11月14日(土)の『週刊フジテレビ批評』は、「監督&脚本家は“大物ぞろい”も…?秋ドラマ徹底放談」の後編を放送。
監督や脚本家に、大物が名を連ねる今クールの秋ドラマ。
ドラマ解説者・木村隆志氏、日刊スポーツ芸能担当記者・梅田恵子氏、ライター・吉田潮氏というドラマ通たちが、秋ドラマを徹底的に斬った。
「クオリティNo.1」「自虐三昧」「根性が据わってる」と賛辞が並んだ『共演NG』
まずは、前週放送の前編で取り上げられなかったイチオシドラマから。木村氏が挙げたのが『共演NG』(テレビ東京)。
木村:これは、クオリティでは今期No.1だと思っているんですね。演出の大根仁さんの映像技術。カット割りとかカットバックを緻密に作っている。映像を見れば見るほど楽しめる。そのうえで、演技派の俳優たちに、しっかりと見せ場を与えるような、演技合戦をさせるような会話劇。あと、テレビ業界とかテレ東自身もイジってるんですよ(笑)。
梅田:(同業他社の)キリンとサントリーが「共演OK」で提供しているんですよね。そこらへんも、「わかってるな~」っていう。自虐三昧ですからね。テレビ東洋、略して「テレ東」という、弱小テレビ局の悲哀もよく出ていますし。劇中ドラマとの二重構造なので、どちらの結末も楽しめるというのもありますし。まあ、できれば、本物の“共演NG”も入れてほしかったなっていうのはありますけれど(笑)。
木村:あるかもしれないですよ、これからね。
吉田:(私は)常日頃から「テレ東応援隊」としてやっているんですけど(笑)、要するに“味噌っかす”なんですよ。全国ネットではないという部分もあって、根性自体が据わってるんですよ。フジテレビみたいに「昔キラキラしてた」みたいなのもないんです。
新美アナ:胸が痛いような…(笑)。
吉田:味噌っかすの根性と魂で、新しいことをやるといって『共演NG』を作ったというのは、私はすごく評価したい。
梅田が挙げたのは、『時をかけるバンド』(フジテレビ)。
梅田:今期、一番堂々とした青春ドラマなので。ある願いに導かれて、13年後の未来からやってきた男(三浦翔平)がガールズバンドを売り出すためにプロデューサーをやるという、バンドの成長物語であり、男の再生物語でもあるんですけれども。彼女たちのために必死になる男の理由というのが、結構せつないんですね。
吉田:これに関しては、三浦翔平の『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日)という、とんでもないドラマのイメージが強すぎて。「そのイメージというか、呪いを払拭するために、こっちか」みたいな。三浦翔平、お口直しバージョン。
木村:僕も深夜のドラマの中では一番好きです。今、若者たちが夢を追いかけるという話がないじゃないですか。こういうものは、FODとか深夜じゃなくて、月9でやってほしい。僕、毎回言ってるんですけどね。ここに「キー特性」(※)があるんじゃないか。
※フジテレビが視聴率の重点指標のひとつとして打ち出した視聴者層(13~49歳の男女)
『ルパンの娘』には「視聴率とは別の基準で続編を作った」「本来あったはずの世界観が…」と賛否
そしてここからは、イチオシには入らなかったが、これも捨てがたいというドラマを挙げてもらった。木村氏が挙げたのは、『ルパンの娘』(フジテレビ)。
木村:昨年放送されて、その時の世帯視聴率は7%程度。成功したとはいいにくい状況だったんですけれど、それにもかかわらず別の基準でしっかりと評価して続編を作った。ここに「若年層をしっかりと狙いにいくぞ」という、フジテレビの変化をしっかりと感じる。内容については、いっさい触れませんが(笑)。
梅田:私は、これはまったく推せない(笑)。「やっぱり“パート2の壁”はあるな」というのを感じさせられちゃいましたね。あれこれ詰め込み過ぎちゃって、本来あったはずの世界観が、もう身動き取れてないですよね。
吉田:今回は、ルパンの娘(深田恭子)の兄(栗原類)が気になるんですよ。つまり、「ルパンの息子」。引きこもりの、声をほとんど発さないところから、今回外に出始めて、婚活を始める。すごい成長じゃないですか。娘よりも息子の方が気になる。「視聴率とれないのに、まだ続けるんだ」と、最初思いましたけれども、なんと言われようと続ける根性がフジテレビにまだあった。そうなると、深田恭子が60歳になるまでやり続けるっていう、(目指すは)フジテレビ版『科捜研の女』。
梅田が挙げたのは、『メンズ校』(テレビ東京)。
梅田:今回は、深夜の青春ものに掘り出し物が多かった。なにわ男子が主演なんですけれども、ファン向けのドラマなのかなと思ったら…素晴らしい。自由を求めて、あの手この手で島からの脱走を試みるんですけど、毎回失敗するんですね。その中で、毎回誰かが成長していく。そこを直球で描いているところも素晴らしいですし、バラバラだった男子たちにちゃんと友情みたいなものが芽生えていく。
吉田は、『あのコの夢をみたんです。』(テレビ東京)を挙げた。
吉田:これは、南海キャンディーズの山里亮太、山ちゃんの妄想を描くみたいな触れ込みを聞いたときに、「山ちゃんの妄想なんて聞きたかねえや」って思ったんですけど、開けてみたら、意外に文学性が高いというか。一つひとつの物語が、まるで星新一のショートショートを読んでいるような。ちょっとハマっちゃったんです。あとは、主演の仲野太賀のポテンシャル。1話完結で、幅広い役をなんの違和感もなく演じきれる。
震災から10年というところで最終回を迎える『監察医 朝顔』
『監察医 朝顔』(フジテレビ)についても言及。
木村:第1弾は、単なる法医学ドラマではなく、本当に心温まるホームドラマが入ってくる。その割合が思っていたより多かった。そこに感動し、「家族のことを見守りたい」と熱狂的なファンが生まれた。続編を見ると、1話2話の段階では、まだ家族のドラマは、とってつけた感が出てしまっている。ただ、2クール放送で、震災から10年というところで最終回を迎える。挑戦的だし、画期的だし、どういう描き方をするのか。絶対に注目が集まるので、楽しみです。
梅田:主人公も、旦那さんも、お父さんも優等生。課題図書のような側面もあるところを考えると、あれこれ言うのも気を遣うな、という。この作品の肝は「震災を忘れない」ということだと思うんですよ。だから、チームが全員同じ方向を向いて、3月までやっていくという確かな意義があると思うので、そこは頑張ってもらいたいなと思います。
吉田:想像を絶する喪失感で、「頑張ろう、頑張ろう」とみんなが言う中で、やっぱり前を向けない人というのは確実にいて。その人たちを確実に救うドラマではある。だから、すごく評価したい真摯なドラマだとは思うんですが、絶賛すると、ちょっと偽善な感じがしてしまうし、ディスると、人として何か欠如していると思われるし。真面目な、茶化してはいけない作品だと思っているので。だから、最後まで一緒に走りますよ。だけど、並走はするけど、イチオシとかベスト3とか、そういう面では、取り上げませんという話です。
渡辺アナ:おそらくですが、次の「ドラマ放談」のときに、またこの『監察医 朝顔』、2クール目で、みなさんに感想をいただくことがあるかと思いますから、どんな心境の変化があるのか、楽しみにしたいと思います。
三者三様の意見が飛び出した3作品
そして『35歳の少女』(日本テレビ)、『先生を消す方程式。』(テレビ朝日)、『危険なビーナス』(TBS)という3作品についても取り上げた。
『35歳の少女』(日本テレビ)については…。
吉田:遊川和彦の突拍子もない切り口は大好きなんですけど、失礼だけど、個人的にどうしても突破できない部分があって。大の大人が子どもを演じるということに、すごい気恥ずかしさがあって、鳥肌が立っちゃうんですよ。そこを、乗り越えられない(笑)。
梅田:かなり劇薬的な感じのドラマですけど、ただ柴咲コウさん、うまいので、ちゃんと10歳に見えるんですよね。この子を通した、周りの再生物語だとわかってから、見やすくなりました。
木村:ヒロインの口(言葉)を借りて、日本や日本社会を説教するような場面があるんですね。遊川さんの脚本って、ちょっとそういうところがありまして。となると、日テレさんが狙っている「コアターゲット」(※)には届きにくいんだろうなと。
※日本テレビが視聴率において重視し訴求を目指す視聴者層(13~49歳の男女)
『先生を消す方程式。』(テレビ朝日)については…。
木村:鈴木おさむさんの脚本らしく、過激な展開ありきですよね。出し惜しみせずに、どんどん出す。どこまで持つか。息切れするか、こちらが諦めて見るかみたいなところが(笑)。展開で引きつける30分のドラマは、若年層には刺さりやすいので、土曜の夜にはアリだと思いますし、おさむさん自身もテレビドラマの脚本を続けてきて、ここらへんがテレビドラマでバズるというのを掴んできている感がある。
梅田:私は王道ものが好きなので、ちょっとどう楽しんだらいいのか。
吉田:1時間ものだと思って見てたんですよ。そしたら、30分だったってことにあとで気づいて。そのくらいギュッと詰まっていて、全然物足りなさもなかったですし、「意外に面白いじゃん」と思ったんだけど、田中圭だけで引っ張るの、厳しいですよね。そんなに、心揺さぶられるキーワードはないっていう。
『危険なビーナス』(TBS)については…。
吉田:体育会系な“日曜劇場臭”よりは、こっちの方が断然好きなんですけど、遺産相続だけで持っていくには、ちょっと厳しいですよね。もう1個フックがほしい。
梅田:主観ですけど、この原作は2時間サスペンスの尺だと、鮮やかに決まる作品だと思うんですね。あっちこっちで「これ必要かな?」というバトルを展開して…もったいない。
木村:(登場人物に)危険なビーナス…出てきます?っていう話なんですよね。います?タイトルに偽りありませんか?ミステリがあんまり動かなくて、サスペンス感もそれほどなくて。「何を目当てに見たらいいんだろうか」という。
吉田:“無難なビーナス”がコケちゃうと、ますます(同枠で放送の)『半沢直樹』チームが調子に乗るのがいやなんですよ。だから、できるだけ『危険なビーナス』を応援していきたいという気持ちはあるんですけど…(笑)。
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