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今回は、石の世界の面白さを、石好きにも、これから好きになる子にも届く形で伝えようとした『学研の図鑑LIVE 岩石・鉱物・化石 新版』の編集の舞台裏を取材。
図鑑に関して多方面で活躍する庄司日和と、大学で隕石を研究していた徳永万結花のタッグが、どんな思いでこの一冊を作り上げたのかを伺いました。
石は公園や河原、街の中など、私たちの身のまわりにごく当たり前に存在している。あまりに身近な存在だからこそ、その面白さや奥深さなど魅力に気づく機会は案外少ないのかもしれない。
今回タッグを組んだのは、大学で隕石を研究していた徳永と、石に関心を向けるのは初めてだったという庄司だ。石を深く知る人の視点と、これから好きになる子と同じ視点を持つ二人が組んだからこそ、石の魅力をぐっと身近に感じられる図鑑が生まれた。
目指したのは、石のストーリーまで感じられる一冊だ。
◆「石をもっと好きになってほしい」
新版制作、その出発点
今回の新版について、まず、「どんな一冊にしたかったのか」を聞いてみた。
庄司はシンプルにこう答えた。
庄司「今回の書籍に関しては、特に『石をもっと好きになってほしい』という思いがありました」
石は身近にある。しかし、身近すぎるからこそ、その面白さにあらためて目を向ける機会は少ない。
庄司「身近なのに、その存在や魅力に気づかないという部分がある。それを知ってほしいと思ったのが出発点です」
庄司自身、この図鑑を担当するまでは、石に特別な関心を持っていたわけではなかった。だからこそ、まだ石の面白さに気づいていない子にも届く紙面にしたいと考えた。
岩石図鑑は、並べ方によってはどうしてもカタログのようになりやすい。
けれど、それだけでは石を好きになるきっかけにはつながらない。見た目の美しさや面白さはもちろん大事だが、その先にある「どうしてこうなるのか」「なぜこんな形なのか」が見えてこそ、「きれいだな」の次へ進める。
なんとなく拾った石からでも、その向こうにある物語へ進んでいけるように、今回の新版が目指したのはそんな扉を開くことだった。
◆手のひらの石から、地球の物語へ
二人のこだわりが詰まった巻頭ページ
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新版にするにあたり、「ぜひ見てほしい」と庄司が挙げたのが、観音開きの巻頭ページだ。ここには、本書全体のメッセージが込められているといっても過言ではない。
庄司「実は石ってあなたたちが暮らしている地球のひとかけらなんだっていうことを伝えたかったんです。とても小さい石に地球の壮大な物語が詰まっていることを表現したくて」
手のひらの中の小さな石。しかし、その向こうには、地球の歴史や、宇宙から来た隕石、地下に眠る化石へとつながる大きな物語が広がっている。最初の見開きでそうしたスケール感を一気に開きたかったのだという。
しかもその見開きは、ただ世界を広げるだけでは終わらない。壮大な地球の物語を見たあとで、もう一度、自分の手の中の石ころへ視線を戻す。その往復の中で、「今ここにある石」がこれまでとふと違って見えてくるような構成になっている。
このページの発想の背景には、実際に子どもと石を拾いに行った体験もある。小さい子どもは、気になるものを何でも拾う。石もそのひとつだ。そのときの「きれい」「なんか気になる」「拾いたい」という感覚を、知識で上書きするのではなく、紙面の中でもう一度立ち上げたい。そんな思いが、この巻頭ページにもつながっている。
庄司「子どもの頃の興味がいつしかなくなってしまうこともある。でも、石を拾ったときのきれい、すてきという気持ちはたしかにあったと思うんです」
何も言わなくても子どもが石を拾い始める。その姿を見たことで、「素敵なものを見つけたい」「世界を知りたい」という気持ちそのものを後押しする本にしたい、という思いがよりはっきりしたのだろう。
◆感覚に寄り添うキャプションの言葉
「これから好きになる子」へ届けるために
石好きの子だけでなく、まだ石の面白さに気づいていない子にも届く紙面にしたい。そう考えたときに大事にしたのは、石に初めて触れたときの感覚だった。
庄司「触った時の感覚を紙面でも追体験してほしいと思い、リアルな手触りや見た目を文章にしてキャプションに落とし込みました」
二人がこだわったのは、キャプションの表現だ。ただ名前や成分など、石の「知識」だけを説明するのではなく、持ったときの手触りや見たときの印象まで言葉にする。そうすることで、石を「見て、持って、感じるもの」として近づけようとした。
たとえば花こう岩の説明でも、含まれる鉱物の名前だけでなく、明るいところで動かすと黒雲母が光を反射してきらきら見えることや、粒が大きいとごつごつ、小さいとすべすべして見えることまで書き込んでいる。
さらに、その工夫はたとえの使い方にも表れている。
庄司「岩石と鉱物の関係性をおにぎりに例えるのはどうか、国会議事堂など教科書にも載っているような建物では石材としてどのように使われているか、など、石が日常生活にあるという部分を感じてもらえるよう意識しました」
難しい概念を単にやさしい言葉に置き換えるのではなく、読者の生活感覚に引き寄せる。今回の新版では、そうしたキャプションの積み重ねによって、石との距離を少しずつ縮めている。
◆身近な「岩石」から奥深い世界へ
新版がつくった学びのスロープ
新版では、図鑑の入り口そのものを見直した。旧版には手加減をしない面白さがあった一方で、難しすぎると感じる読者もいたという。
そこで今回は、石に詳しい子にも応えながら、初めて石に触れる子にも無理なく入っていけるようなスロープをつくることが意識された。
その工夫の一つが、章の順番だった。旧版は鉱物から始まっていたが、新版では岩石を最初に置いている。手のひらにのるような身近で拾いやすい石から入ったほうが、詳しくない子にも近づきやすいと考えたからだ。
徳永「手のひらに収まる身近な石、という観点から考えると、より手に入れやすい岩石から入った方がいいよねという話をして、順番を変えました」
石を拾う、触る、見比べる。そうした体験に一番近いところから始めることで、はじめの一歩を踏み出しやすくなる。岩石スタートにしたのは、そのための具体的な工夫だった。
ただし、入り口をやさしくすることと、内容まで簡単にしてしまうことは違う。
新版では、身近な岩石を入口にしながらも、その先にある鉱物や隕石の面白さまできちんと届くよう、構成からキャプションまで作り直していった。石好きの子にとって物足りない図鑑にはしたくなかったからだ。
一方で徳永が力を入れたのは、鉱物や隕石の「難しいところ」をどうすれば伝わる形にできるかという点だった。
鉱物の色や割れ方、隕石の分類といった内容は独自の用語も多く、文字だけで説明するとどうしても固くなりやすい。そこで新版では、写真やイラスト、グラフを使って、まず見て違いがわかるようにした。文章を減らして薄くするのではなく、理解の手がかりを増やすことで、難しい内容にも入っていけるようにしたのである。
徳永「視覚的に理解できるようにっていうところをとても意識しましたね」
庄司「鉱物を見分ける特徴や、用語を理解すると、これから先のページが楽しくなるよっていうのを伝えるのも、こだわった部分かもしれません」
難しいことを簡単にしすぎない。でも、入っていくためのスロープはきちんとつける。新版の工夫は、その両立を目指したところにある。
◆石を深く知る視点と、入り口をつくる視点
異なる強みを持つ二人が生んだ一冊
今回の新版の大きな強みは、二人の立ち位置の違いにもある。
徳永は、子どものころから石が好きで、大学では隕石を研究していた。実際、自宅には少しずつ集めた標本が100個以上あるという。そうした蓄積があるからこそ、「石好きの子なら、ここが気になるはずだ」という感覚が、紙面の細部に生きている。
一方の庄司は、もともと石に強い関心があったわけではない。だからこそ「これから好きになる子」に一番近い視点を持っていた。石好きの子が知りたいことを押さえながら、まだその世界に入っていない読者にも手を伸ばせる。その両立は、この組み合わせだったからこそ実現できた。
庄司「『石好きだったらこの情報が知りたい』というような視点はもちろん大事ではあるけれども、これから好きになる子にもちゃんと優しく手を差し伸べられるという部分は、バックグラウンドの違う2人が組んだからこそできたものなのかなと思っています」
ただ、この一冊が最初から自然にできあがったわけではない。庄司にとって大きかったのは、石の分野が初めてだったことだ。最初は用語から勉強し直さなければならず、自分が石好きではないことに負い目のようなものも感じていたという。
庄司「担当した当初は、本当に単語ひとつからわからないことがあり、いちから勉強しました」
石好きの子どもたちの熱量に、自分は応えられるのか。石本来の魅力を引き出せるのか。その不安を支えたのが、先輩編集者や監修者の言葉だった。
庄司「そんなあなただから作れる紙面がある。これから石を好きになる子の扉を開くために、今の気持ちをこれからもずっと大切にして、と」
わからないことをそのままにせず、きちんと聞く。庄司は、その姿勢を大事にしながら、石の世界への入り口をどう作るかに向き合っていった。
一方、徳永は、隕石をただ遠い存在として見せるのではなく、人とのつながりが感じられる形で伝えたいとも考えていた。大学での研究を通して、隕石が生命の誕生に関与している可能性にも触れてきたからだ。そこで本書では、石と人間との接点が見えるようなコラムや特集も意識して入れている。
徳永「隕石って無機質で遠い存在に見えるけど、生命を形づくる、さまざまな有機物を含んでいることが近年の研究で判明しています。そういう、どこかしらわたしたちに関わる部分を伝えるようにしました」
知っているからこそ、省略せずに伝えたい。けれど、伝えすぎれば入り口が狭くなる。そのバランスを取りながら、徳永は石の奥行きを支える役割を担っていたのだろう。
それぞれの苦労があったからこそ、二人の石の見え方も変わっていった。
徳永は、名前や成分だけでなく、「どうやってできたのか」「その背後にどんなストーリーがあるのか」を意識して見るようになったという。
庄司もまた、旅行先の地形や、駅の床の石にまで自然と目が向くようになり、「自分の今見えている世界の楽しみ方がどんどん増えていく」と感じたと話していた。図鑑を作る過程そのものが、二人に新しい視点をもたらしていたのだ。
◆岩石・鉱物・隕石・化石
4つのつながりが、図鑑としての面白さを広げる
今回の新版が興味深いのは、石の魅力だけを深める本で終わっていないところだ。
岩石、鉱物、隕石、化石。入り口は人によって違う。けれど、この本では章と章のつながりが見え、ひとつの興味から別の興味へと自然に広がっていける。
徳永「岩石・鉱物・隕石・化石は、本来互いに深く関わり合っているテーマです。そのため、各章のつながりや関連性が見えるよう意識して作りました」
庄司「一見すると全く違うものを扱っているように見えても、突き詰めたところでは繋がっている部分があるっていうのが、この本の特徴とも言えます。自分の興味を少しずつ広げていってくれるといいなと思い、そういう全体的な設計として作っている部分があります」
石を入口にしながら、宇宙や化石、動物、地学へと関心がつながっていく。その広がりの中で、自分の好きな世界を見つけてほしい――そんな思いも、この一冊には込められている。
石を知る本であると同時に、「知ること」そのものの面白さを広げていく本。
そこに、図鑑としての魅力も確かにある。
◆石は手のひらから世界を広げてくれる
新版が読者に送るメッセージ
石は、拾いに行くこともできるし、買うこともできる。
しかも手のひらにのせて、じっと見つめるところから世界を広げていける。
徳永「鉱物標本もけっこう安価なものもあり、子どものお小遣いでも実物を手に入れられるほどです」
庄司「岩石とかだと拾いに行ける、目の前で観察できるっていうのが、このジャンルで強みだと思うところです」
徳永「この図鑑が入り口となり、実際に自分でも調べてみよう、手に入れてみようなど、モチベーションの1つになればいいかなと思っています」
今回の新版では、そのモチベーションをさらに後押しする「やってみよう」コラムも新設した。そのうちの一つは、砂場に磁石を近づけると取れる砂鉄が、実は「磁鉄鉱」という鉱物であることを体験で知るような内容だ。
徳永「砂粒にしか見えなくても、元はこういう鉱物なんだというのが、実際にやってみるとわかる。石は調べるだけじゃなくて、体験できるジャンルでもあるので試してほしいですね」
見て、読んで、そして実際に触れてみる。図鑑は、そこまで背中を押してくれる。
石のいいところは、誰にでも手に入れられ、腐らず、勝手にどこかに行ったりもしない――自分のものにできるということだ。
石好きの子にも、これから好きになる子にも、そして、かつて石を拾っていた大人にも届くように作られた本書は石の図鑑でありながら、図鑑を読む楽しさそのものをあらためて思い出させてくれる一冊だ。
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