない、といつも思ってるので、常に最終巻の気持ちでいます。

日々あったことをまとめただけで本になるなんて、という気持ちも常にあるんですけど、“そういう形でものを売る”と決めたので。何もない日々が綴ってある中で、それでも人は変化したりしていなかったり、というのが伝わればいいなと思っています。

――日々の出来事を綴りながらも、頭の中では懐かしい場面に思いをはせたり、新たな疑問が生じたり。壇蜜さんの日々が、時空を行き来しながら展開しているのを感じます。

たぶん、私自身が過去回想型の人間だと思うので、新しい経験を新しいままに伝えるよりも、過去と結び付けて描写していることのほうが多い気がします。人は新しい経験をしても、それが過去の自分の何かと必ずつながっているから「こうだった、ああだった」という感想を抱くわけで。何事も、自分の中の何かとつながっているんだろうなと思います。

書く上でのルールは「嘘をつかない。人の迷惑になる描写はしない。それから…」

――「ダイアリー」は、いつ、どんなときに書いていますか?

必ずといっていいほど、その日の終わりに書きます。寝る時間が遅くなれば、時計の針が12時を回っていることも。どんなに忙しかったり疲れていても、書きだめはしないというのを自分の中で約束事にしています。日めくりはまとめてめくるタイプなんですけど、日記はあまりためちゃいけないな、っていう意識が昔からあります。

――日記はたまりがちなものですが、ためずに続けるコツがあれば教えてください。

最初に「文字数は毎日このくらい」と決めると先送りしにくくなると思います。人は制限があると、やっつけでもその日のうちに終わらせたい!というエネルギーが出てくると思うので。それは日記を書いたり、日々を記録してるすべての人に共通して言えることなので、知っておいてほしいなと思います。

それと、休息日をつくるとメリハリになるかな?と。私はミッション系の学校出身で、日曜日はキホン何もしなくていい日だと思ってるので、ダイアリーも日曜日は一行だけ。勝手に安息日をつくりました。まぁ、家は曹洞宗なんですけど(笑)。

――執筆するうえで、ほかにルールはありますか?

嘘はつかない。人に迷惑をかけるような描写はしない。それから、あまり詳しく書きすぎない、というのは気をつけてます。なんでも詳しく書くと、それで終わっちゃうので。

――読み手にいろんなことを想像させる余白がありますね。

はい。だから、書き足りないな、ぐらいにとどめておくのが長く書き続けられる条件なのかな?と思ってます。

書くことは、文章と自分の距離を縮める大事な作業

――小説やブログも執筆され、著書も多いですが、幅広い活動の中で、ご自身にとって「書く」とはどのような行為でしょうか。

間違いなく臨時収入です。もちろん、どんな仕事にも責任があるし、自分だから頼まれてるという意識を持ってやらなきゃいけないとは思ってます。それに、こうして自分の文章を本にすることがすごく儲かることかというと、正直そうではないと思うんですね。でも、これを積み重ねていくことで、何かしらチャンスができる。

私、文章の世界と自分って、最初はすごく遠いと感じてたので、書くことを少しずつ積み重ねることは、文章と自分の距離を縮める大事な作業なんです。徐々に縮めていけば、また新しいことができるかもしれないですし。

――書くことはご自身の楽しみにもなっていますか?

うーん……それが、うちの学校では「楽しみを持つな」と言われて文章を習ってきたので。自分が書きたいことを書いて終わりというのは相手に伝わりにくいし、作文はあなたたちの満足のために書くものじゃないよ、と。それで、伝わりやすく書く訓練をしていたんですけど、私はそれがすごく苦手で成績もあまりよくなかった。

周りには、そういう文章が上手に書ける同級生がいっぱいいたので、苦手意識が強かったんです。じゃあ何を書いたらいいんだ!?と、当時はすごく悩みました。でも今思えば、“自分本位にならない文章”を徹底的に叩き込まれたことは、私にとってはよかったのかなと。その悩みや葛藤が今、生きてると思います。

――それが壇蜜さんの読ませる文章の土台になっているんですね。著書のあとがきに、40歳を前に、言っちゃいけないコトを言ったり、やっちゃダメなことをやっちゃうエラーが増えてきて困っている、と書かれています。

たぶん、すごく遅れてだだっ子みたいになってる人格が出てきてるのかなぁとは思います。でも、そのだだっ子みたいなエネルギーを出すにはあまりにも時間が経って大人になってるし、その欲求をずっとぶつけてられる体力ももうないので、ときどき出てくるだけなのかな?と。それはそれでよかったなって思います。

――何か解放されて、自由になった部分があるのでしょうか。

そうですね。まぁ条件付きの自由があって、その中で自分を解放してもいいことをようやく認めたのかな。

2019年11月22日には、バラエティ番組での共演を機に知り合った漫画家の清野とおると約2年半の交際を経て結婚。ファンクラブ限定公式サイトで報告し、祝福の声に包まれた。

二人になったプラスの効果の片鱗が見え始めている

――ご結婚から約4ヵ月。結婚後の変化を感じるのはどんなときですか?

まず、洗濯する回数が増えたなと。ドラム式の洗濯機ってこんなに入らなかったっけ?と思うときもあります。あと、自分が思ってる以上に、周りの方々が結婚した自分に対して興味を持ってくださるのは、ちょっと照れくさくもあり、ありがたいことでもあります。

マンションの同じ棟に住む、名前も知らない若いママさんに、「おめでとう」って言われたのはうれしかったですね。

――内面的な変化はありますか?

こういう時代ですから、安定とか安心を得たというよりは、相手に何があっても私は支えていけるかな?とか、もう自分だけじゃないぶん心配のほうが増えました。ある夜、寝ている清野さんが、布団をベッドの下に全部落っことして、「寒い、寒い……」ってうわごとのように言ってたんです(笑)。それを見たときに、私が正気でいなきゃいけないんだ、って思いました。

――この人のことは自分が守ってあげなきゃと?

それもあるし、彼は今までどうやって一人で生きてきたんだろうな、というのも考えました。

――一人から二人になったことで感じるプラスの変化はありますか?

それはこれからだと思うんです。でも今、ちょっとずつその片鱗が見え始めてる感じがします。たとえば、二人ともサウナと漫画が好きというふうに、好きなことが同じだったり。年齢もひとつ違いで、漫画なら吉田戦車さんの作品とか、同じものをおもしろいと思って思春期を生きてきたという意味で背景が一緒なので。

お菓子も、昔「ぬ~ぼ~」っていうのがあって二人とも好きだったんですけど、「あれはおいしかったけど、家の中で食べると散らばったよね」みたいな(笑)。私は「ぬ~ぼ~とうまい棒はベランダで食べなさい」と親に言われてベランダで食べてたんですが、そういうものを共有して口に出せるのは、自分にとって純粋にプラスになってると思います。

日々の中で、自分をベターな状態に保つ方法とは?

――今後挑戦してみたいことや、野望があればお聞かせください。

結婚する前は、一度でいいから駆け落ちしてみたかったんですね。でも、もうできなくなっちゃったんで……そうですね、こういう時代ですので、もうちょっとペットが増やせたらいいなと。アライグマの仲間でキンカジューという生き物がいるんですけど、手相が占えるぐらいに手が人間なんです。そんな生き物を看てみたいなって。

――「ダイアリー」によると、すでに猫、蛇、小鳥、ナマズ、トカゲ、ナマケモノを飼っておいでとか。お世話好きですよね。

そうですかね。「世話してないと正気を保ってらんないの?」ってよく聞かれるんですけど、なんだろう……。

――「ダイアリー」には何気ない日常を豊かに生きるヒントが詰まっていますが、日々の中で、自分をベターな状態に保つ方法があれば教えていただけますか。

ひとつは、手に負えない生き物をそばに置く。それと、SNSはひとつに絞る。あとは、自分がめんどくさいと感じることにものすごく前向きに取り組んでみる。たとえば、「お局さん、めんどくさーい!」と思っても、とりあえず服をほめてみる、とか。嫌いな人や苦手な人にこそ、めっちゃ親切にしてみたり。

やってみると、自分が置かれてる立場がホントは恵まれてたんじゃないか、ホントは幸せだったんじゃないかということに気づけて、新しく見えるものがあると思います。

取材・文/浜野雪江 撮影/河井彩美 スタイリスト/奥田ひろ子 ヘアメイク/妻鹿亜耶子 衣装協力/GIRL