母子家庭で育ち、幼少時代は国から食料支援を受けるような貧困状態にあったパックン。

そんなパックンが、日本の子どもの貧困の現状を取材しつつ、自らの生い立ちを振り返った著書『逆境力』(SB新書)を出版した。フジテレビュー!!では、1年以上にわたるパックンの取材に同行。その内容を連載でお届けする。

>>>【vol.1】両親の離婚がきっかけで貧乏になった。
>>>【vol.2】お母さんのため10歳から新聞配達。

今回は、貧困の調査や子どもの支援事業をおこなっている日本財団を取材。

日本の貧困の状況を説明してくれた、子どもサポートチーム担当の本山勝寛さん自身も、貧しい家庭で育ったそう。そんな境遇にあっても、東大、ハーバード大学院を卒業したという経歴の持ち主だ。

子どもの貧困のために日本社会は何をすべきか、パックンが話を聞いた。

「隠れた貧困」の実態

パックン:僕はハーバード大学を卒業しているんだけど、本山さんは東大を出て、大学院がハーバードなんですね。

本山:私は子ども時代、すごく家庭が貧しかったんです。母親が早くに亡くなったんですけど、父親はあまり収入がなくて。

大分県の公立高校に通っていて、部活の野球も続けるお金もなくなって途中でやめて、高1の途中からアルバイトをやりました。

高3で受験を決意してから、バイトを一切やめたんです。それまでバイトで月6万円ぐらい稼いでいて、それが全部なくなったので、収入がほぼなくなったんですね。

で、奨学金を借りていたんですけど、月1万数千円なので、食べものはお米とかキャベツとかばかりで、おかずもちょっとでしたね。

その時は、目標に向けて、すごく頑張れたっていうのはありますね。頑張って勉強して、結果的には運が良くて、合格できました。

自分ができたことを、自分自身の事だけではなくて、いろんな人たちに、自分と同じような境遇の子どもたちに共有して、勇気づけたいなっていう気持ちがすごく強くあります。

パックン:「自分と同じような境遇に置かれたお子さん」とおっしゃったんですけど、その貧困層の暮らしぶりを教えてもらえますか。世界3番目の経済大国で、「みんな普通の暮らしできてるじゃん」っていう錯覚があると思うんですけど、隠れた貧困の実態を知りたいです。

本山:「子どもの貧困」が注目され始めた2012年頃には6人に1人の子ども達、今では7人に1人と少し下がっているんですが、それぐらいの割合の日本の子どもが、いわゆる「相対的貧困」にあります。

食べたりすることができないわけではないけれども、周りと比較すると、かなり我慢しなければならないと。シンプルに言うと、世帯所得の中央値の半分で暮らしている家庭の子どもですね。

パックン:中央値って今どれぐらいですか?

本山:2人世帯の場合、年収400万円弱ですね。(3人世帯の場合は400万円強。)

パックン:ということは、その半分で、年収200万円弱の家庭ですか。年収200万円弱の生活ってどんな感じですか?

本山:安いところに住んで、何とか食べるっていう最低限度の生活は何とかやっていける。でも、それ以上のことはできない。それが、子どもの貧困の置かれている経済的状況です。

パックン:僕らが「みんな、できているだろう」って思うようなことで、実際、貧困層の皆さんができないことって何ですか?

本山:例えば、学校で必要な物を何とか買えたとしても、プラス塾に行ったり、習い事をしたりとか。あるいは、旅行に行くのは難しいという家庭が多いですね。

パックン:いまの時代、塾に行けなければ、なかなか、いい大学に行けない。高等教育を受ける機会が少ないから貧困から脱出する確率も低いと。

本山:そうですね。やっぱり大学の進学率、高等教育の進学率が低くなっているというデータはあります。

「頑張ろう」とか「夢を持とう」とか言う前に、始めから「どうせ難しい」「お金もないし、塾にも行けないし、勉強もなかなかできないので」と早い段階で諦めてしまうのが、現実の中で直面してしまう課題だと思います。

家、学校、第三の居場所

パックン:いま貧困層にある子どもが、5年後、10年後に中間層にしっかり入る大人に育つにはどうしたらいいですか。

本山:色んな対策があるんですけど、そもそも子どもって、勉強は基本そんなに好きではないじゃないですか。遊んでいる方が好きだと思うんですね。

でも、家庭で親が絵本の読み聞かせをしてくれたりとか、親が宿題を一緒に見てくれたりとか、親がお金だけではない、色んな支援をすることで、子どもって成長していくんです。

その部分が足りていない家庭が、特に貧困家庭では多いと思っています。勉強する習慣とか、宿題する習慣とか、何かに取り組んで頑張るという習慣が付く前に、色んな難しさを抱えているんです。

パックン:それどうするんですか。政府が、本の読み聞かせ担当を派遣するんですか?

本山:お金を給付するのは、予算があればできます。でも一番難しいのって、その子どもたちが成長するためのサポートを、どうしていくのかというところです。

いま日本財団で取り組んでいるのは、特に小学生の小さい子、低学年の6歳、7歳、8歳の子どもたちの支援です。

学校から帰ったあと家で一人ぼっちでいて、親の帰りも遅いので食べるものもなかったり、なかなか宿題もできなかったり。生活習慣そのものが身についていなかったりする子どもが現実的にはいらっしゃるんですね。

かと言って、いまの一般の学童だと、子どもたちがものすごく大勢いるんですね。70人、80人と。しかし、スタッフは少ないので、宿題ができなかったり、分からなかったりするとき、すぐに教えてもらえるような大人がいるかというと、なかなかそうでなかったりする。

そして、喧嘩をしてしまったりすると、学童にも通いたいと思えなくなってしまう。なかなか自分の居場所に感じられない、そういう課題があるんです。

ですから、日本財団はより手厚いサポートができるような学童を作ることに取り組んでいます。子どもたちの第三の居場所、サードプレイスですね。

パックン:家、学校、第三の居場所。なるほど。

本山:家では親もいないし、やることもなくて、居場所を感じられない。

学校でも、なかなか勉強についていけないし、友達ともうまくいかなくて先生にもよく怒られるので、居場所が感じられない。

でも、第三の居場所で、温かく迎えてもらって、楽しく遊んだり、宿題も見てもらったり、夕食も手作りのご飯を一緒に会話を楽しみながら食べられる。そんな子どもたちの第三の居場所を作っていくと。

パックン:うまくいっていますか?

本山: 3年前から始めているんですけど、だんだん広がってきて、いまま37拠点(2020年11月20日時点)にまで広がっています。そこでは、宿題をこれまでやったことがなかった子どもも、最初はやっぱりあっち行ったりこっち行ったりして落ち着けないんですけど、だんだん慣れてくると、座って宿題もできるようになったりしています。

あと、すぐに「死ね」とか「バカ」とか暴言を言ってしまって、喧嘩したり、問題児扱いされてしまう子どもも、じっくり時間をかけて話を聞いてあげたり、喧嘩を仲裁していくと、だんだん友達とも仲良く遊べるようになったり、友達のことを褒めてあげられるようになったり。そういう変化が出てきています。

パックン:素晴らしいねえ。でも国レベルでやろうとすると、絶対反論が出ますよ。全国でやろうとしたら、消費税が倍とか、所得税が1割アップとか、そこまでは言い過ぎだとしても、少しは上げないといけないと思うんですよ。

「僕の時代になかったのに、なんでいまの子がそれ必要なんだ」って怒る、がんこ親父が必ず出ます。それには、どう答えるんですか?

本山:この事業を始める前に、子どもの貧困対策を何もせずに放置した場合、どのぐらい経済損失があるかという試算をしたんです。

大学に進学できなかったり、仕事につけなかったり、結果的に仕事につけなくて生活保護を受けざるを得なかったりと、日本社会全体にも経済的損失になってしまうんですね。

それを積み上げて試算をすると、1学年あたり、2.9兆円の所得の損失と、1.1兆円の政府の追加支出が必要になってしまう。合計すると4兆円ですね。

0歳から15歳までにひろげると、所得損失が42.9兆円、政府支出が15.9兆円、合計58.8兆円もの社会的ダメージになる。

貧困家庭に対する支援には58.8兆円もかけないで、対策をできるはずなんです。つまり支援のために費やされる金額よりも、将来的に得られる金額のほうが大きくなる。これは将来リターンの見込める「投資」ですよね。

子どもたちが成長して、結果的には10年後、20年後、30年後のことになりますけど、納税者として社会に還元していくことになるので、いま多少税金がかかったとしても対策することの方が、未来の社会にとっていいんだと。

子どもって、大人が愛情をかけて、時間をかけてあげれば、成長すると私は信じているんです。

日本社会が本腰を入れて、責任を持って、子どもたちが成長できる環境を用意していくことは、国にとっても、本当に一番大事な政策なんじゃないかなと思っています。

パックン:辛い思いをしたから強くなることもあるし、本山さんも僕も、なんとかいいところまでこられたんですけど、みんなそうであるはずがない。

砂漠にまいた種は、1つ2つは生えてくるかもしれないですけど、やっぱり栄養たっぷりな土にまいて、丁寧に水をやって大事に育てた方がいい。

栄養のない環境で育つものも時々いるんですよ。でも、ちゃんと栄養を与えた方が、効率良く、最終的に作る側も喜びも大きいと思いますね。

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