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山麓から高山生態系への資源の供給
国立大学法人千葉大学
山麓から風や飛行によって運ばれた昆虫が、高山性鳥類の重要な餌資源になる
■研究の概要
千葉大学大学院理学研究院の村上正志教授と融合理工学府博士後期課程3年の飯島大智氏(研究当時、現 筑波大学生命環境系 助教/筆頭著者)は、長野県と岐阜県のあいだに位置する乗鞍岳(標高3,026m)をモデルの生態系として、亜高山帯や山地帯といった山麓から、高山帯(約2,500m以上)に運ばれる節足動物の高山性鳥類の餌資源としての重要性を検証しました。その結果、山麓から運ばれた節足動物は、高山性鳥類が繁殖初期に利用する主要な餌資源であることが明らかになりました。本研究の成果は、高山帯の生態系の成り立ちの理解に貢献するとともに、将来の保全策の策定に新たな視点を加えることが期待されます。
本研究成果は、国際学術雑誌Ecologyに2025年2月24日に掲載されました。
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図1.高山帯の景観。乗鞍岳では、標高約2,500m以上の森林限界より高標高域に成立している。
■研究の背景
隣接する環境は、資源や動物の移動を介して密接につながっています。一次生産(注1)が少ない高山帯(図1)では、消費者は乏しい餌資源環境のもとで生活することを強いられています。高山帯では、鳥類が残雪上に落下した節足動物を採食することが観察されます(図2)。それらの残雪上に落下した節足動物は、山麓の森林で発生し、風や飛行により高山帯に運ばれたと考えられています(図3)。
しかし、山麓から高山帯へ運ばれた節足動物の高山性鳥類の餌資源としての重要度を定量的に検証した研究はありませんでした。
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図2.高山帯の残雪上で餌を探すイワヒバリ
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図3.残雪上に落下したアブラムシの写真(右)と山麓から高山帯への資源の流入の概念図(左)
■研究の成果
本研究では、高山帯の残雪上で優占することが明らかになっているアブラムシ類を高山帯の残雪上と亜高山帯の林内で半月毎に採集し、両者の季節消長(注2)を比較しました。また、高山帯で繁殖する3種の鳥類(ライチョウ、イワヒバリ、カヤクグリ)の糞を採集しました。これらの鳥類は高山帯に縄張りを構築して繁殖するため、利用される餌生物は高山帯で摂取されたものと考えられます。そこで、塩基配列から糞の落とし主を特定し、DNAメタバーコーディング(注3)を用いて糞中に残存するDNAから餌生物を調べました。DNAメタバーコーディングではPCR(注4)を用います。餌となる分類群のあいだでPCRの増幅効率が異なるため、解析結果をそのまま用いて鳥類の餌の組成を定量的に評価することは困難でした。
この問題を解決するため、18目79種の節足動物からDNAを抽出し、等量で混ぜ合わせて擬似的な餌生物群集を作成し、糞のDNAメタバーコーディングと同様の分子実験および解析を実施することで、節足動物の分類群間のPCR増幅効率の違いを定量しました。得られた分類群ごとの増幅効率を用いて、鳥類の糞に対するDNAメタバーコーディングの結果を補正し、定量的に高山性鳥類の餌組成を評価しました。DNAメタバーコーディングで検出されたアブラムシ類については、種や属レベルのホスト植物情報を用いることでその発生源を特定しました。
その結果、高山帯の残雪上に多く見られるアブラムシ3種中2種の季節消長が、高山帯と山麓で同調することがわかりました。また、高山性鳥類の餌に占める山麓由来のアブラムシの割合の季節変化を調べると、6月にはその割合が約40%に達することがわかりました(図4)。
これらの成果は、高山帯と周囲を取り囲む森林がアブラムシの輸送を介して密接につながっていることを示しており、それらのアブラムシが高山性鳥類の繁殖に重要な役割を果たしている可能性を示しています。
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図4. 高山性鳥類の餌に占める山麓由来のアブラムシの割合。6月中旬には、鳥類が利用する節足動物のうち、山麓由来のアブラムシの割合が約4割に達した。実線は統計モデルで推定された割合の季節変化、灰色は95%信頼区間を示す。
■今後の展望
本研究は、高山帯に生息する生物種の個体数や生物群集、生物多様性の気候変動に伴う変化を正確に予測するための新たな視点を提供するものです。今後、資源の輸送を介した高山帯と山麓のつながりに着目し、気候変動に対する高山帯の生物多様性の保全を効果的に推進するための応用研究の進展が期待されます。
■用語解説
注1) 一次生産:植物などの一次生産者が二酸化炭素から有機物を合成すること。一次生産は、生態系全体の生物量や生産量を下支えしている。
注2) 季節消長:生物の個体数が季節の変化に伴って増減する現象。
注3) DNAメタバーコーディング:糞から餌生物のDNAを抽出し塩基配列を解析することで、餌生物を同定する手法。
注4) PCR(Polymerase Chain Reaction):DNAの特定領域を増幅する技術で、少量のDNAから目的の塩基配列を増幅する方法。
■研究プロジェクトについて
本研究は、下記の事業の支援を受けて実施しました。
・科学研究費助成事業 特別研究員奨励費
「気候変動に対する応答の生態系間ミスマッチは、高山帯の鳥類群集を崩壊させるのか?」
・科学研究費助成事業 特別研究員奨励費
「生態系間の資源補償が高山性鳥類群集の変化を促すか?」
・科学研究費助成事業 若手研究
「生態系間相互作用が高山性クモの個体群動態へ及ぼす影響とメカニズムの解明」
■論文情報
タイトル:Alpine birds in a sky island: resource subsidies from foothill areas.
著者:Daichi Iijima and Masashi Murakami
雑誌:Ecology
DOI:10.1002/ecy.70037
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山麓から風や飛行によって運ばれた昆虫が、高山性鳥類の重要な餌資源になる
■研究の概要
千葉大学大学院理学研究院の村上正志教授と融合理工学府博士後期課程3年の飯島大智氏(研究当時、現 筑波大学生命環境系 助教/筆頭著者)は、長野県と岐阜県のあいだに位置する乗鞍岳(標高3,026m)をモデルの生態系として、亜高山帯や山地帯といった山麓から、高山帯(約2,500m以上)に運ばれる節足動物の高山性鳥類の餌資源としての重要性を検証しました。その結果、山麓から運ばれた節足動物は、高山性鳥類が繁殖初期に利用する主要な餌資源であることが明らかになりました。本研究の成果は、高山帯の生態系の成り立ちの理解に貢献するとともに、将来の保全策の策定に新たな視点を加えることが期待されます。
本研究成果は、国際学術雑誌Ecologyに2025年2月24日に掲載されました。
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図1.高山帯の景観。乗鞍岳では、標高約2,500m以上の森林限界より高標高域に成立している。
■研究の背景
隣接する環境は、資源や動物の移動を介して密接につながっています。一次生産(注1)が少ない高山帯(図1)では、消費者は乏しい餌資源環境のもとで生活することを強いられています。高山帯では、鳥類が残雪上に落下した節足動物を採食することが観察されます(図2)。それらの残雪上に落下した節足動物は、山麓の森林で発生し、風や飛行により高山帯に運ばれたと考えられています(図3)。
しかし、山麓から高山帯へ運ばれた節足動物の高山性鳥類の餌資源としての重要度を定量的に検証した研究はありませんでした。
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図2.高山帯の残雪上で餌を探すイワヒバリ
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図3.残雪上に落下したアブラムシの写真(右)と山麓から高山帯への資源の流入の概念図(左)
■研究の成果
本研究では、高山帯の残雪上で優占することが明らかになっているアブラムシ類を高山帯の残雪上と亜高山帯の林内で半月毎に採集し、両者の季節消長(注2)を比較しました。また、高山帯で繁殖する3種の鳥類(ライチョウ、イワヒバリ、カヤクグリ)の糞を採集しました。これらの鳥類は高山帯に縄張りを構築して繁殖するため、利用される餌生物は高山帯で摂取されたものと考えられます。そこで、塩基配列から糞の落とし主を特定し、DNAメタバーコーディング(注3)を用いて糞中に残存するDNAから餌生物を調べました。DNAメタバーコーディングではPCR(注4)を用います。餌となる分類群のあいだでPCRの増幅効率が異なるため、解析結果をそのまま用いて鳥類の餌の組成を定量的に評価することは困難でした。
この問題を解決するため、18目79種の節足動物からDNAを抽出し、等量で混ぜ合わせて擬似的な餌生物群集を作成し、糞のDNAメタバーコーディングと同様の分子実験および解析を実施することで、節足動物の分類群間のPCR増幅効率の違いを定量しました。得られた分類群ごとの増幅効率を用いて、鳥類の糞に対するDNAメタバーコーディングの結果を補正し、定量的に高山性鳥類の餌組成を評価しました。DNAメタバーコーディングで検出されたアブラムシ類については、種や属レベルのホスト植物情報を用いることでその発生源を特定しました。
その結果、高山帯の残雪上に多く見られるアブラムシ3種中2種の季節消長が、高山帯と山麓で同調することがわかりました。また、高山性鳥類の餌に占める山麓由来のアブラムシの割合の季節変化を調べると、6月にはその割合が約40%に達することがわかりました(図4)。
これらの成果は、高山帯と周囲を取り囲む森林がアブラムシの輸送を介して密接につながっていることを示しており、それらのアブラムシが高山性鳥類の繁殖に重要な役割を果たしている可能性を示しています。
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図4. 高山性鳥類の餌に占める山麓由来のアブラムシの割合。6月中旬には、鳥類が利用する節足動物のうち、山麓由来のアブラムシの割合が約4割に達した。実線は統計モデルで推定された割合の季節変化、灰色は95%信頼区間を示す。
■今後の展望
本研究は、高山帯に生息する生物種の個体数や生物群集、生物多様性の気候変動に伴う変化を正確に予測するための新たな視点を提供するものです。今後、資源の輸送を介した高山帯と山麓のつながりに着目し、気候変動に対する高山帯の生物多様性の保全を効果的に推進するための応用研究の進展が期待されます。
■用語解説
注1) 一次生産:植物などの一次生産者が二酸化炭素から有機物を合成すること。一次生産は、生態系全体の生物量や生産量を下支えしている。
注2) 季節消長:生物の個体数が季節の変化に伴って増減する現象。
注3) DNAメタバーコーディング:糞から餌生物のDNAを抽出し塩基配列を解析することで、餌生物を同定する手法。
注4) PCR(Polymerase Chain Reaction):DNAの特定領域を増幅する技術で、少量のDNAから目的の塩基配列を増幅する方法。
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本研究は、下記の事業の支援を受けて実施しました。
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