視聴者が“今最も見たい女性”に密着し、自身が課す“7つのルール=こだわり”を手がかりに、その女性の強さ、弱さ、美しさ、人生観を映し出す新感覚ドキュメント『7RULES(セブンルール)』。
9月8日(火)放送回では、“読書の秋”にちなんだ「頑張る書店応援スペシャル」の2週目として、東京・六本木の書店「文喫(ぶんきつ)」の副店長を務める林和泉(はやし・いずみ)に密着。
2018年に日本初の「入場料がある書店」としてオープンした「文喫」。客はお茶を飲んだり、横になってくつろぎながら読書を楽しめ、気に入った本は購入することが出来る。この店を立ち上げた中心メンバーで、現在は副店長として働く彼女のセブンルールとは。
ルール①:1タイトル1冊しか仕入れない
文喫のオープンは午前9時。副店長の林はレジ仕事の合間を縫って、棚の整理も行う。店内に並ぶ本はおよそ3万冊。文学、ビジネス、アートから漫画まで、一般的な書店では手に入りにくい本も取り揃えている。
「結婚」に関する書籍の近くには、その先の将来を考えさせる「家族」の本を置くなど、並べ方にも特徴が。「本を“掘る”のを楽しみに来る人が多いような気がするので。レコードを探しにいくことを“ディグる”って言うじゃないですか。その感覚が近いかな」と話す彼女だが、さらに特徴的なのは、1タイトルにつき1冊しか仕入れないという、「本の仕入れ方」だ。
「売れてるとか、たくさんの人が読みたい本をたくさん売ったほうが、効率よく手間も少ないし確実だと思うので、ものすごい効率の悪い本屋ではあるかなと思うんですけど。1冊ずつ点数をたくさん揃えることによって、いろんな興味に答えることが出来るのかなと」と、その理由を明かした。
ルール②:検索機を置かない
この店では、現在20人のスタッフが働いている。接客や本のディスプレイなどは、興味の幅の広いスタッフたちの意見を尊重しているそうで、日本文学の棚には、担当スタッフの「作家のデビュー年代順に並べる」というアイディアが活かされている。
当初は著者名の“あいうえお順”で並べていたが、見つけやすい代わりに“発見”がなかったのだそう。「検索機を置かない」というルールも、知らない作家や作品を知るという“出会い”のきっかけづくりのための工夫の一つ。
「周りにある本が必然的に目に入ってくるのが、本屋の楽しさなのかなと思う。検索機を使って、ピンポイントで本の場所を探し当てて行くのではなくて、気になる本を見つける過程でたくさん本に出会って欲しいな」という彼女が語る文喫のコンセプトは、「本に出会う本屋」。遠回りすることで、偶然の出会いが生まれるのだ。
ルール③:月曜日は父親とメールする
岐阜県出身の彼女。毎週末、図書館に通う父にくっつき、さまざまな本に触れるのが楽しみだった。図書館には高校生になるまで欠かさず通い続けていたが、特に本が好きという意識はなかったという。
あとになって、自分の人格形成の中に本の存在があったのだと気づき、大学卒業後は、書店に本を卸す日本出版販売に入社。3年前、文喫を作るプロジェクトが始まると、店長と共に店のコンセプト作りから携わった。
日々、業務に追われる彼女。毎週月曜日に届くのが、父からのメールだ。大学生になる頃に始まった定例メールの内容は「雨がたくさん降る」「枇杷がなった」「給付金が入っていた」といった何気ないもので、もう11年ほど続いているのだそう。
ルール④:仕入れに迷ったらTwitterで検索する
1日におよそ100人が訪れる文喫。1人当たりの平均滞在時間は約5時間で、週末には入場制限がかかることも。
訪れた客は「いろいろなブックカフェに足を運んだんですけど、ここだけ、唯一読みたい本がどんどん出てくる」「普通の書店のラインナップとは違うので楽しめる」と絶賛する。
人気の秘訣は、一般の書店ではなかなか出会えない珍しい本が取り揃えられていること。そういった新刊を仕入れるのも彼女の仕事だ。毎日およそ200冊発行される新刊のすべてをチェックし、店頭に並べるかを見極めている。
さらに、客が一度手にして返却した本が並ぶ「返本台(へんぽんだい)」を片付けながら、どんなジャンルが多いのか、何に興味がある方が来店したのかなどを見て、ニーズの高い本が何なのか、目を光らせているという。
それでも、仕入れの際に迷いはつきもの。高額な本は、特に決断できなくなる。
そんな時に彼女が行うのが、「Twitter検索」。出版社の力の入れ具合をツイートから感じ取り、本に対する想いが詰まっているものは仕入れる。単なるインターネット検索で表示される書誌情報のみならず、 今後の来店客になりうる人たちの反応が見られるTwitterを頼りにしているのだそう。
そうして、価格の高さで仕入れを悩んでいた“ホッキョクグマの本”の仕入れを決意した。
ルール⑤:常にしおりを持ち歩く
文喫では、入場料1650円(平日)を払えば、およそ3万冊の本を好きなだけ、くつろぎながら読むことが出来る。
漫画喫茶と書店を兼ね備えた、新しい形の施設だからこそ、彼女のルールの一つとなっているのが、常にしおりを持ち歩くこと。
読書途中の本を、開いたまま伏せておいている客に声をかけ、しおりを手渡していく。置いてある本はすべて売り物。常にキレイな状態を保つため、小さなしおりは欠かせない。
ルール⑥:煮詰まったときはみじん切りをする
週に1度の在宅ワークの日。2つの本棚が並ぶ自宅で、彼女は定期的に行う「企画展」の構想を練っていた。
これまで、恋をテーマにした「恋展」や植物を入れた「鬱蒼(うっそう)展」などを開催し、今回のテーマは「図鑑」だという。
それにあたり、「家にちょうどいい本があった」と、うれしそうに“図鑑の本”を手にとってみせる。想像を広げるため、本からヒントを探していく彼女。連日、企画展のことが頭から離れず、考えが煮詰まってくると、不意に立ち上がってキッチンへ。
「リフレッシュする意味ですごくちょうどいい」と、野菜のみじん切りを始めた。考えこんで疲れてしまったとき、頭をちょっと空っぽにできるワークアウトなのだそう。
ルール⑦:とにかく多くの本に触れる
ある日の林は、客から本の好みを聞き要望に沿った本を選ぶ「選書サービス」の業務にあたっていた。相手は、自分で選ぶものの視点が固まってきてしまったという、文学や歴史に詳しい客。
3万冊の中からニーズに合う本を探し出すのは容易ではないが、1週間かけ、合計13冊を選び抜いた。そして1冊ずつ、なぜその本を選んだのか、メッセージを書いたしおりを添える。
選書の鍵となるのが、本に関する知識量。オープン当初は、本との付き合い方に悩んだこともあったそう。「1冊の頭から終わりまでを通して、読み切った本のことを『読んだ本』というのだと思っていたので、1日1冊が限界で。なんとかして知識も広げたいし、たくさん読みたいし、情報量を自分の中でも増やしたいと思っていました」と振り返る。
そんな彼女を救い、彼女にとってのバイブルとなったのが「読んでいない本について堂々と語る方法」。
「最初から最後まで読まなくても、劇的に自分が感銘を受けた部分であれば、それはもう読んだと言えるんじゃないか。気分に合わせて読みたいところだけ読むくらい、フランクな付き合い方があってもいいんじゃないか」そういった考えを教えてくれたのだという。
「最初から最後まで読み切ることが読書」という呪縛から解き放たれたことで、より多くの本と出会えるように。自由に、縛られることなく考えられるようになり、圧倒的に知っている本が増えてきたという。
「自分のオススメとお客さんの欲しいが重なる瞬間がちょうど目の前で起こると、良かったってなりますね。仲人みたいな感覚です」と、顔をほころばせた。
※記事内、敬称略。
次回、9月15日(火)の『7RULES(セブンルール)』は、不動産メディア「cowcamo」編集長・伊勢谷亜耶子に密着。独自の視点で一点ものの中古物件を紹介する、目利き編集長の7つのルールとは。