宮沢氷魚、大鶴佐助の二人芝居による舞台「ボクの穴、彼の穴。」が東京芸術劇場 プレイハウスにて、9月17日(木)より上演される。
松尾スズキの初翻訳で話題となった絵本を原作に、2016年にノゾエ征爾による脚本・演出で舞台化したものを、キャストを変えて再演。戦場の塹壕(ざんごう/敵の攻撃から身を守るための穴や溝)にそれぞれ取り残された敵同士の2人の兵士が、お互いの存在に対する恐怖と疑心暗鬼にさいなまれていく姿を描く。
“見えない敵”に対して妄想を膨らませるあまり、相手を“モンスター”と思い込み恐怖心を募らせるさまは、今、世界中が抱える不安な状況とも、どこかリンクしている。
フジテレビュー!!では、今回が3作目の共演で、プライベートでも仲が良いという宮沢と大鶴にインタビュー。
前編となる今回は、作品の話を軸に、親友同士での二人芝居に挑むにあたっての思いなどを語ってもらった。
一対一でぶつかり合うことができるのが嬉しい
──出演依頼がきたときの気持ちを教えてください。
宮沢氷魚(以下、宮沢):僕と佐助くんは舞台での共演は3回目になるのですが、過去2作(「豊穣の海」/2018年、「ピサロ」/2020年)では、がっつり絡む場面がなかったんです。だから今回、二人芝居という形で、一対一でぶつかり合うことができるのが、僕はすごく嬉しいなと思いました。
それから、今のタイミングでこの「ボクの穴、彼の穴。」という作品をやることにすごく意味があると思っていて。新型コロナウイルスのこともそうですし、世界的に人種差別や災害も多くて、どこかで差別的に他人を見てしまう風潮があると思うんです。そんな中でこの作品は、偏見などに向き合った内容になっているので。
大鶴佐助(以下、大鶴):氷魚ちゃんも言うように、これまでマンツーマンでがっつり芝居をするシーンがなかったので、今回やっとできる、という思いでした。しかも、二人芝居というぜいたくな形で。内容としては絡むようで絡まなかったりもしますけど、セリフもたくさんあるので、楽しみです。
それと、今のこの状況で舞台をやることは、普段とは明らかに違いますよね。お客さんも観劇することに覚悟を持って来ると思うんです。そういうお客さんに対して、僕らはより覚悟を持って芝居をしなくてはいけないと思いました。
──出演が決まったときに連絡は取り合いましたか?
大鶴:僕は、ちょうど姉(大鶴美仁音)とやる二人芝居「いかけしごむ」の初日に向かう駅のホームで、マネージャーから電話をもらって聞いたんですけど、その時点でテンションが上がり過ぎちゃって(笑)。すぐに「氷魚ちゃんに連絡してもいいですか?」って聞いたんですけど、まだ氷魚ちゃんが知らされているかどうかわからないから待ってくださいと言われてしまって。
そしたら、その日の舞台が終わったあとに、氷魚ちゃんから「舞台、見たよ」っていう連絡が来たんです。そのときも言いたくて言いたくてうずうずしていました(笑)。
宮沢:僕はその数日後に、事務所に呼ばれて聞きました。「実は二人芝居の話があります」って言われて、「相手は誰ですか?」って聞いたら、「よく知っている人です」って言われて、佐助くんでした(笑)。
ただ、佐助くんとできる喜びはもちろんあったんですけど、佐助くんの二人芝居を見たばかりで、すごく大変そうだな、とも思っていたので、それを自分がやると考えると、少し怖くもありました。プレッシャーもありますね。
──大鶴さんは二人芝居においては先輩になりますね。
大鶴:1回だけですけどね。そのときは相手が姉で、演出家もいなかったので、稽古中に関係性がピリピリしたこともあったんですけど、今回は素晴らしい脚本もありますし、演出家のノゾエ(征爾)さんもいらっしゃいますし、そんなことにはならないと思います(笑)。
それに同性の友達との方が、作り上げるときのディスカッションもやりやすいと思うんです。なので、今回どう転がっていくか楽しみです。
宮沢:こういう先輩がいて頼もしいです。
大鶴:いやいや(笑)。
──ノゾエさんから何かお話はありましたか?
宮沢:ビジュアル撮影の日にご挨拶はさせていただいたのですが、まだ作品についての話はしていないです。稽古までもあと1ヵ月ありますし(※)、それぞれに考えてきたことを稽古場で意見交換できればと思っています。
大鶴:ノゾエさん脚本の作品をやったことはあるんですけど、演出は経験したことないんです。何度がお会いしてお話はしていますが、どういう演出をされるのかすごく興味があります。
※取材は7月に行われた。
──初めての演出家さんとやるときに、自分の中で心がけていることはありますか?
大鶴:とにかく初めての方とは話し合います。その方の色などもあるので、自分がこうしたい、というものを出すというより、相手の考えを汲み取ってアプローチしていくという細かい作業を大事にしています。
宮沢:僕は脚本を読み込んで、役を作っていってしまうタイプだったんですけど、何作か舞台をやらせていただく中で、ある程度作るのは大事だけど、固め過ぎてしまうと、外からの刺激や情報を受け付けなくなってしまう傾向があることに気づいて。だから、オープンでフラットな状態で稽古場に入れたらいいなと思っています。
矛盾した上に成り立っているのが現実
──今回の脚本はまだできていないそうですが、初演(2016年)の際の脚本を読んでの感想を教えてください。
大鶴:これは脚本にも、今の僕たちにも共通することなのですが、見えないものに怯えて疑心暗鬼になって、そこから疑うよりも決めつけるようになって、自分で壁を作ってしまう。この脚本の場合はそれがモンスターで、お互いに相手をモンスターだと思っているんですけど、面白いのが2人ともこの戦争が終わればいいと思っているところなんですよね。矛盾しているけど、矛盾した上に成り立っているのが現実だとも感じました。
それから、僕がいいシーンだなと思ったのが、お互いの穴に行って荷物の中の家族写真を見たときに、モンスターにも家族がいることに気づくところ。相手にも家族がいるということがわかっただけで、自分と一緒の人間なんだと結びつけられるんです。家族ってそういうものなんだと改めて感じました。
宮沢:どの時代にもプロパガンダというものはあって。人を洗脳することは、戦争下ではテクニックの一つでもあるし、今回のコロナウイルスのことに関しても、100%情報が出されているとは言い切れないし、都合のいいように情報を操作することは昔からずっとあって、それはこれからもなくならないかも知れない。
このお話では、そんな風に洗脳されていた2人が、お互いが同じ人間だと気づく。学級委員長をやっていたり、コンビニが好きだったり、本当に平凡な2人なんですよね。それって僕ら自身にも言えることで。相手も同じなんだと気付けるか、気付けないか、というのが、この作品の大事なところじゃないかと思いました。
──今回はお互いに敵役を演じますが、プライベートでも仲の良いというお2人にとってはやりにくいことですか?
大鶴:僕は逆にやりやすそうだなと思いました。今回は相手のことをよく知っていて敵と思っているわけではなくて、単純に敵がいるという情報を与えられて、殺せと言われているだけなので。それよりも同じ状況にいて、一緒の気持ちを持って共存しながらも、相手を殺そうと思っている部分に、(普段の仲の良さが)作用したら面白いんじゃないかと思っています。
宮沢:僕も演出によってどうなるかはわからないですけど、台詞を読んでいる限りでは、“個”と“個”で、お互いに面と向かって思いっきりやり取りするシーンもないから、そういう意味ではやりやすいんじゃないかと思っています。本当にいるかどうかわからない敵、何も知らない、誰だかわからない敵と向かい合っているので。
大鶴:この2人の関係で面白いのが、敵なのに、銃を撃って、撃ち返すことで安心を得ているところ。敵同士なのにお互いにどこかで相手に居てほしいと思っているんですよね。
宮沢:イメージとしてはトム・ハンクスさんの…。
大鶴:「キャスト・アウェイ」? (※)
(※)2001年に日本公開された、トム・ハンクス主演のアメリカ映画。搭乗していた飛行機が墜落し、一人で無人島に流れ着いた男性のサバイバル生活を描く。
宮沢:そう。バレーボールを人に見立てて過ごすんだけど、一人になるとそれくらい誰かが恋しくなる。何かでもいいから居てほしい、って。
大鶴:そうしないと保てなくなるんだろうね。
──今回の作品を通してやりたいことはありますか?
大鶴:今回の作品は二人芝居なのですが、ダイアローグではなくて、ほとんどがモノローグなんです。しかもそれがお客さんに対する語りのようなときもあるし、孤独過ぎて自分を保つために言っている独り言のようなときもあるし、詩的な部分もあるし、“色”が細かくわけられている。ノゾエさんの演出も含めてですが、ここをお互いにどんな色を使って表現するか、というのは、やってみたいですね。
中編では、この状況で舞台作品に出演する“覚悟”について、さらに、役者として、親友としての2人の関係性に迫っていく。
メイク(宮沢氷魚):KOSUKE ABE(traffic)